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頭を少し冷やす意味でも、夜の風が心地よかった。

長く生きているが、今、自分が置かれている状況がとても信じられなかった。
が、しばらく様子を窺ってみて信じざるを得なかった。
大体の想像はついていたが、やはりどうしても信じたくなかった。

……しかし、とどめの景色が頭上に広がる。

塔の上に腰かけて、明るい夜空を見上げた。その姿を優しく月光が照らす。
――赤と青に輝く二つの月。

「確かに、世界を見て回るとは言いましたが……」

ハジは本塔の頂上に立って溜息をついていた。
辺り一帯の中で最も高い建造物。その頂上から辺りを見渡す。

周りは森に囲まれていたが、ハジには細く続く道路や、遠くに町の影が見えていた。

ふと、闇にまぎれて飛行してくる気配を感じ、そっと影に隠れる。
気配の主は背に小さい人影を乗せた大きな竜であった。
塔の近くに着地すると、竜に跨った少女が何やら杖を振い、ふわりと浮かんですっと消える。
窓から侵入したのだろう。

少女には見覚えがあった。
あの草原に召喚されて時に、複数の強い視線を感じたが、そのうちの一人だった。

消えた少女はこの学院の生徒。自分の雇い主に危害を加えることはないだろう。
若干力がこもっていた”普通の右手”を見て、苦笑する。
結局、流されるままに、シュヴァリエもどきの状況になっている。
小夜以外に仕えるつもりもないが、現状ではどうしようもない。

帰るあてすらないのだから。

ただ、この世界は静かで美しい。願わくば、自分達の将来もこの様な静かな世界であるように。

月明かりに照らされた、身じろぎもしない痩身の影が大地に刻まれる。
流れ星が流れる二つの月の下、夜空を見上げていたハジの姿がフッと消えた。


―― BLOOD+ゼロ 4章――


「起きてください」
耳に優しい、深い静かな声が聞こえた。
その声を聞いていると、全身を包まれているような気がして心地よかった。
子供の頃、中庭の池に浮かんだ小舟で毛布にくるまっていたことを思い出す。
当時は、そこだけが安息の地だった。
そして、今はベッドの中で毛布にくるまってぬくぬくと気持ちよく、まどろみの中にたゆたっていた。

ぽんぽん
肩口を叩かれる感触が、手放しかけた意識を再び覚醒に向かわせる。
ふと瞼に温かい光を感じる。

「う~ん、あともう少し」

ふにゃふにゃと毛布を頭まで引き上げ、再びまどろむ。
気持ちいい。
きもち……

……

ふと音楽が聞こえた。
耳慣れない豊かな音色。そして物悲しいような、静かな曲。
誰が弾いているんだろう。
目覚めの音楽など、初めての経験で、徐々に目が開いていく。

そっか、昨日は大変だったぁ。
使い魔の召喚で……

そこまで意識が戻ったルイズは毛布を蹴飛ばす様に跳ね起きた。
紆余曲折があって、晴れてルイズの使い魔となった人間。ハジ。

夢かも知れない。

目を覚ましたら、すべてが夢であって、使い魔は呼べなかった。
長く、詳細なディテールを詰め込んだ、自分の願望が夢になって出てきただけかもしれない。
そんな恐怖感がルイズを縛っていた。

ふっと、音楽が止んだ。

「起きましたか?」
静かな声がした。
恐る恐る声の方に顔を向けると、そこには椅子に座って、チェロと言う楽器を手にした青年がいた。

「ハジ?」
どこか夢うつつの口調でルイズが呟く。

「そろそろ食事の時間のようです」
「え、あ、うん、あ、あの…ありがと」
「いえ」

ハジはそう言うと、金属製のケースに楽器を戻し、流れるような動作でそれを担いでそっと部屋を出て行く。
昨日の夜も、ルイズが着替えようとすると部屋の外へ出て行った。
毛布を胸のところで抱え込みながら、気が抜けたように茫然と見ていた。
ばたんと扉のしまる音とともに、徐々に嬉しさが込み上げてくる。

(そっかぁ、わたし、ちゃんと召喚できたんだ、夢じゃなかった。うふ、うふ、うふふふふふ)

嬉しさの余り、思わず毛布に抱きついて、ベッドの上でニヤけながらのたうちまわる。

下男であれば着替えを手伝わす所だが、何故かハジにさせるのは気恥ずかしかった。
極めてもの静かで、貴族であるメイジを前に媚びる態度も、恐れる態度もない。そんなハジは平民でありながら
平民として扱う気にはなれなかった。

「いけないいけない。はやく着替えなくちゃ。」

そう言えばハジが朝食だ。と言っていたことを思い出し、服を着替えにクローゼットに向かった。
今日は着替えることすら楽しい。気分が浮かれる。姿見に一通り映してから、自分の顔を見つめる。
鏡の中の自分は、どことなく微笑んでいた。

「なんか今日はいいことがありそう」

そう声に出して振り返った時、そう言えば?と思いついた事がある。

「ハジの食事、どうしよう」

通常の使い魔の食事は、当然ながら食堂、ではなく野外か自室で適当に与えるのだが、さすがに人間は……

「昨日のメイドにでも聞いてみようかしら?」

じゃあ、ハジを連れて食堂に行か……連れて行ったらどんな騒ぎになるのかな?

なんとなく、その時の光景が目に浮かんで、楽しくなってしまう。
そっか、ハジがわたしの使い魔だってことはコルベール先生しか知らない。
今までバカにした連中がどんな反応するかしら?

部屋を出たら、ハジは扉の横に目を閉じてもたれかかっていた。

「おまたせ、さ、行くわよ」

なんとなく陽気な気分で宣言した時に、ガチャっと音がして、天敵が出てきた。
その天敵の女は燃えるような豊かな赤い髪をかきあげてニヤッと笑った。
陽気な気分が一瞬で吹き飛んだ。

「おはよう、ルイズ」
「おはよう、キュルケ」
「結局、その人を使い魔にしちゃったのね」
「な、な、な、なによ、悪い?」

固い声で挨拶を交わした後、口の端に笑みを浮かべたキュルケの言葉に、ルイズは何となく身構えるように一歩下がった。

「あっはっは、い~え。サモン・サーヴァントで人間を呼び出すのはあなたぐらいだわよ。さずがね、ル・イ・ズ
「うっさいわね」
「でも、奇麗な顔立ちをしてるけど、ひょろっとして弱そうね、大丈夫なの?
ひょっとして魔法が使えたり……するわけないわよね」

ルイズとハジの顔を行ったり来たり、じろじろと見つめた後、ルイズに顔を向けて、ふざけた様に鼻を鳴らし、
バカにする様な口調で言った。
痛いところを突かれたルイズはさらに一歩下がる。

「う゛」

キュルケがずいっと顔をルイズに近づけた。

「空飛べるとか?」
「う゛う゛」

ルイズがのけぞる様に後ろに下がる
更に追い討ちをかけるようにキュルケがにじり寄ってくる。

「火吐けるとか?」
「う゛う゛う゛」

ルイズが後退……、できなかった。
背後に立っていたハジにぶつかった。

「ひょっとして、ただの平民?」

キュルケが鼻が当たるくらいルイズに顔を近づけ、大事な秘密を打ち明けるような声で、しかしこれ以上なく笑った顔で聞いた。

「うううううっさいわねっ!ハジはねっ! ががが楽器が弾けるんだから!」

一瞬で真っ赤になったルイズが、拳を握って眼を閉じて叫ぶように言い放った。
それを聞いた途端、口に手の甲をあてて、のけぞるように哄笑した。
その高笑いが廊下中に響き渡り、階段にいた生徒達が、なんだなんだと顔をのぞかせる。
ルイズの血走った眼に、ギンと睨まれてすごすごとひっこめたが。

「あははははっ、そう? そうなの? 楽器が弾けるのね。 あははは、それはいいわねぇ。
じゃあ、さっき聞こえてた音楽かしら? あなたハジって言うの? こんな子のところじゃなくて、私の所に来ない?」
「キュルケッ!!!」

ハジの胸にしな垂れかかる様にもたれかかって、甘い声でハジの胸をつんつんとつつくキュルケを見た瞬間ルイズの中で
何かがプチンと切れる音がした。
二人の間に強引に割って入り、う゛~っと外敵から我が子を守る母犬のように、キュルケとハジの間に立ちふさがり、
ハジを背中にかばうようにしてキュルケを睨む。

「あっはっは、冗談よ、冗談。そんな怖い顔しないでよ。ル・イ・ズ。
でも、やっぱり使い魔って言うのは私のフレイムみたいなのじゃないとね。フレイム」
「ふ、ふんっ」

一瞬きょとんとした顔をしたキュルケだが、次の瞬間にはいつものふざけた笑顔に戻り、得意げに使い魔を呼ぶ。
キュルケの言葉にはじかれたように、真っ赤で虎ほどの大きさの巨大なトカゲが出てきた。尻尾がメラメラと燃えている。
それを見たルイズが一瞬言葉を詰まらせる。

「ほら、立派でしょ? 炎が奇麗でしょ? 火竜山脈のサラマンダーに違いないわね。うふふ」
「な、なによ、たかがトカゲじゃない」
「それを言うなら、あなたのは何のとりえもないたかが平民なんじゃないの。あ、そっか楽器だけは弾けるのね。良かったわね。
あら、いやだ、ルイズと雑談してると時間がなくなっちゃうじゃないの、先約があるのでお先に失礼」

精一杯の強がりでもって、口を尖らせるルイズを鼻で笑ったあと、キュルケはフレイムを連れて颯爽と去っていく。

「く、くく、くやしーっ! くやしーっ! くやしーっ!
ハジ、あなたはあんなこと言われて腹が立たないの!」

ルイズは、地団駄を踏むように顔を真っ赤にして、ハジを見上げた。
一連の最中、きょとんとした表情だったハジは、すっといつもの無表情に戻り、静かに言った。

「かまいません」
「ハジッ!」
「遅くなります」
「……もうっ」

返事を聞いて耳まで紅潮したルイズに向かって、気にしないでといった風に軽く頭を振ってハジが通路を指差した。
しばらく、顔を見ていたが、深いため息をついてから諦めたようにルイズが歩き出す。

自分がバカにされるのは慣れっこだが、自分の使い魔が貶されるのはどうにも腹が立った。
(もう、ちょっとは反論しなさいよ)
そう思いつつ、ルイズは食堂に向かった。


「立派でしょ?」
「ええ」

トリステイン魔法学院の食堂、そこは巨大な空間だった。全学院生と教師達がそろって食事できるほどの広さがあった。
開いた扉から一歩踏み込むと、そこは豪華絢爛な雰囲気に満ちていた。
そこかしこで織りなされる雑談の声が場内に満ちていたが、ルイズとハジが入ると、静寂が水に落とした墨汁のように
広がっていった。それに反して好奇の視線は痛い程突きささる。

微かに、(ゼロのルイズ)とか(人間の使い魔)とか(何処の国の人間?)とか、ひそひそ声が聞こえる。
自分と自分の使い魔が注目されることで、キュルケに打ちのめされた気分が少しは落ち着いた。
いつもの自分の席につこうとしたら、そっとハジが椅子を引いてくれた。
まさか、そんなことをしてくれるとは思ってもみなかったので、思わずびっくりした。

「あ、ありがと」
「いえ」

照れて赤くなった顔を見られないように、そっぽを向いたが、ハジはいつもと変わらなかった。

「え、どこへ行くの?」

ルイズが椅子に座ると、すっとハジが離れる。
一瞬で心細くなったルイズがあわてて尋ねると、ハジは黙って入口に近い壁を指差した。

祈りの声が唱和され、食事が始まった。
ルイズの周りの同級生も、なんとなく声をかけ辛いのか、ルイズが座ってないかのようにしゃべっていた。
使い魔の様子が気が気でないルイズは、ちらちらと様子をうかがうが、あの巨大な金属のチェロケースを担いだまま
いつ見ても身じろぎもせずに立っていた。
取り合えず、通りがかった昨日のメイドに食事の用意だけ指示したが、結局、ルイズは何を食べたのか
ほとんど味も分からないまま席を後にした。

「ルイズ? もうお食事は終わり?」
出がけに、入口近くの席に男子生徒に囲まれるように陣取っていたキュルケが笑いかけてきた。
嫌な予感がしたルイズは歩く速度を速める。

「そうよ、悪い?」

しばらく消えていたハジがいつの間にか、すっと横についてくれるのを頼もしく思いながら、扉に手をかけた。

「い~え、じゃあ、そこの平民の楽士さんの使い魔さんもまたね」
「……っ!」
笑顔で小さく手を振るキュルケの言葉で一瞬で血が上った。でも反論することもできず、ただ、思いきり
扉を閉めることしかできなかった。
出て行った後の食堂に響きわたる笑い声の合唱が、やりきれないほど悲しかった。
悔しくて悔しくて涙の滲んだ目でハジを見上げたが、ハジはいつものように静かな目で見返すだけだった。


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「はぁ……」

なんとなく休みたい気分だったが、根がまじめなルイズは、ずる休みをする気にもなれずに、教室のドアを開いた。
すでに教室で座っている生徒達が一斉にルイズとハジを見る。
そして、くすくすと笑いだす。
相変わらず男に取り巻かれて座っているキュルケもいた。
今日の授業の先生は事前の通達として、全員使い魔を連れてくるようにと指定していたので、その教室は使い魔でいっぱいだった。
ルイズは心底疲れたような表情で空いている席に座った。
もう、ほとんど習慣化して無意識と化しているハジ探索を行うと、やはり壁にもたれるように立っていた。

視線が痛い。食堂の一件で自分の使い魔が平民だ。ということが知れ渡っている。
どこか神秘的な目で見られていた自分の使い魔も嘲笑の対象になりつつある。

朝の予感は何だったのか。ルイズは泣きたくなった。

そうこうしているうちに、教壇に程近い扉が開き、ローブに身を包んだ恰幅の良い中年女性が入ってきた。

「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね、このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔を見るのが
とても楽しみなのです。それに、今回は特徴ある使い魔が多いとか」

はっと顔をあげたルイズは、使い魔を見聞していたシュヴルーズとばっちりと目があった。

「その中でもミス・ヴァリエールは、大変変わった使い魔を召喚したのですね」

何気ない一言で、たがが外れた様に、教室中が笑い声に包まれた。誰もが笑いたくてしょうがなかったに違いない。

「おかしいと思ったんだよ! だってゼロのルイズが召喚できるはずがないって」
「なんですってぇ」

どこかで聞こえた中傷の言葉にかっとなったルイズは、がばっと立ち上がって叫んだ。

「俺達だまされてたよなぁ、あの見た目に」
「もう一度言ってみなさい!!」

今度は違う方向から、聞こえる。
そうだそうだど同意の声が、そこかしこに沸き立つ。
そっちの方向に体ごと向いて、両手を握りしめて睨む。
ルイズは悔しくて、悲しくなった。
ちゃんと召喚して、ちゃんと使い魔になったのに。

「召喚できないから、その辺りで一番見た目がいい平民連れてきたんだろ!」

今度は前の方に座っていた生徒が立ち上がって怒鳴った。

「違うわ! きちんと召喚したわよ! でハジが出てきたんじゃない!」
「うそつくなよ、ゼロ……」

真っ赤になってどなり返したルイズに、立ちあがっている少し小太りの少年が睨みつけた。
続けて罵倒しようとしたが、いつのまにかルイズの横に彼女の使い魔が静かに立っているのを見て、言葉に詰まった。
ルイズは、その少年の視線を辿って初めて静かに佇むハジに気がついた。
ハジは微かにかぶりを振る。

「はい、そこの二人、ミス・ヴァリエールとミスタ・マリコルヌ、みっともない口論はおやめなさい。
お友達をそう悪し様に貶すものではありません」
「ミセス・シュヴルーズ、お言葉ですがルイズのゼロは真実です。貶しているわけではありません。」
「だとしても、先の態度は紳士淑女たるものが公然の場でとる行為ではありません。さ、では気分を変えて授業を始めますよ」

シュヴルーズが杖を振ると、二人は何かに抑えられた様にすとんと席に座った。
それを見たハジもゆっくりと元の壁際に戻っていった。

そんなルイズとハジの様子をキュルケは憮然とした表情で見つめていた。

「羨望?嫉妬?」
「そんなことあるわけないじゃないの。まあ、多少見た目がいいのは分かるけど、それだけじゃない」

横合いから聞こえてきた感情の薄い微かな少女の声に、顔を動かすこともなく答えた。

「そう?」

キュルケはその言葉には何も答えずに、授業を始めた教師の方を面白くもなさそうに見つめた


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「さて、それでは今説明したとおりの錬金を実演してもらいましょう、ではミスタ・グラモン、お手本を見せてください」
ミセス・シュヴルーズが錬金が得意なギーシュ・ド・グラモンを名指しする。
ギーシュはバラを振り回しながら、金髪縦ロールの女の子に笑顔を振りまきつつ教壇に立った。

「さぁ、この石を好きなものに”錬金”してください」
「聡明なる赤土のシュヴルーズ。僕を指名下さったことを光栄に思います。このギーシュ・ド・グラモン。
青銅の名に懸けて見事その役目を果たしましょう」
ミセス・シュヴルーズの言葉に芝居がかったセリフと恭しい一礼と共にバラをふるう。
教壇上の石は、青銅製のバラの花束に変わった。

「すばらしいですね、さすがですね。ではもう一人やってもらいましょう、ミス・ヴァリエール?」
拍手とともにギーシュを下がらせたシュヴルーズは、一瞬で硬直した教室の雰囲気に怪訝な顔をした。

「先生」
「なんですか?ミス・ツェルプストー?」
「危険なので、やめといたほうがいいです」
「は?」
「いえ、ミス・ヴァリエールの魔法は危険なんです」

手をあげて、立ち上がったキュルケが、困った口調だがきっぱりと言った。
教室の全員の首が同じタイミングで上下する。
錬金の魔法で何が危険なのかさっぱり理解できないシュヴルーズは、小首をかしげていた。

「あなた方を担当するのは今日が初めてということになりますが、ミス・ヴァリエールは努力家と聞いていますし
錬金で危険もないでしょう。さ、ミス・ヴァリエール、失敗を恐れてはなりません」

幼い生徒を導く使命感に燃えているシュヴルーズは、これぞ教師の醍醐味などと妙な感慨にふけりながらルイズを手招きする。
蒼白になったキュルケの制止を振り切ってルイズは教壇に立った。
シュヴルーズのアドバイスを聞きながら、しばらくの逡巡のあと、ルイズは手に持った杖を振り上げ、
短くルーンを唱えて、振り下ろした。

その瞬間、その教室のほぼすべての期待(?)に違わず猛烈な音を発して教卓ごと爆発した。

ルイズはいつもの衝撃にぎゅっと目をつぶっていたが、爆風も衝撃も襲ってこなかった。
恐る恐る目を開けると、目の前にハジの服があった。徐々に顔をあげると困ったような顔が見下ろしていた。

「あ、えっと」
「大丈夫ですか?」
「あ、え、ええ」

良く分からないまま教室を見渡すと、ミセス・シュヴルーズは爆風を受けてひっくり返って気絶しており、爆発におびえた
使い魔達が阿鼻叫喚の大騒ぎであった。
部屋中に爆発の爪痕が残っているが、不思議とルイズの周りだけが無傷だった。
キュルケの周りが比較的落ち着いているのは、風の障壁か何かを張っている為だろう。

「もしかして、かばってくれたの?」

一瞬だけ見えた、本当に微かなハジの微笑をルイズには宝物のように思えた。