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「すみません、シロウ。
しかし、貴方は聖杯戦争が何なのか、いまだにわかっていない。」

甘いマスター。それはそれで得難い物ではある。
しかし、私は貴方の剣となる。剣である以上、非情に徹するのは私であるべきだ。

深夜遅く、主の許可を得ずに飛び出した。キャスターであれば相性がいいはず、
強い風が吹いていた。
突き刺すような寒さも気にならなかった。目指すは柳洞寺。
地上を銀色の甲冑を纏った少女が走る。


Chapter 8 Side-A 彷徨・士郎


洗面所で桜が血のついたシャツを握っていた。
しまった。そう言えばシャツの処理なんか意識すらしたことなかった。
遠坂がここに置いていたんだろう。
「先輩、これは先輩のシャツですよね」
震える声で聞いて来る桜。
「い、いや、そ、それは、そ、そうそう、鼻血だ。ちょっと鼻血が出て思わずシャツで拭いたんだ。」
咄嗟にごまかした。
「こんなに鼻血が出たんですか?」
桜は震える手でゴミ袋(大)を指さす。その中にはシャツだの制服上下だの・・・・
・・・ごまかせなかった。
「ごめん、桜、ちょっと喧嘩しちゃってな、もう大丈夫だから。」
喧嘩というか殺されかけたんだけど。

「・・・先輩、それは遠坂先輩やセイバーさんが関係しているんですか?」
桜の一言に、ギクッっと効果音が出た気がする。
「関わっているような、関わっていない様な・・・」
ごまかしにもならなくなってきた。
「・・・遠坂先輩に怒られたと言ってましたけど、この件ですか?」
だんだん桜が下を向いて行く。
「あ、ああ、まあ、そんなとこだ。」
桜が泣いていた。
「先輩、そんな危ないことしないでください・・・・・
こんなに血を流して・・・
痛い目をして・・・
そんなの、だめです・・・・だめなんです・・・・
先輩は、そんなことしちゃだめなんです・・・・」
「さ、さくら?」
桜が顔を上げる、溢れる涙を隠さずに真摯な顔で言った。
「先輩はいっつも笑っていてもらわないとだめなんです・・・・・・」

その顔を見て俺は奇麗だと思った。
土蔵で朝日の中に立つ桜、料理をしている桜の横顔、藤ねぇと一緒に笑っている桜。
桜と過ごした日々がフラッシュバックし、同時に俺の中で、桜が掛け替えのない位置に落ち着いたのを感じた。

思わず抱きしめた。何故か俺も目が潤んできていた。
「っ、先輩?」
桜の体が強張った。戸惑ったような声。
「桜、すまない。心配をかけた。でも大丈夫だから。俺は大丈夫だから。」
だんだん桜の体から力が抜けていく。体をおずおずと、俺に預けてくる。
「桜を置いてどっか行ったりしないから。ずぅっと一緒にいるから。」
感情が高ぶっていく。
「・・せん・ぱ・・い・・・」
いつのまにか、見つめあっていた。泣きながら、でも微笑んでいるような不思議な桜・・・
愛おしいと思った。
「せんぱい・・・信じてもいいですか?」
「お、おう」
桜の顔が赤い、俺の顔も真っ赤だろう。
だんだん顔が近付く。


「しろ~、お腹すいた~っ、どこいったのよーっ」


あわてて離れた。
「・・・まあ、その、なんだ、とりあえず、食事しよか」
「・・・ハイ」
たまに見る透き通るような笑顔を見せて桜が答えた。

「先輩、約束してください。危ない目はしないって。」
わかった、と答えて洗面所から出た。


居間に戻ると、藤ねぇがお箸で茶碗をちんちん鳴らしていた。
「行儀悪いぞ、藤ねぇ」
「お腹すいたもん。ねーセイバーちゃん」
「ええ、確かに。」
セイバーが答える。ちょっと殺気立ってるのは何故ですか?後ろの壁がゆらゆらと陽炎のように見えるのは何故ですか?
「わかったわかった、すぐ準備するから。」
「で、桜ちゃん、何してたの?」
「えっ、えっ、いや、あの、その・・」
桜、真っ赤な顔してその反応は・・・・・


にぎやかな食事も終わり、桜は藤ねぇが送っていった。
俺が送ろうとすると、遠慮された。なんでさ。
危ないので藤ねぇが送っていくことになった。
「士郎、セイバーちゃん、おそっちゃだめよ。」
「バカッ、誰が襲うかっ!」
にゃははと言って出て行った。
「じゃあ、先輩、また明日。お休みなさい。」
なにか吹っ切れたような華やかな笑顔だった。


気分を落ち着かせ、もう一つの顔になる。

「セイバーちょっと話がある。」
お茶を淹れながらセイバーを呼んだ。


「・・ということは、学校に悪辣な結界が合って、それはキャスターのモノだと。」
「その可能性が高いということだよ。まあ、慎二の情報だけど」
「更に、キャスターは柳洞寺に居て、そのマスターがシロウの友人の可能性があると?」
「あくまでも可能性だ、一成がそんなことをするとは考えたくない。」
「さらに、サクラの兄のシンジもマスターですか・・・」
ギリっと奥歯を噛みしめるセイバー。
「シロウの友人の中に3人のマスターですか。これは異常です。マスター達の年齢も若すぎる。
なにか今回の聖杯戦争は異常な気配がします。リンのサーヴァントやイリヤスフィールのサーヴァントも。」

「シロウ、これからどうしますか?」
セイバーが真剣な顔をして聞いて来る。

「・・・・とりあえずは柳洞寺の調査をしたいところだけど、マスターが一成であれば話は通じるはずだ。
明日一成を捕まえて聞いてみる。」
しばらく考えて答えた。
セイバーが思い詰めた表情をしていたのが気になった。


Chapter 8 Side-B 彷徨・凛


「アーチャー、今日の夜は新都の方へ行くわよ。」
「これの件かな?」
アーチャーが夕刊の記事を見せながら聞いて来る。
『新都で通り魔!!女性10人が被害に!!』
笑えないタイトルだと思った。
「こっちにも吸血鬼はいるの?」
「え?アーチャーの居た世界にもいるの?」
「いるよ。住んでいた街には200人くらい居たと思うけど。」
茫洋とした雰囲気は変わらず。
「そんなに?」
絶句した。
「それって噛まれて吸血鬼になった人の数?」
「う~ん、元から吸血鬼がほとんどだったんじゃないかな」
神祖がそんなに沢山いるのか・・
「まあ、当主は知り合いだけど」
「・・・アーチャー、一体何者?」
頭を抱えながら聞いてみた。答えは予想してたけど。
「煎餅屋さん兼人探し屋」
予想どおりの回答だった。

今日は風が強いので、ちょっと厚着して10時くらいに家を出た。
アーチャーの黒いコートが翻り、やっぱり映画の1シーンの様に思える。

新都を見て回った。前回の失敗を踏まえ人目避けの呪を施した。「便利だね」とはアーチャーの言葉。
通り魔報道が効いたのか人はいそいそと家路についているようで、いつもは賑わう歓楽街も閑散としていた。

もうすぐ深夜零時になる。
「あとは駅前をちょっと回ったら帰りましょうか。」
駅前も特に問題がなかった。さすがに、この時間になると電車が到着した時以外は人が少ない。
「おとり使う?」
アーチャーが聞いてきた?
「何?おとりって。」
何でもない風で、歩いている女性を指さすアーチャー。え?
「な、な、な、何言ってるのよ、アーチャー、そんなことできないわ。」
場合によっては襲われて死に至るかも知れないのに、無頓着に歩いている人を囮にしようと言い出すアーチャー。
「そう?じゃあ、足で回らないと」
でも、効果があるんであればいいんじゃないの?と魔術師の面が言う。
私はどっちに進むのだろう・・・・

「あとはここね。正直、ここの雰囲気は嫌いなんだけど。」
中央公園の入り口の岩のオブジェに手をかけながら言った。
「瘴気が漂ってるね。それとも怨念かな」
気にしていないようなアーチャー。気分悪くないの?と聞いたら、別に気にならないと返ってきた。

公園の中にはいってしばらくして、違和感を感じた。
「ねぇ、アー・・」
振り返ってアーチャーに声をかけようとしたら、顔の横で火花が散った。暗くてよく見えなかったが、短い槍のような
ものを投げつけられたようだ。アーチャーがガードしてくれたのだろう。

「誰!!」

そういいつつ周りに知覚を飛ばす。宝石はポケットに入れた手の中だ。

知らない間にアーチャーが私を庇うポジションに立っている。その視線の先には・・・
「サーヴァント・・・」
かすれる声が出た。
紫の長い髪をした女性の影があった。両手に鎖付きの短い槍のようなものを持っていて目は顔の半分が隠れるような、
何かで隠されていた。
あれでは目が見えない、というより目を隠している・・・・ということは魔眼か。

「さすがに不意打ちしてもサーヴァントがいると駄目だな。」
聞いたことのある声。
「まあ、いい。遠坂、僕と組まないか?」
声だけ聞こえてくる。慎二の声。
「ふんっ、サーヴァントだけ出してマスターは隠れてるの?臆病者ね。」
挑発した。
「なんとでも言え。」
今度は違うところから声が聞こえてくる。

迂闊だった、慎二が魔術師だったとは。間桐の家系は閉じた回路しか持たないと思っていた。魔力も感じなかった。
しかし・・・・
サーヴァントを前面に押し出し、自分は安全なところに隠れておく。正しい。極めて正しい。

意外だった、慎二がマスターであったこともそうだし、挑発にも激昂しないし、定石手で来るとは。
慎二の性格からは考えられない。

「あなたと組む気はさらさらないわ。勘違いもいいとこね。」
言い放った途端、目の前のサーヴァントがすさまじい勢いで後退した。
後退する際に何かがぼとっと落ちた。アーチャーね。

「決裂か。ふん、まあいい、後で後悔しても知らないよ。戻れ、ライダー。」
なんとなく慎二の雰囲気ではない様な気がする。
女性のサーヴァントは即座に撤退したようだ、それも正しいと思う。敵ながら侮れない。
あれはライダーか。

「腕一本」
アーチャーがつぶやく。



「邪魔」
のんびりした声でアーチャーが言った。ぴうんと音がした様な気がした。
回りじゅうから、ぽたぽたぽたと音がした。何か軽いものが落ちた音。

「何?どうしたの?」
「ふむ」
アーチャーが私を片手で抱き、ランサーの時のように空中を滑って、あっという間に公園の入り口まで移動した。
「あそこを直径10mほど火で焼ける?」
私がさっき居たところを指さす。
なんでそんなことを言うのかわからないけど・・・アーチャーからのお願いだ。がんばりますか。
「あそこね―――――Anfang!! Es Brennen Sie das Gebiet dort aus!!」
ごうっという音が鳴って炎が燃え上がる。なんか臭う。
ついでに人払いの結界も張る。

「すごいね」
称賛の声と表情。いや、アーチャー、そんなに褒められても、火の元素系の魔術師だったらできると思うんだけど。
まあ、私はアベレージ・ワン。ふふん、私だったら当然よねっ。
あ、照れる。

しばらくして炎が消えた。

「で、どうしたの?アーチャー、なんで、あそこを焼き払えって言ったの?」
アーチャーが何も言わずに焼け跡に向かって歩き出した。
中心でしゃがんで、何か見ている。興味をひかれて行ってみた。

「う、こ、これは。」
ちょうど私が立っていた所に虫の集団があった、よく見ると焼け跡の中に無数の虫の死骸があった。
数が多かったので気持ち悪かった。ムカデやミミズ、ダンゴムシなどの他に、見たことない形の死骸もあった。
「虫使い・・・ね。」
サーヴァントと慎二の声で気を反らせているうちに蟲の魔術を使おうとしたのか。
知らずギリッと歯を食いしばる。

どうも、私は日常に慣れすぎたようだ。魔術師としての感覚が落ちている。こんな単純な策に引っかかりかけたなんて。
なんたる失態。顔がこわばる。
「アーチャー、周りにサーヴァントはいる?」
首を降るアーチャー。
「そう、じゃあ、いったん帰りましょう。」
帰り道は悔しさで一杯だった。
ふと、アーチャーをみると、なんとなく雰囲気が違う。
「どうしたの?」
「勘が鈍った」
ちょっと落ち込んでいるようだ・・・・


Chapter 8 Side-A 彷徨・セイバー


柳洞寺の山道の下についた、長い石階段を上ると山門がある。その奥が境内だ。
「ここまで来たか。」
知らず、硬い声がでた。
上の方にサーヴァントの気配を感じる。

「これは・・・」

私は前回の聖杯戦争の記憶を持っている。
シロウ、黙っている私を許してください。
シロウが語る切嗣と私の知っているキリツグ。あまりにもギャップがある。
戸惑っているうちに話し出す切っ掛けを失ってしまった。

前回の記憶と比べても柳洞寺の雰囲気が違う。土地の命脈が、既に汚されている。
しかし、進まなければ・・・

それは、長い石の階段だった。

矢のように駆け上がる私でさえ山門は遠い。敵に感知されず山門をくぐるなど不可能だ。
必ず奇襲がある。だが、どのような策略があろうと蹴散らして進むだけだ。
私はセイバー、剣で持って進路を切り開く。


あと僅かで山門に至るという時に、ソレは現れた。
さらり、という音さえする程の自然体。和服姿で颯爽と現れた男の姿はあまりにも敵意がなく、
信じがたいほど隙がなかった。

「むっ、気様・・・侍か・・・」
思わず呼びかけてしまった。
多くの英霊を見てきたが、あのような出で立ちをしたサーヴァントは初めてだった。


月が現れた。


月光の下、視えざる剣を構える私を前に、月を背にした男は私の殺気を涼風のように受け流している。

「今宵は月の元、美目麗しい御方が参られた。いや、行幸。」

大太刀を背中に背負った姿に、不用意に近づけなかった。直感が告げていた・・・
この敵は強い・・・と。

侍が口の端に笑みを浮かべた。