じゃり。

じゃり。

幽かに砂利を踏んだ時のような擦過音がその空間に響き渡る。
風に揺られた葉の囁きにすら、掻き消されてしまう程の、幽かな音だった。
ただ、岩石を荒く突き崩したような通路では、他の音が一切途絶えたような絶界で奏でられた、その音は不安を掻き立てるような色を持って響き渡る。

足音がとまった。

「ふむ」

かすかに響いた声は、湖に落とした一滴の墨汁のように広がって消えていった。
それもそのはず、声が反響する壁もはるか彼方。
目の前には尋常ではない程の広大な空間が広がっていた。

空を見上げても星も月も見えない。

――ここは地下なのだから。

歩いてきた人間は何も光源を持っていない。
本来であれば暗黒の地下世界なのだが、今、そこには鈍く輝く光が満ちていた。
ちょっとした池程の広さがある、すり鉢状の大地が光の元の一つだった。
大地に刻まれた多重の刻印が、同心円状に複雑精緻な文様を描く刻印が、仄かに輝き、その中央には陽炎のように立ち上る赤黒い光があった。

それはまるで、一筋の炎の様に。
それはまるで、鎮座する塔の様に。

すり鉢状の刻印の中央に位置する、陽炎の塔は絶えず揺らめいてた。


――何かがいる。その炎の塔の中に、じっと様子を窺う巨大な気配がある。

どんなに鈍感な人間であっても、その場に立ってみれば感じてしまうだろう。
まるで陽炎の揺らめきが、その気配の鼓動のように、思えることを。
足が竦んでしまうほどの圧倒的な気配が立ち上っていることを。

それは汚染したモノであり、そして同じく汚染されたモノ。

「……ようやく、ようやくじゃな」

再び響いた声は、年季の入った口調とは裏腹に、張りがあり力に充ち溢れていた。
だが、その声音には、さ迷い歩いた砂漠でようやく水場を見つけた遭難者のような、疲れ果てた放浪者のような万感の思いが幽かに込められていた。

しばらく、身動きもせずにその光景を見ていた声の主は、何かを振り切るように軽く頭を振り、大きな地下の空洞へ足を踏み出した。

刻印と白い輝きと、どす黒い炎の塔の光に、その姿が浮かび上がる。
青味がかかった髪を撫でつけ、鋭い視線を浮かべた、彫りの深い端正な壮年の顔が。
その表情や醸し出す雰囲気には、濃厚なブランデーの様に、見る者を思わず引き込んで陶酔させてしまうほどの、強烈な存在感と魅力があった。
欧米人のような顔立ちとは似合わないはずの和装、長袴と十徳羽織に身を包んていたが、その痩躯には不思議と違和感が感じられなかった。
まるで何十年も着ているように。

「さて、そろそろ仕上げの段階じゃな」

和装の男は、ゆっくりと刻印の中央部にある、岩を削りだした祭壇に近づいて行った。
その手に、この場では違和感を感じるモノを持って。

間桐臓硯、500年を生きた魔術師。そして……


しばらくして、呪文が、何十小節にも渡るような呪文が響いた。

その直後に、すり鉢状の巨大な刻印の外側にストーンサークルの様に配置されている真新しい巨石の頂点を結ぶ、新たな刻印が浮かび上がった。


Chapter 31 警醒


私の夢なのに、なんで私の思い通りにならないんだろう。
なんで先輩と遠坂先輩が抱き合ってるんだろう。
その光景を見たとき、なにかが弾け飛んだ様な気がした。
とっても大事な何かが。
とっても大切な何かが。

「あれ?」

思わず、そんな心の声が空気を震わした。

「……なんで遠坂先輩が、ここにいるんですか?
いくら夢でもあんまりです」

よく見ると抱き合っている先輩と姉さんの他に、私の……、私をただ一人理解してくれた医師の姿もあった。

「メフィスト先生まで……」

その光景が納得できなかった。
すべてが姉さんの元に集まっている。
私の望んだもの全てが。
頭を思いっきり振って、いやな幻想を振り払おうとした。
その反動で、体が軋んで、激痛が走る。

「痛っ!」

「桜!!!」

先輩と姉さんが、もつれるように走り寄ってくる。まるで現実感がない。

ドクン
全身をハンマーで殴られたような衝撃が、その脈動が全身の激痛を呼び起こす。

「いやだっ! こないでっ!」

私の叫び声に驚いたのか二人の動きが同時に止まる。
そんなちょっとの動作に、仲良くしている二人の幻想が浮かび、どす黒い何かが心を満たしていく。

先輩はワタシをステて姉さんをエラんだのヨ
こんなみじめな姿を見られたくない

いやだ!いやだ!
視界に白い医師の姿が映る。お似合いの黒い人に寄り添うように立っている。

ソう、めふぃすと先生も私を捨テたのョ
こんなみにくい姿を見られたくない

いやだいやだいやだいやだ

なんで、遠坂センパイは私の欲しい物を全部持ってるんですか?
なんデ、姉さんはワタシの物をウバうんですか?

ネェさんさえイナケれば

姉さんさえいなければ

こんな……

心の奥底で響く声が徐々に、自分の声と重なっていく。
自然と、顔が下がっていく。
手の平を見つめる。まっ白い手には赤黒く輝く、炎のような線が見える。

「……なんでメフィスト先生が、こんなところにいるんですか?」
「愚問だな、私は医者だ。患者に呼ばれれば何処へでも赴く。ところで、外出はお勧めしないと言っておいたはずだが」
「すいません」

メフィスト先生はメフィスト先生だった。何も変わらない。
おびえもなく、嫌悪感もなく、その優しい声も、包み込む様な雰囲気も何も変わってない。

「……姉さんは、なんで先輩と、そんなところで抱き合っているんですか?」
「あのね、桜。私の話を聞いて」

姉さんは、固い声だった、そんな声なんて聞いた事がない。

いつも颯爽と、我が道を行く輝く人だった。
輝きに溢れ、光にあふれた、この世の全てを手中に入れた。そんな人。
眩しかった、誇らしかった。目が眩んだ。そして、私の理想。
だから、だから、地べたを這いずる虫のような私のことなんか分からない。
私がどれだけ、苦しかったか、どれだけ辱められたか、どれだけ犯されたか。
颯爽とした、奇麗な人に、泥だらけの、汚物にまみれた人間の想いなんて何も分からない。

だから

今の声にこめられてる、見下したような響き。

だから

全てを持っている人間に持たない人間のことなんて分からない。

だから分からないんだ。私のことが。

「……ひどいな。姉さんはいつもそう。そうやって自分が必ず上になって、私を見下すんです。自分は綺麗だからっ
て、汚れたわたしを見下してるんです」
「桜、落ち付きなさい!」

姉さん、そんな怖い声をしてもダメ。
もういい。

「ほら。また、私を馬鹿にした」
「桜!」

今度は先輩だった。
姉さんと同調するように、姉さんそっくりな口調。

そっか、先輩は姉さんに操られてるんだ。だから姉さんそっくりなんだ。
さっき抱き合ってたのもそう。操られてたから。
そっか。

「先輩は姉さんに操られてるんですよね?」
「桜、いい加減にしないと、怒るわよ」

姉さんの声に怒りの音色が含まれてくる。
こんな声の姉さんなんて知らない。
なんで私が怒られるの?怒られなきゃいけないの?
だって、悪いのは姉さんなのに。

「……姉さん? わたし、そんなに怒られるほど悪い子ですか?」
「ええ、心配かけっぱなしで、助けも呼ばないで一人でうじうじしてっ! 私と士郎がどれだけ心配してたか、あんたは分からないんでしょう!?」

そんな、おためごかしな言い訳なんて聞きたくない。
姉さんが心配してたなんて、うそ。
だって、いままでに、そんな言葉なんてかけてもらった事がないもん。
時折じっと、私を見つめて、当たり障りのない言葉を投げかけるだけ。
そんな姉さんが急に心配することなんて、ない。

「へぇ、姉さんは先輩を名前で呼び捨てにするんですね」
「悪い? って言うか、桜! あんたいい加減目を覚ましなさい!」
「また、怒られちゃった、うふふ」
「桜?」

姉さんの怒りの声も、耳障り。
先輩の心配そうな声も、もう聞きたくない。
だって、操られた言葉に”先輩”なんて無い。

もういい。

もう、何も聞きたくない。

「そうですね、私が悪いんですよね。」

そう、何もできなかった私が悪いの。

「私が、弱いのが悪かったんですよね?」

そう、何もできない程、力がなかった私が悪いの。

「私が、弱かったからいけなかったんですね?」

そう、私が弱かったから、汚物にまみれたの。

全部、私が弱かったから。

全部、私が悪いの。

だって……。


-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-


「しっかりしろ!桜!」

士郎の声も、桜には届いていない。

(アーチャー、士郎を止めて)

桜に飛びかかろうとする士郎は、途中で金縛りにあったように硬直する。
全身から汗を垂らすのが見えたが、それでも桜への呼びかけを止めようとはしない。
その姿は鬼気迫るものがあった。必死、悲痛、懇願、様々な感情が、士郎の言葉からほとばしっていた。

凛は臍を噛んだ。桜を落ち着かせるつもりでとった言動が結果的にまずい方向に向かっている。
あの、どす黒い気配がどんどん濃厚になっている。
桜の足もとの影も、数日前のあの中央公園で遭遇したモノに変わっていっている。
背筋を凍らせるような悪寒をが、全身に広がっていく。
鳥肌が全身を覆い尽くす、言い知れぬ嫌悪感に、緊張に口が乾いていく。

(セイバー)
(凛、サクラは……)
(手短に。セイバー、貴方はイリヤと藤村先生を安全な処へ連れて行って、アーチャーは士郎をお願い、影には注意して)
(ですがっ)
(いい? 私達にはアーチャーがいるから大丈夫、セイバーはイリヤ達を私の家まで連れて行って。私たちも直ぐに追いかける)
(しかしっ)
(セイバー、こんなところで令呪を使わせないで)
(……分かりました、すぐに戻ります)

ゆらゆらと揺れる桜から目を離さずに、念話で呼びかけた。
同時にアーチャーにも聞こえるように、回路を繋ぐ。
家までの道筋をイメージして伝えつつ、無意識のうちに宝石を数えて、表情が強張るのが分かった。
目の前の圧倒的な悪寒の前に、その手ごたえはあまりにも貧弱だった。

「うふっ、でも、もう私は弱くなんかないんですよ。姉さん。いっぱいいっぱいがんばりましたから」
「……」

顔をあげた桜。
その顔は、白磁の様に白く、禍々しいドレスは、暗黒のように暗く。
どす黒く輝く赤黒い刻印は全身を犯していた。
何よりも、その表情に浮かぶ気配はとてつもなく淫靡で邪悪なものだった。

いけない。

信じたくはなかった。
しかし、信じなければならなかった。

覚悟したくはなかった。
しかし、覚悟しなければならなかった。

桜が堕ちてしまったことを。
桜が手の届かないところへ旅立ったことを。

遠坂家の当主として、冬木の管理者として、堕ちた魔術師は”処置”しなければならない。
それが、例え妹であっても。

……それが、最後の家族であったとしても。

「あれ?どうしたんですか? 顔が青いですよ?」

(セイバーッ!)

声と同時に桜の足もとから槍のように影が伸びる。
念話で叫ぶと同時に縁側に飛び込んだセイバーが藤村先生とイリヤを両手に抱えて離脱する。
一瞬で塀を飛び越えて、両腕に二人を抱えているのを感じさせない速度で遠ざかる。
直後に暗黒がセイバーのいた場所を覆い尽くした。
しかし目標を失った影は、ビデオの逆回しのように即座に桜の足もとに戻っていく。

「うふふふっ、あははははっ、残念、逃がしちゃいました。おいしそうだったのに」

桜の哄笑が乾いた庭に響く。

「さっきは金髪で赤目の人を食べちゃったんですけど、いっつも食べてた普通の人と違って濃厚でしたよ」
「やっぱり……」

ふっと凛と士郎の体が宙に浮き、屋根の上に静かに着地する。
慌てて屋根から庭を見下ろすと、そこは真っ黒なコールタールの海のように見えた。
いつの間にか中央にぽつんと立っている桜だけが、奇怪なオブジェのように――

スライムのようにうごめく影を体に纏わりつかせたオブジェのように立っていた。

アーチャーの姿を探すと、衛宮家の敷地の外の電柱の上に黒いコートがはためいていた。
白い姿はどこにも見えない。ひょっとしたらコールタールの海に沈んだのかもしれない。

「いっぱい食べて強くなっちゃったから、もう、嫌なことは嫌って言っちゃうんです。
だって、もう、私は弱くなんか無いんです。ところで 姉さん。どうしてそんなに離れてるんですか?」

桜の顔がゆっくりと屋根に向いた。赤く輝く双眸が凛たちを射抜く。
不意に、その口が舌舐めずりをするように蠢く。

「桜、もうやめてくれ!」
「先輩。なんで、そんな顔をするんですか?」
「さくらっ!!」

士郎が屋根の上から、血が迸るような叫び声をあげる。
その顔は絶望に彩られ、頬を伝う涙は氷雨のように冷たく心を穿っていく。

士郎の”家族”。

桜はそうだった。士郎にとっては、居て当たり前の存在になっていた。
そして、守るべき人。
慎二は媚薬の影響だ。と言っていたがそんなことはない。
心の奥底に眠っていたものを顕わにしただけで、士郎にとっては大事な人だった。その時に気がついた。

なぜ、居て当たり前なのか。
どうして、いつもそばに居てくれるのか。
そして
なぜ、そばに居てくれると落ち着くのか。

そんな桜から吐き出される言葉は、あまりにも悲痛な槍となって士郎に突き刺さる。
言葉の剣が士郎の全身を切り刻んでいく。

話は聞いていた。
得体の知れない影のこと。そして異質すぎる影のこと。

そして、その影が、桜が放った言葉。
理由も何も分からない、でも士郎の直感は告げていた。目の前の影は”悪”だ。と。
そして桜の言葉は真実を告げている。と、即ち”喰った”ということ。

桜を護ろうとして守れず、悪夢で夜中に目を覚ましたこともある。
桜が慎二に連れ去られて、まだ一週間と経っていない。
その中でも、じりじりとした焦燥感があった。
ようやく会えた桜が……

「大丈夫ですよ、もう、私は先輩に守られてるだけの弱い子じゃありません。
先輩の一人や二人くらい護ってあげちゃいます」

餌を目の前にしたトカゲのような、冷たい笑みを浮かべて、ねっとりと纏わりつくような口調で喋る桜。
その桜は士郎に熱を持った視線を向ける。執着、執念といっていい視線は、まるで物理的な圧迫感を持って士郎に纏わりつく。

「桜、あなた……」

凛の喘ぐような言葉を押しつぶすように桜は言葉を続ける。もう、士郎しか見えていないように。士郎しかいないように。

「あ、でも、護ろうと思えば、そこの姉さんみたいな油断も隙もならないような人から護らないといけないんですね
……そうだ、いいこと考えた。先輩、私と身も心もずっと一緒にいてください。だったらいつでも護ってあげれますから。
ね、そうしてください。そうなったら、先輩も私も何も気にしなくていいですよ。ずっと一緒です」

その声と同時に黒い影が、壁を伝って、屋根に届く。
士郎に向けて放たれた影は、むなしく宙を攫む。

「どうしたんですか? 追いかけっこですか?」

凛達が門の上に着地する。
影が伸び、門を覆う。

「私、結構得意なんですよ。先輩、逃げないでください」

凛達が庭の折れ掛けた大木の上に着地する。
影が伸び、庭の大木を覆う。

「先輩は私と一緒になるんです、姉さんなんかに渡しません」

凛達が崩れかけた道場の上に着地した。
ふつふつと怒りを込めた桜が肩を戦慄かせる。同時に庭中に広がっていた影がいったん収縮し、桜の足もとでごぼごぼとざわめき立つ。

「桜!」

凛の鋭い声に桜の動きが一瞬止まった。

「今さら命乞いですか? 姉さん」
「いいえ、ちがうわ、下らない感情で堕ちた魔術師に警告よ」
「なんでしょう? この状況で、姉さんもおかしくなっちゃったんですか?」
「いいえ、この上もなく冷静よ」
「へぇ」

ひとしきり乾いた笑いをあげていた桜が、声を抑え、値踏みをするように凛を見つめる。
その眼には狂おしい程の憎悪と嘲笑がミックスされていた。

「士郎を殺すわ」

士郎の首筋に小さいルビーをあてながら、凛が宣言した。
凛の放った一言はその場を凍らせた、士郎は茫然と凛を見上げ、ビクンと肩を震わせた桜は暗い光がこもった赤い視線を向ける。
睨み殺すという表情があるなら、まさに今の桜がそれだった。
もともと繊細な美しい顔立ちだけに、その壮絶な表情は異常なまでの鬼気を発していた。

「動かないで、一言で起動するから。」

「……」
「貴方が取り込む前に、私が士郎を殺すわ、そうすればあなたと一緒なんてなれないはず」
「どうしてそんなことがわかるんですか?」
「”殺す”と聞いて貴方が一瞬躊躇したからよ。ちなみに、私は本気よ」
「人を殺したこともないくせに」

歯と歯の間から絞り出すような桜の声に、凛は淡々と答える。事実のみを告げる学者のように。
士郎がその言葉でびくっと体を震わせる。

「残念ね、そんなことくらい経験済みよ。私の同級生の貴方の兄をね」
「……そんなことをすれば、姉さんがどうなるか知っているんですか?」
「少なくとも、貴方は士郎を手に入れられない」

道場の屋根と庭の間で、悲しい姉妹の壮絶な視線が交差する。
物理的圧力が籠った視線はお互いを噛み殺さんばかりにせめぎ合う。
その均衡が唐突に破れた。

天空より、長い白銀の尾を伸ばした流星が衛宮家の庭に落ちた。
辺り一面に響き渡る轟音とともに、真白な天馬に跨ったライダーが飛び降りて桜の元に駆けよった。

「サクラッ!!サクラッ!!サクラッ!! 心配しました、だい・じょ…」
「運がいいんですね、姉さん。帰るわ、ライダー」

異変を感じたライダーの声が段々弱弱しくなっていく。
その声にかぶせるように、桜はライダーの方を向いて、背中越しに凛達に吐き捨てた。
ライダーに抱きついた桜は、次の瞬間ライダーごと消えて行った。

それを見送った凛と士郎は、がっくりと力が抜けたように、腰を落とした。

「なんで、桜が……」

ようやく体の自由が戻った、士郎は力なく頭を振った。

「桜……」

凛は、士郎の横で仰向けになって空を見上げた。視界の端にアーチャーが映った。
そのアーチャーはいつものようにぼんやりとした表情で遠くを見つめて呟いた。

「明日……か……」
その呟きは、誰にも聞こえなかった。