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「見た?」
「見た」

燃えるような赤毛の少女の言葉に、好対照な印象の青い髪の少女は本をパタンと閉じて、こくんと頷いた。

周りは突然の爆発で使い魔がパニックを起こして、大騒ぎになっている。
冷静に会話できるものも、今の使い魔の不自然さを理解している者もいなかった。
例外はキュルケとタバサという名前を持つ青い髪の少女だけだった。
タバサが張った風の障壁で、二人はルイズの爆風から守られていた。

「さっき、あの使い魔は教室の後ろにいなかった?」

ルイズが杖を振る時までは、キュルケの視界のなかに彼女の使い魔の姿はなかった。
微かに縦に頷いた少女を横目にキュルケは表情を強張らせる。

「で、ルイズの呪文が始まって、杖を振り下ろす間に移動した……のよね、風の系統の魔法かしら?」

ルイズの使い魔は爆発の瞬間に、教室の上から下まで移動して彼女と教壇の間に割り込んで、
その身を挺してかばった。
ただの人間がそんなに速く動けるはずはない。何らかの魔法を使ったとしか考えられない。
しかし、魔法を使える人間となると、大半の国では貴族階級の人間となる。裏に回ったものは別にして。
キュルケはタバサに視線を向けるが、青い少女は静かに首を振る。
風の系統魔法に一瞬で転移する様な魔法はなかった。

「いったい何者?」

キュルケは、厳しい視線を爆心地に向ける。
そこには身を挺して主人をかばった黒い青年と、彼を見上げる桃色の少女がいた。

「うらやましそう」
「ばっ、バカね、何言ってるのよ」

呟くようなタバサの突っ込みに、慌てて首を振るキュルケだった。


―― BLOOD+ゼロ 5章――


ランプの明かりに照らされた部屋で、ネグリジェに身を包んだルイズがベッドの上で膝を抱えて座っていた。
壁際に置いた大きめの真新しいソファを見つめ、そこにかかったハジの上着を見つめながら、
昼間の出来事を思い出していた。

ミセス・シュヴルーズの錬金の授業での出来事。
いつものように爆発して、いつものように巻き込まれる。はずだった。
だけど、今日は違った。未だに実感の湧かない自分の使い魔。わたしを守ってくれる使い魔。
誰も聞いた事がない人間の使い魔だけど、ハジは身を挺して護ってくれた。

あんな怪我までして。

ハジの怪我の原因は、わたしの魔法の失敗による爆発と直前に行われたギーシュの錬金。
気取ったギーシュは青銅のバラの花束を錬金した。それがわたしの魔法失敗の爆風で跳ね跳んで、
ハジを傷つけた。
本体はどうもハジが叩き落としたみたいだけど、折れ飛んだ葉っぱの数枚が運悪く壁に跳ね返ってハジの
背中を襲った。
わたしをかばっていたハジは身動きもできずに、刃と化した青銅の葉っぱをその身で受けた。

ハジが背を向けた時にその怪我に気づいた。表情からは気がつかなった、全然変わらないんだもの。
それを見た途端、わたしの足はがくがくと震えた。
どうしよう、わたしのせいで怪我をして……
真白になったわたしは、『大丈夫です。』と強がりを言うハジをひっ捕まえて、医務室につれて行った。

でも、医務室の水のメイジからは、もう治したんだったら、わざわざ医務室まで来ないでくれと、
お小言を言われ、わけがわかんないまま、ハジの背中を見たら医務室に行くまでの間に怪我が
奇麗に消えていた。
誰かが通りがけに治癒でも施してくれたの?
でも、そんな親切な友達なんて……いない。

で、困ったのが、服。

ハジにあう服なんて、持ってない。
っていうか服が必要な使い魔なんて想像の範疇を超えるわ。
昼間のアクシデントでハジの上着とシャツまでばっさりと切れちゃった。
学院にも巡回の業者がやってくる。けど、新しく服を仕立てるとなると、
やっぱりちゃんとしたものを着せたい。
ヴァリエール公爵家の使い魔として恥ずかしくないものを……。
わたしの使い魔としても。

「今度の虚無の曜日にでも町に仕立てにいかないとね」

抱えていた膝から手を離し、ぱたんとベットに倒れこむ。
寝ながら顔を横に倒し、ソファに目をやった。そこの主は今はいない。

「少し出てきます」

そう言っていつものように大きなチェロケースを持って、しばらく前に部屋から出て行った。

「もう、使い魔は主人のそばを離れちゃダメなんだから」

徐々に眠気が襲ってきた。
予想以上に疲れた一日。
他のクラスメイトも自分の使い魔とこんなに緊張する関係をもってるのかしら?
小鳥とか兎の使い魔は、かわいいだけなのにね。

何処からかチェロの音色が聞こえてくる。ハジが弾いてるのね。
がちがちに固まっていた心が、そよ風が吹く草原にいるように楽になっていく。
なんだか困ったような顔をして弾いているハジが浮かんで、クスッと笑った後に意識は急速に
深い海へと沈んでいった。

ま、いっか。

-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

緊張するやら揶揄されるやら、露骨にからかわれるやらで、目まぐるしくも数日がたった。

例えば授業が終わった後の廊下で

「やーい、ゼロのルイズ! 今日も平民の使い魔は金魚みたいについてるんだね、あ、ちがった金魚のフンだ」
「なによ、鼻ったれのマリコルヌ」
「ぼぼ僕は風邪っぴきだ!」
「あってるじゃない」
「あ、ちがった、風上だっ!」
「似たようなもんじゃない」
「なんだよ、平民捕まえて使い魔にした癖に!」
「ふん、それを言うんだったら、あんただってどこかのペットを買ってきて使い魔にしたんじゃないの?」
「なんだとー」
「なによ」
「……食事に遅れます」
「え、えぇそうね、行きましょう。鼻ったれの相手してたらきりがないわ。
悔しかったらこんな主人想いの使い魔でも召喚してみなさいよ」
「ぼぼぼ、僕を、ぶぶぶ、侮辱したな! けけけ、決闘だ!!」
「いいわよ、望むところよ!!」

こんな感じで。
口角を飛ばして、お互い真っ赤になって、廊下の真ん中で舌戦を繰り広げる少女達を周りは囃し立てながら
観戦していた。
もうすでに、ルイズの舌戦は学院の恒例行事になっていた。
結局、見かねたハジが「放してー!」と叫ぶルイズを肩に担いで、スタスタと食堂に連れて行ったことで
その場は収まった。ただ、そのままの体勢で食堂に入った為、直後に食堂は爆笑の渦が発生した。


「町、ですか?」

夜、出て行こうとするハジを呼び止めてルイズは言った。

ハジはルイズが着替えようとするのを察知すると、素知らぬ顔をして部屋から出て行く。
ルイズはルイズで、ハジがいる前で着替えるのはどうにも気恥ずかしいので、出て行っても何も言わない。
でもちょっぴり心の奥底では見てもらいたいような微妙な感情も入り混じる。

「ええ、明日は虚無の曜日で学校はお休みなの、だから町に出てあなたの服を仕立てるわ。
破けた服の代わりを何着か用意しておかないとね」
「いえ、そこまでしてもらうわけには」

ハジの服は顔見知りになったシエスタと言うメイドにとりあえず洗って繕ってもらい、急場を凌いでいた。
そう言えばハジの食事の準備もずっとシエスタがしていたような気がする。

そのシエスタがハジを見る視線にあらぬものを感じて、何よ! ハジは私の使い魔なんだからね!
と妙にやきもきして胸がざわめいたのも事実だった。
しかし、まともに繕い物なんてしたことがないルイズは、わなわなと震えながらも、ぴくぴくと
眉を引きつらせながらも、何故か勝ち誇ったようなシエスタにハジの服を渡して修繕を命じた。
なんとなく、自分の持ち物を他人にが勝手に触っているような不快感だったがどうしようもなかった。

「何言ってるの、使い魔の面倒を見るのは主人の役目でしょ? それにハジは無一文じゃないの」
「しかし」
「え~い、つべこべ言わずにわたしの言うことを聞く」
「はぁ」
「そういえば、ハジは馬に乗れるの?」
「ええ」
「じゃあ、明日の朝から行くわ」

微かに戸惑った表情のハジだが、服がないのは事実なので不承不承ながらも納得したようだった。
その表情をみて、ルイズは明日という単語とお出かけという単語に心が躍るのを感じていた。
ちょっとした冒険みたいでわくわくする。

上機嫌のまま鼻歌交じりでクローゼットに向かったルイズだが、ドアを見つめてじっと立っているハジに
気がついた。
どうしたの? と声をかけようとしたら、ハジが黙って人差し指を口の前で立てた。
無表情ながらも、真剣な気配を感じて、押し黙ってしまう。
ハジが右手を手刀のようにそろえて顔の横で構えて、ばっとドアを開けると、そこには
薄いベビードールの上に真っ赤なガウンを羽織ったキュルケが聞き耳を立てるような体勢で立っていた。

「何の用?」
「あら、ちょうどいまノックしようと思ったところよ」
「嘘ばっか。どうせ聞き耳でも立ててたんでしょ。何しにきたのよ?」
「あらぁ、親交を深めようとするのは変かしら?」
「そんな気なんてさらさらないくせに」

慌てたのも一瞬、即座に立ち直ったキュルケは、むちゃくちゃ胡散臭そうなルイズの視線を無視して、
手に持ったワインを掲げて艶然と微笑んだ
ご丁寧にも右手にはワイングラスを二つ持っていた。
年代物よ~というキュルケに一人で飲めば? と心底嫌そうに迎撃したが、当の本人は、ルイズの
ささやかな反撃を柳に風と受け流し素知らぬ顔でずかずかと入ってきた。
ルイズにとっての不倶戴天の仇敵は豊かな胸を誇示するかのように、わざとらしくガウンを脱ぎ棄てる。

くっ。
密かに自分の胸を見下ろしたルイズはわなわなと、でも見えないように拳を戦慄かせる。

キュルケはわざとらしく、初めてハジに気がついたような表情をしたあと、ハジにしなだれかかって
鼻にかかった声を上げた。
その動作で、ルイズの右眉がぴくんと上がり、額にピキッと青筋が一つ浮かび上がる。

「あらぁ、ハジ、昨日は残念だわ。個人的にあの演奏を聞かせて欲しかったわ」

キュルケはハジの首に手をまわしながら、ちらりとルイズに流し目を送った。

「ハジッ! どういうこと!?」
「いえ、特には」
「私はいつでも待ってるわ」

キュルケの言葉に、弾けるように顔をあげたルイズは、ハジに詰めよった。
ハジは困ったような顔をしていたが、夜に中庭でチェロを弾いている時に、キュルケに誘われたことを
言葉少なに語った。
断ったんでしょうね? と見上げるルイズに苦笑を返したハジは「ええ」と静かに答えた。

「キュルケッ! 私の使い魔に手を出さないで!」
「仕方がないじゃない? 気に入ったんだもの」
「なんですって」

柳眉をあげるルイズに、微笑みながらキュルケは歌うように芝居がかった口調で続ける。

「恋は自由よ? ルイズ。 知ってるわよね? 私は『微熱』
微熱は情熱、情熱は炎、炎は燃え上がる愛。
松明が燃え上がる様に、火球が弾け飛ぶように、私の情熱の鼓動は舞いあがるわ。
この鼓動はどんな魔法でも抑えることができないわ。この身を焦がしていくの。
そして私はハジに恋したの。止めても無駄よルイズ。わたしは貴方の……って、あら?ハジは?」

キュルケは胸に手を当て、舞台女優の様に優雅に舞いながらハジに手を差しのべた……が、
そこには誰もいなかった。
きょろきょろと周りを見回すキュルケだが、ハジの姿はどこにも見えなかった。
燃え上がるような髪に手を突っ込んで耳の後ろをガシガシと掻く。

「貴方が、何も飲まずに酔っぱらってるからさっさと出て行ったわよ」
「なーんだ、つまんないの。まあ、いいわ、そっけなくされた方がいざという時に燃え上がるわ。この胸が、
誰かさんと違って情熱が詰め込まれた、この胸が燃え上がるわ」

ネグリジェに着替えながら、憮然と答えるルイズの前で、これ見よがしに自分の胸を突き出す。
何かがプチンと切れた様な音がした。
あら、何の音? キュルケがきょろきょろと顔を動かす。

「こここ……」
「あら、やだルイズどうしたの? ニワトリの真似なんかして」
「こここ……」
「こここ?」
「ここここからでてけー」
「いやん」

わなわなと震えていたルイズが手近にあった枕をぶん投げて叫んだ。
キュルケは笑いながら枕をひょいっとかわして優雅に歩いて出て行った。
ルイズが荒い呼吸を繰り返して、キュルケが出て行った扉を睨んでいたら、ひょいっとキュルケが顔を
覗かせた。
何よ?というルイズの鋭い目に、顔だけ突き出して嫣然とほほ笑んだ。

「あ、そうそう、言い忘れてたけど、簡単に許しちゃだめよ? あんたってすぐ雰囲気に流されるんだから」
「うるさいっ!!」
「あはは、じゃあ、ごめんあそばせ~」


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「それでは、若奥様、旦那さまの採寸は終わりましたので、お好きな生地をお選びくださいませ」
「だだだ、誰が旦那様よ!!」
「え? 違うのですか?」
「もういいわ」
「はぁ」

トリステインの城下町で最大であるブルドンネ街の、外れの広場に面した上品な仕立て屋。
貴族も時々利用するという珍しい店の主人はモノクルを掛けた侍従然とした初老の紳士だった。
物腰や言葉づかいから、どこかの貴族に仕えていたのだろうことは想像に難くない。
整然と壁一面に布地を掛けた如何にも仕立て屋という、あまり経験したことのない雰囲気に、
どこか落ち着かない様子のルイズは置いたばかりのカップに再び手に持った。

ハジの肩や背、裄丈に股下や胴、胸囲などありとあらゆる所を測っては記録し、いろんな方向から彼の服を
描いた紙を慎重に抱えて、老夫人が奥に引っ込んだ。

「こんなに採寸するものなの?」
「いえ、普通の仕立て屋はこんなにしませんよ。でも旦那さまの御衣裳は私も見たことがないくらい
繊細なものですし、型も初めて見るものですので、慎重に測らさせていただいております。」
「私にはよく分からないけど、そんなに繊細なの?」
「ええ、この素材の織の細かさや縫いの素晴らしさ。単純に見えますが最高級の職人を総動員して
作ったような服ですな。
正直、私どもの取り扱っている布地の中の最高級品でもここまで細かくはありません」
「へぇ」
「あと少なくともトリステインでは見たことがない型です、型から起こしますので、若奥様のおっしゃる
期日までとなりますと、1着できるかどうかです。」
「まあ、いいわ、とりあえず必要だから、出来上がり次第順次魔法学院まで届けて」

手付として新金貨で50を払って、ぐったりしたハジを引きずって仕立て屋を出た。
当初の目的は終わったけど、このまま帰るのは勿体無いとルイズは思っていた。
せっかく街に来たことだし、案内がてらいろいろと回って帰ろうと繁華街の方へ歩き出した。


そんな姿を赤と青の少女達が木陰から見つめていた。
いや青い少女は、木陰に座って本を読んでる。

「ルイズったら、服なんか買ってあげて気を引こうとしちゃってさっ、
昨日の今日で速攻でプレゼント攻撃? やるわね」

キュルケは爪を噛んでいた。まさか奥手のルイズに出し抜かれるとは思わなかった。
こうなったらルイズよりもインパクトがあって、ハジが喜びそうなプレゼントで気をひかないと。
そう考えていたキュルケは、ルイズとハジが見えなくなってから、慌てて仕立て屋に飛び込んだ。
しばらくして消沈して出てきた彼女は、相変わらず木陰で本を読んでいるタバサの横にすとんと腰かけた。
はぁとため息をついた彼女にタバサが、問いたげな視線を向けた。

「だめらしいわ、お金がどうこうの問題じゃないんだって」
「楽器」
「楽器はだめねぇ、もう持ってるし、あのチェロって言う楽器だっけ? あれに執着してるみたいだし」
「そう」

タバサの提案も、あまりいいものとは思えなかったキュルケはぼーっと木にもたれかかっていた。
友人が力なく木にもたれかかるのを見たタバサは指を挟んで閉じていた本を開いた。
見目麗しくうら若き若い貴族が、二人も広場の木にもたれかかって座っていることなど、
見たこともない近隣住人達は腫物を触るように遠巻きに近寄っても来なかった。

「何読んでるの?」
「イーヴァルディの勇者」
「へぇ、珍し……そうだわ!」

キュルケはタバサの答えを聞いてがばっと立ち上がった。
先ほどとは打って変わって、燃えるような生気をほとばしらせたキュルケが、タバサの腕を掴んで
引きずるように駆けだした。


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「うん、似合うわ。でもやっぱり場違いかしら」

ルイズは自室で、町で買ってきた服をハジに着せていた。
仕立て屋のやつではなく、当座の着替えとして買ってきた飾りっけの無い黒いフロックコートで
身を包んだ姿は宮廷楽師そのものに見える。
王宮にいるならば違和感がないが、魔法学院という状況にはふさわしくない。

仕方ないわよね、わたしも男の人の服なんて知らないし。ルイズは半分霧が掛った頭で考えていた。
往復で6時間も馬に揺られたルイズは、ともすれば閉じそうになる目を必死に開けていた。
ベッドの上にちょこんと内またで座り、両手でごしごしと目をこする仕草はまるで仔猫のようだった。

目を開けておくことがつらくなったので寝ようとすると、それを邪魔するようにドアがバンと開いた。

「ルイズ! ハジ! 起きてる?」

相変わらず挑発的なベビードールを着たキュルケが後ろ手に長い布包みを持って入ってきた。
その後ろから白いネグリジェを着たタバサが静かについてきた。
寝ようとしていたルイズは不機嫌そうにキュルケをにらんだ。

「何よ、こんな夜遅くに」
「何が夜遅くよ、まだ宵の口じゃない」
「で、なんか用?」
「ミス・ヴァリエールに用はないわ、用があるのはハジよ」
「あんた、また人の使い魔にちょっかい掛けるつもり?」

眠気も一瞬で吹き飛んだのか、ルイズはベッドから降りて腕組みをしてキュルケを睨みつける。
キュルケは艶然と微笑んだ。

「ちょっかいじゃないわ、恋愛よ。昨日も言ったように恋愛は自由よ。はい、これはハジにプレゼント、
私のゲルマニアの錬金術師シュペー卿の最高傑作ですってよ、ほら、美しいでしょ。でも貴方が持つと
もっと素敵になるわ」
「私に、ですか」

ルイズを半ば無視して入口の壁近くに静かに佇むハジに向き直ったキュルケは、後ろ手に持っていた
布包みをほどいて押しつけた。
そこに現れたのは流麗なレイピアタイプのフランベルジュだった。
細かい意匠も、流れるような柄も炎のように波打つ刃も、まるで美術品として飾られてもおかしく無い程の
キラキラと輝く剣だった。

「ほらみて、この形、炎をイメージしてるの。 『微熱』の騎士にふさわしいものだと思わなくて?」
「返して、ハジ」

戸惑ったような、困ったような表情のハジを、楽しげに見ていたキュルケの耳に、微かに震える、
怒りを込めたルイズの掠れ声が聞こえた。
ハジが返そうとする剣を押しとどめて勝ち誇った表情のキュルケは、刺すようなルイズの視線を悠然と
受け流した。

「あら、嫉妬はみっともないわよ。ヴァリエール」
「なななななんですってぇ、だだだだだれが嫉妬してるのよ」

手の甲で口を隠したキュルケは、おほほと笑いながら揶揄した、もちろん挑発のため。
この言葉で怒りで血管が破裂するんじゃないか?というぐらい顔を真っ赤にして両手を握りしめる。
わなわなと震えるルイズを面白そうに見ていた。

「ほら嫉妬してるじゃない、ねえ、ハジ。やっぱり剣も女もゲルマニアの方がいいわよ?」
「困ります」
「ツェルプストーッ! 」

これ見よがしにハジに寄りかかって、胸に手をあてたキュルケに向かってルイズは叫んだ。

「トリステインの女って、ルイズみたいに嫉妬深くって、ヒステリーでどうしようもないんだから。
今からでも私の部屋に来ない?」
「ああああああんたなんか、ただの色ボケじゃないのっ! 知ってるわよ、夜な夜なとっかえひっかえ
男を連れ込んで!
ゲルマニアで相手されなくなったからトリステインまで留学してきて、トリステインの純粋な男を
漁ってるんでしょっ! 色ボケ!」

キュルケの言葉に、切れたルイズが声を震わせながらも冷たい笑みを浮かべて挑発する。
心底頭にきているらしく、全身が小刻みに震えている。
ただ、ルイズの言葉にどうしても許せないものがあったキュルケは表情を消した。
強張った顔のキュルケがルイズを燃えるような目で睨む。真っ向から睨み返すルイズ。
二人の視線が音を立てて絡み合う。

「言っていいこと悪いことがあるんじゃない? ヴァリエール?」
「ふんっ、やっていいことと悪いことがあるんじゃない? ツェルプストー」

ルイズはゆっくりと机に置いてあった杖を手に取る。
キュルケも足に括り付けていた杖を手に取った。

「言ったわね」
「そっちこそ」
「「決闘よっ!!」」

二人は同時に杖をかざそうとしたが、突如部屋の中に吹き荒れたつむじ風に杖を跳ね飛ばされた。

「室内」

隅っこの方で騒動を横目に本を読んでいたタバサが、本から目を離し二人よりより早く杖を振っていた。

「何よ、この子、さっきからいるけど」
「わたしの友達のタバサよ、いてもいいじゃない」

忌々しげに呟いたルイズの胡散臭そうな目を睨み返しながらキュルケは口を尖らした。

「いい方法がある」

読んでいたパタンと閉じたタバサが、そう言い残して部屋を出て行った。
ついてこい。という意味なのだろうか。ルイズとキュルケは顔を見合せて、慌ててタバサの後を追い掛けた。

すっかり忘れ去られ、一人部屋に残された渦中の人は、手に持った剣を持て余しながら溜息をついた。

「どうも、私は巻き込まれやすい体質のようです、小夜」

しばらくすると、窓の外から少女たちの声が聞こえてきた。外で決着をつけるらしい。
再び溜息をついたハジは、窓を開けそこから飛び降りた。