Interlude - 2 始動


「ねえ、貴方は私が呼び出したサーヴァント・・・でいいのよね?」
少女が恐る恐る尋ねてくる。強がってはいるが根は純真そうな印象を受ける。
「サーヴァント・・・」
頭の中に流れてくる知識をしばらく受け止める。
<新宿>でもツアー客に簡易的な情報インプリンティング処理がある。多分そんな感じなのだろう。
・・なるほど。
その知識と自分の置かれた状況を考えてみたが、やっぱり自分がサーヴァントという存在である点は変わらないようだ。
「どうも、そうらしいねぇ」
としか言いようがなかったが。

「そうらしいってどう言うこと?あなたは私に呼び出されて、ここに来たんでしょ?ならサーヴァントじゃないの。」
少女が少しいらだったように声を上げる。少々怒りっぽいのか精神状態が安定していないのか・・・
妖糸からは緊張が伝わってくる。
「君に呼び出されたの?僕は。」
一応確認してみる。
「あ~もう、他に考えられないじゃない。」
ここへ着たのは偶然ではなく、必然ということのようだ。不本意ではあるが役目を果たさなければ帰ることも
かなうまい。なかなかに”世界”も無理難題を吹っかけてくる。
まあ、どうせなら、仕事として引き受けるか。仕事であれば割り切れる。
少々窮屈な仕事ではあるが。
「そうか、君に呼び出されたのか。ということは君が依頼人ということでいいのかな?」
少女のほうを向いて聞いてみる。半ば独り言だった。
「依頼人でもなんでもいいわ、私がマスターでいいのよねっ!」
「ふむ」
サーヴァントとマスターの関係はなかなかに緊張感がある関係らしい。特にサーヴァントであるがゆえに
強制されることも少ないようだ。”聖杯”さえ絡まなければ。

「で、あなたは何のサーヴァント?セ、セイバーかな?セイバーよね?」
期待を持っているような、焦っているような声が聞こえる。感情が良く表に出る少女だ。
「セイバー・・・?」
セイバー、サーヴァントの中でも剣の騎士のことらしい。
しかし・・・知識から読み取れる自身は・・・
「アーチャーだって。」
妖糸が射撃武装と拡大認識されたらしい。とはいえ、他に空いているクラスも無かったから結果的にこうなっているようだが。
まあ普通のサーヴァントと違ってクラスなど大した問題では無いだろう。
しかし、セイバーではないと判った少女の落胆は激しかった。

はて?

しばらく会話が続いたが、基本的に少女は頭が良く割り切りも良いようだ。
しかし、一般人だという誤解は解けていないらしい、まあ”一般人”に違いは無いので特に異論もない。

「これからどうするの?新宿までなら新都から電車に乗れば新幹線の駅まで行けるわよ。なんか手違いで呼び出した見たいだから電車賃は私が持つわ。でも記憶は消させてもらうけど。」
「帰れない。」

まあ、そのうちお節介な藪医者がやってくるかも知れないが、今は帰る目論見すら立っていない。

「なんで?ひょっとして家出?」
「新聞を読んでわかったけど、僕はこの世界の住人じゃない。」

この言葉で少女は愕然とした顔をした。やはり、こちらの魔術師でも違う世界への移動は困難なのか。

「ここは貴方の住んでいる世界ではないの?」
「そうだね。僕の住んでいたところと違う。」
「ごめんなさい、英霊でもないのであれば私の召喚魔術が間違ったみたい。貴方が帰ることができるように努力はします。それまでの間、ここで生活していただいて、かまいません。」

少女なりのけじめらしいが、”魔術師の家”だからという安心もあるのだろう。

「でも依頼を引き受けましたので、仕事を終わらせるまでよろしく。」
「依頼って?」
「聖杯を探すことと、貴方の護衛。」
まあ、少女の目的と”仕事”は近いものがある。せっかく”聖杯戦争”に編みこまれた流れだ。乗ってみるのもいいだろう。


そして・・・


「私は遠坂凛。この家の主で冬木の管理人をしてるわ。貴方の名前を聞かせてくれる?」
「秋せつら」
これでサーヴァントとして活動する基盤が整った。