それは永遠の一瞬、一瞬の永遠。衛宮士郎の運命がそこにあった。
薄暗がりの埃が舞散る中、永遠が木霊した。

「問おう。貴方が、私のマスターか。」その声は銀色の月光。
「召喚に従い参上した。これより我が剣は貴方と共にあり、
貴方の運命は私と共にある。ここに、契約は完了した」その声は金色の剣光

時間は止まっていた。永遠の一瞬。
たとえ地獄に落ちようと、鮮明に思い返す事ができる。一瞬の永遠。

どこまでも穏やかな、しかし、あまりにも強烈な意志を秘めた聖緑の瞳。銀の鎧を身に纏った可憐な聖霊がそこにいた。

その姿は俺の魂に刻印された。


Chapter 4 顕現・士郎


「先輩、起きてますか?朝ですよ。」最近の日課だった。土蔵で余人には言えない鍛錬をして、朝になって起こされる。
「あ、おはよう、桜。いつもありがとう」感謝をこめて。
「いーえ、いいんです。私が起こしたいから起こしてるんです。先輩は気にしなくてもいいんです。」華やかな、しかし透き通る
ような笑顔だった。土蔵の中に咲いた花に、思わず見とれてしまった。

「先輩、まだ時間はありますけど、ここで寝てたら藤村先生に怒られますよ」
「ん、あ、そ、そうだな、でもほんとにいつもすまない。明日からはちゃんと起きるよ。」
「もう。でも私、頑張ってもらわない方が嬉しいです。」何がおかしいのかクスクス笑っている。
珍しい。今朝の桜は元気があって本当に嬉しそうだ。

彼女は間桐桜、同じ高校で一個下の後輩。同じ部活だった。ちょっとした事故で俺が怪我をして以来、こうやって毎朝来てくれる。
その怪我がきっかけで部活をやめたんだが、負い目があるのか今も変わらずこうして来てくれる。
怪我自体は事故から2週間もすれば治ったし、そもそも別に桜のせいで事故ったわけでもないんだけど。
素直に言って、桜は美人。一年生の中じゃダントツで次期ミス穂群原最有力。そんなかわいい子が目の前にいる。気にならないって
言えばウソだろう。ちょっと対人恐怖症で学校では暗いのが唯一の欠点か。

10年前の大火災で被災孤児になった俺は、養父となる衛宮切嗣に拾われた。それ以来オヤジと生活していたんだけど5年前に
逝ってしまった。以後、俺はこの町はずれの広い武家屋敷で一人で生活するようになった。与えられた訓練と鍛錬を日課に。

オヤジが金持ちだったのと、後見人の藤村の爺さんが居たこと。それからタイガーのお陰でなんとか生活できている。
「がぁっ、タイガーっていうなーーーーーーーーーー」
そうそう、こんな感じ。タイガーで姉(?)である藤村大河(通称:藤ねぇ)は俺の高校の先生+部活の顧問だ。なんて厄介な。

衛宮家の朝は毎日にぎやかだ、主に藤ねぇ。なんで、弟にたかるのか、お前の家はどこだ?
今日の食事は桜が作った。エプロンをつけた桜に見とれてしまったのは、ちょっと誰にも言えない秘密だ。俺も健全な男なんだー!
と心の中で叫ぶ。藤ねぇにばれかけたけど。
「桜ちゃん、最近きれいよね~っ、むふっ」「そ、そ、そうか?」何でこっちを見ながら言うんだ、バカトラ。

豪快に食事にがっつく藤ねぇを横目に
「桜、そろそろ朝錬に間に合わなくなるぞ?」「あ、ほんとですね。後のお片付けおねがいしていいですか?先輩。」
「まかせとけ、だから早く朝錬いってこい。」「はい。じゃぁ、いってきます。」
ん?何か違和感が・・・あれか。「桜、右手の包帯はどうした?怪我したか?」「あ、こ、これは家で火傷しちゃったんです。
病院にもいって見てもらったので大丈夫ですよ。」たたみかけられた。心配をかけさせたくないんだろう。
あんまり追求しないようにした。

桜を送り出し、藤ねぇを叩き出し、洗い物を済ませ登校した。ひとり暮らしが長くなり家事全般は苦もなくこなせるようになった。


学校に来た。いつも通りの一日。これからもこんな日が続くに違いない。
・・・・あのときは、そう考えていた。


「一成、いるか?今日は何の用だ?」生徒会室のドアをあけながら、中に居た生徒会長の柳洞一成に声をかけた。
「いるぞ。いやすまない、衛宮、実はな・・・」いつものように生徒会室で茶を飲んでいた一成が立ち上がる。
寺の子供で俺より地味な性格だが、見た目は穂群原No1を争っている。TVに出したらアイドルに・・・・想像しようとしてやめた。
一成がキラキラした服を来て髪を染めている姿は・・・・想像つかない。
「どうした、衛宮、顔色が悪いぞ。大丈夫か?」「いや、大丈夫だ、気にしないでくれ。で何だ?」呪いのようなイメージを振り
払って尋ねた。要はいつもの修理依頼だった。

俺が使える数少ない魔術の副産物、解析能力。これのお陰で分解しなくても、だいたい故障個所がわかる。
将来はF1のメカニックとかになったら、この力が有効活用できるな。と思いつつ、目の前のストーブをみる。特に難しくないな。

・・・

「次はどこだ?一成」といいつつ、美術部部室から出てきたら一成と女子生徒の姿があった。雰囲気はあまりよろしくない。
あ、2-Aの遠坂だ。遠坂はいわゆる穂群原のアイドル、成績優秀というかたいてい1番。帰宅部だけど運動神経抜群。容姿端麗。
理知的で品行方正。いわゆる理想、高根の花だ。当然ながら隠れ親衛隊も多い。まあ、俺もその一人だけどな。
「ちなみに、衛宮殿の会員番号は108番でござるな。煩悩の塊でござる。」おい、後藤君昨日は時代劇を見たんだね。だけどそんなメタなことはやめてくれ。

でも、遠坂、機嫌悪そうだな、一成と仲悪いらしいしな。

「次は視聴覚室なんだがいいか?」一成が声をかけてきた。「当然」そう言って歩き出した。
遠坂と視線があった、うぇ、何か言わないと・・・・うっ、「あ、遠坂、朝早いな」、顔が赤くなる。いかん即時撤退だ。
なんか遠坂、呆然としてる。うううっ、まずったか?

朝の修理を終えてあわてて教室に入ったら、慎二とぶつかった。
「朝からドタバタするなよ衛宮、痛いじゃないか。部活を辞めてから何をしてるかと思えば柳洞の太鼓持ち?僕には関係ないけど、ちょろちょろウザいんだよ。」
間桐慎二、一応中学からの友人で桜の兄なんだが、最近、特にカリカリきているようだ、いやなことでもあったか?見た目は良くて
一成と人気を二分している。まあ、慎二は見た目も性格もアイドル系なので、取り巻きとよろしくやっているようだが。
「慎二」「なんだよ」「カルシウム足りてるか?」なんか慎二がわめき始めたので自分の席に逃げ込んだ。

「遅刻、遅刻、遅刻、遅刻~~~!」といつつ藤ねぇが飛び込んできて、一日が始まる。
・・・タイガーに始まってタイガーに終わる生活だけは嫌だ。絶対嫌だ、家出してやる。

一日が終わる。夕食は俺が作って桜と藤ねぇと食べた。
最近、物騒なので桜を送っていくことにした。
「士郎~、狼になっちゃだめよ~」「な、な、何言いだすんだバカトラ」そのにやにや笑いをやめろ、藤ねぇ。
「たべられちゃいましょうか?」桜、頼むから理性に打撃を与えないでくれ。
「でも、先輩はお風呂にいっちゃってください。私は一人で帰れますから。」
「いや、最近物騒だから。しばらくは家まで送っていくよ」
「でも、その・・・兄さんに見つかると、先輩に迷惑をかけてしまいます。喧嘩になっちゃいます。」
桜の兄貴である慎二は、桜がうちに来ている事をよく思っていない。

「そんなことか、平気だぞ。慎二とは喧嘩ぐらいした方がいいんだ、お互いスッキリする。」桜が微笑んだ、なんか変なこと言ったかな?
「ありがとうございます。じゃあ、おくられちゃいます。兄さんのこと、よろしくおねがいしますね。」・・・なんだろ?急に明るくなったぞ?わからん。

桜の家は洋館の立ち並ぶ一角の中でも古い部類に入る。「遠坂先輩の家もこの近くなんですよ。」とは桜の談。
しかし「なんか、通い妻見たいですね。私。」と言ってから自分で真っ赤になるのはやめてくれ。理性の壁が崩れるから。

桜の家は衛宮家と反対側の住宅街の外れ。
家に近付くと桜の様子がちょっと変だった。怖がっているように見える。「どうした?桜。」「ぃえっ、いやっ、あ、あの、さっき誰かいませんでした?」不安そうに桜が言った。
何?ストーカーか?あたりを見回したが誰もいない。「誰もいないようだぞ」「そうですか・・」「どうしたんだ?」
「・・・いえ、最近見たことがない人をよく見かけるんです。・・なんか日本語おかしいですよね。」心細そうな桜を見て
「大丈夫か?なんかあったら警察でも俺の家でもいいから来い。」
「ありがとうございます。その言葉で十分です。」桜に笑顔が戻った。思わず見とれてしまう。
「しかし、どんな奴だ?」「金髪の、ちょっとカッコいい人です。」・・・・・反応に困る。どうしろと?

「先輩、ありがとうございました。」知らない間に桜の家に着いていた。幽霊屋敷見たいなんだが、明かりが漏れる部屋が・・2つ?
「あ、兄さんが帰ってきてるみたいですね。先輩、ここでいいです。じゃあ、お休みなさい」俺に迷惑をかけたくないのか、
あわてて家に入る。「お休み。桜、明日はバイトだから夕飯は無しで。」「はい、わかりました。お休みなさい。」

なんとなく、引っかかる。
踵を返して帰ろうとしたとき、何かの鳴き声が聞こえた。虫系の。・・・冬なのに冬眠してないんだな。

家に帰り、土蔵でいつもの魔術の鍛錬をして寝た。これが毎日の行事。


次の日の放課後、俺は新都にバイトに出た。親父が他界した後、生活費ぐらいは自分で出すとアルバイトを始めてもう五年。
今日はどうしても断れない作業が入ってるんだ。帰るのは遅くなる。

バイトが終わって、帰っている途中ビルの上に気配を感じた。気配の方向に目を向けてみると、・・何かいる。
・・・ちょっと眼に強化をかけてみよう。何も考えてなかったのが良かったのか珍しくかかった。ほとんど失敗するんだが。
視力が強化される。
あれは遠坂・・・か?なんで、あんなところに?
遠坂らしき人影は髪を靡かせて、地上を見ていた。ん?こっち見てる?まさか。人ごみの中の俺なんて識別できるわけはない。
魔術で強化して初めて見えるレベル何だし。・・・昨日あったことで自意識過剰になってるかな。
ま、いっか、帰ろう。

運命の日、俺の人生の分岐点。その日はたまたま厄介な修理をしていた。一成は寺の法要かなんかで先に返った。
「仕事を押し付けて先に帰るとは大変申し訳ない。埋め合わせは必ず。」申し訳なさそうにしている。
「気にするな。今度寺に行った時に、茶でも出してくれ。」いいから拝むな。一成。

ようやく終わったと思ったら、もう真っ暗だ。校舎の隅の理科準備室だったので、職員も俺がいるのに気がつかなかったようだ。
校舎の電気は非常灯を除いて落とされている。まあ、夜目は利く方だし、月明かりもあるから大丈夫だ。
さあ、帰ろう。
ん?遠くでなにか大きなものが落ちた音がする。校庭の方だ。

いやな予感がする。体の何かが叫ぶ、カエレ、イクナ、ミルナ、カエレ、イクナ、ミルナ。
内なる声を抑えてゆっくりと移動する。泥棒か不良の集団か・・・

校庭に何かがいる。人影?3つ?1つは低い・・・女?、一つは棒を持っている、一つは止まっている。
棒をもった影が大きく一飛びで移動した。ん?今のは人間で移動できる距離か?遠くてわからない。カエレ、ミルナ、カエレ、ミルナ
何?手にもった槍のようなものに魔力が溜まっていくのがわかる。

確かにまずい、逃げよう。そろそろと後ろに下がろうとしたとき、小石を踏んだ。ジャリっと音がした。ビクン。
影がこちらに向かってくる。やばい、逃げなければ。
来た道をそのまま戻っていく、準備室に逃げ込めば、隠れてやり過ごせる・・・
急に走ったので心臓が痛い。
「ここまでよく逃げたな。」ギク。後ろから声をかけられた。振り向いたら、青い影が・・・
「すまねえな、運がなかったと諦めな。」無造作に手にもったモノで突いてきた。「ちぃ、クソッ、何だよ一体」青い影は去って
いった。

・・・助かった・・・ガゴッ・・、え?体の前に水たまりがある。その水たまりにうつ伏せに倒れこんだ。体が動かない。
ああ、これは死だ。10年前に身近だった死。意識が遠くなっていく。
首筋に何か感触が・・「ふむ、血管ぐらいはどうにかなるが、凛次第か。」もう一つの声が聞こえる「なんだってアンタ・・・」
どこかで聞いたな、と思いつつ意識を手放した。

・・
・・・・
・・・・・・

ガフッゲフッゴホッ、口の中が気持ち悪い。濃密な血の臭いが気分悪い・・・俺は、生きてるのか?
気分は最悪だ、周りをみると血だらけだった。
とりあえず座った。それだけをしようとして何分かかったのか・・・少し落ち着いてきた。体も楽になってきた。
ん?何か落ちてる。でっかい宝石付きのペンダントか。ガラス玉?まあ、いい、とりあえず上着のポケットに入れた。
この血だまりをどうにかしないと。

血だまりを掃除して校舎を出た。きれいになったかわからないので理科準備室から酢酸の瓶を取り出してぶちまけてきた。
血の匂いはごまかせるだろう。血痕は・・わからない。

よろよろと家に向う。血だらけの恰好を不審がられないように人目に付きにくい暗がりを歩く。

なんとか家に辿り着いた。桜も藤ねぇもいない。助かった。
使い物にならなくなった制服や下着をゴミ袋に入れる。シャワーを浴び体をみる。心臓の少し下くらいに握り拳大の傷痕がある。
なんで、生きてるんだ。俺?あの声の主が助けてくれたのか?このペンダントの持ち主がそうだろうか?

服を着替え居間に崩れ落ちた。お茶でも入れよう。テーブルの上に置いてあったやかんを手に取った。
カランカラン、結界の反応音。げ、奴が来たのか?背筋がゾクッとした。ヤバイ。上だ。
思い切り縁側の方へ飛んだ。
「ち、気がつかなけりゃ、痛くなかったのによ。」青いボディースーツの男がいた。
「なんで、雑魚を2回も殺すかねぇ、俺は。」無造作に手にもった槍の石突きでついてきた。とっさにやかんで防御した。

やかんごと吹っ飛ばされ、引き戸を突き破り庭に転がった。ガラスの破片で体のそこかしこに切り傷ができた。
「あ~あ、面倒だ」蹴り飛ばされた。土蔵のほうに吹っ飛んだ。あばらが何本か折れたような気がする・・・
土蔵だったら鉄パイプでも木刀でも武器になりそうなモノがある。土蔵の中に逃げれるか。

その前に武器になりそうなものは、このひしゃげたやかんしかない。強化して硬度を上げれば少しはましか。間に合わない。
青い男が目の前に。
「くっだらねぇ。」また、蹴り飛ばされた。まだ、手に持っていた、というより手が硬直して離せない、やかんで防ぐことができた。しめた。土蔵の扉の前に・・・げふっ。その前に俺に体が持つかどうか。やかんが下腹部にめり込んだ。息ができない。

「八つ当たりしてすまんな、そろそろ楽にしてやる」青い男が穂先を向けた。残った力を振り絞り、土蔵の中に転がり込んだ、
文字どおり転がった。
「・・てめえの生き汚なさはいいねぇ、嫌いじゃねえぜ。」土蔵に入り込みながら男が言った。もう駄目だ。逃げれない。


・・・・なんで、こんなに簡単に殺されるんだ。ふざけてる。八つ当たりで殺されるのか?ふざけてる。
こんな簡単に死ねない。口に出ていた「こんなとこで死ねるかーーーっ!!」
その時、後ろで爆発的な輝きが閃いた。「何っ!ちぃっ!」青い男が槍を振りおろした。

それは、本当に。魔法のように現れた。目映い光の中、背後から現れた。
思考が停止している。
現れたそれが、少女の姿をしている事しか判らない。
「ギィィンッ」現れるなり、振り下ろされた槍を弾き、躊躇う事なく男へと踏み込んだ。
「七人目かっ!」槍の男は狭い土蔵から外に飛び出した。

雲が流れ、月が出た。土蔵に差し込む銀色の月光が、騎士の姿をした少女を照らす。

「問おう。貴方が、私のマスターか。」その声は銀色の月光。
「えっ?マ、マスター?」少女は何も言わず、静かに俺を見つめてくる。
痛っ、左手の甲に痣のような紋様があらわれる。それを見た少女は
「召喚に従い参上した。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに、契約は完了した」
「け、契約?」呆然と口にした。
「私はサーヴァント・セイバー、マスター、指示を」
「えっ」混乱した、何が何だかわからない。

ついっと少女が土蔵から出ていく。
外には青い男が待ち構えている。
「ま、まて」よろけながら後を追った。あんな少女があの男と戦えるわけがない。
「なっ」我が目を疑う。今度こそ、何も考えられないぐらい頭の中が空っぽになる。
そこには互角に打ち合っている青い男と少女が居た。
ギィン、ギィン、ギィン、剣戟が響く。
男は真剣だった。俺を殺そうとしていた時ととは明らかに違う。さっきのはあくびの間の片手間だったんだ。

手にした“何か”で確実に槍を弾き、間髪いれずに間合いへと踏み込む少女。
憎々しげに舌打ちをこぼし、男は後退する。手にした槍を縦に構え、狙われたであろう脇腹を防ぐ。
「ぐっ」防いだはずの攻撃があまりにも重かったのだろう。
少女の何気ない一撃一撃には、とんでもない程の魔力が籠もっている。まるで一撃一撃がバズーカーだ。
「見えない武器で攻撃か!とことん武器を隠すやつとは相性が悪いな」吐き捨てるように男が言った。

少女の攻撃が一段と増した。ギィン、ギ、ギ、ギ、ギ、ギィン。見えない何かで続けざまに斬りかかる。
「調子に乗るんじゃねぇ」数メートルも跳び退いた。
「どうしたランサー。後ろに下がっては槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私が行くが」鈴の鳴るような少女の声。
「へっ、わざわざ死にに来るか。・・・一つだけ訊かせろ。貴様の宝具、それは剣か?」獣のような雰囲気を纏った男が言った。
「さてな?斧か槍か弓かもな。」怜悧な雰囲気の少女が言った。
「ぬかせ、セイバー」男が獣のように体を沈める。少女はランサーの態度に戸惑っているが、俺は見た、校庭で。あれは・・・

暗くなってきた、月が隠れたようだ。

「一つ聞く。」「なんだ?」「ここらへんで終わりにする気はねえか?」「断る、貴方はここで倒す。」「そうかい、仕方がねぇ」
あの時と同じだ。あの槍を中心に、魔力が渦となって鳴動している。
「じゃあな。その心臓、貰い受ける。」獣が地を蹴る。一瞬で少女の前にあらわれ
「刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)ーーーー!!」放たれた槍は、少女の心臓に迸っていた。

少女は横っとびに飛んだ。赤い槍は突如軌道を変え、あり得ない形、あり得ない方向に伸び、少女の心臓を貫いた。
いや、心臓からはそれているようだ。
「グッ」血が流れている。今まで掠り傷一つ負わなかった少女は、その胸を貫かれ、夥しいまでの血を流していた。
「因果の逆転か」苦しそうに少女が言う。乱れた呼吸を整えている。流れていた血は止まり、傷口さえ塞がっていく。
「躱したなセイバー。我が必殺の一撃を」地の底から響く声、ギリッっと歯ぎしりを立てて少女を睨む。
「ゲイボルグということは光の御子か」その言葉を聞きランサーの殺気が薄れた。「ドジったか。有名ってのも考え物だ」
「ちっ、帰って来いか。クソ野郎。」トン、という跳躍。
「追いかけてきてもいいが、覚悟しろよ」といいつつランサーは苦もなく塀を飛び越え、止める間もなく消え去った。

「何?外にもう一体」少女が一瞬驚愕したが、胸に傷を負ったままランサーと同じように飛び越える。
「バ、バカかアイツ!!」全力で庭を横断する。

「セイバー、やめろーっ!」といいつつ門から飛び出した。

風が吹き、雲が流れ月光があたりを照らす。
一瞬時が止まった。

セイバーの前には、黒衣の影と、影に抱えられている少女がいた。
その少女をみて「え?遠坂?」呆然と言った。
「衛宮君?」遠坂も呆然と・・・・・

そこへ茫洋とした声が聞こえた。借りた十円を返すような、何でもない声。「おかえし。」

セイバーが飛びずさる。左肩から血が拭いた。肩が半分ほど切断されている。何?どうなってる?
セイバーが膝をつく。「ぐぅ」
「セイバー・・」声をかけようとした。突如左肩に激痛が走る。「がぁっ!!」
恐怖を覚え左肩を見る。すっぱり切れて血が噴き出している。
えっ?なんで?

「アーチャーやめて!!」遠坂の悲鳴が聞こえる。
「なんで攻撃するのよ」「切られたから」のほほんとした声が聞こえる。
「だったら何で衛宮君まで攻撃するのよ」「連帯責任」
「これ以上はやめて」「ん」

それ以上は、攻撃されないようだ。

今日は血を流しすぎた。セイバーは歯ぎしりをしつつ睨んでいる。飛びかからないのは何でだろう・・・・
意識を手放す直前に目の前にたたずむ天使を見た。黒い天使。魅了される。死ぬ前に来る死神はひょっとしたら、こんな天使では
ないだろうか・・・
遠坂が近寄ってくるのを見て、ぐらっと体が傾いだ。
「ちょっちょっと、ちょっと衛宮君!」
月が奇麗だ・・・
意識を失った。