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 穏やかな昼下がり、洛陽の街を一組の男女が周囲を見回しながら歩いている。
 人目を引く、独特の光沢のある白い服を身につけた男の方は、整った顔立ちながら、どこぞの若旦那の様な、
のんびりとした表情で、あちらこちらの商店に眼を向けていた。
 そして、片割れの少女の方も十二分に目を引く出で立ちだった。華奢な体を銀色の胸甲と手甲で覆い、長い
銀色の髪を三つ編みにしている。
 太平楽な若旦那と違い、鋭く尖った剣の様な雰囲気を身にまとい、獲物を逃さぬ鷹の様な視線は、道行く人
々に向けられていた。
 一見すると、どうにも違和感のある二人ではあるが、実はこの町の住人にとっては、この二人が連れだって
歩くこと自体は見慣れた光景でもある。
 事実、道ばたで遊んでいた子供達が二人に気づいて手を振り、時折住人達が感謝の会釈を向ける。
 その時ばかりは少女の鋭い視線も柔和な光を帯び、微かな笑みを浮かべる。
 そう、彼等はこの洛陽の街の治安を維持する、警備隊の隊長と副隊長その人だった。

 一刀は、いつものように凪を引き連れて警邏に出ていた。くだらない雑談や、どこの店が美味しいだの何だ
のと言いつつ、広大な街区を回っていく。
 一通り異常が無いことを確認して、一旦休憩に。と凪を誘って街の茶屋に寄った。
 同じく部下であり副隊長である沙和や真桜と違って、凪は物静かであった。だから沙和達の場合と違って、
一刀の方が話役になる場合が多い。
 茶屋で、茉莉花茶と団子を前に、世間話を繰り広げていた一刀だったが、凪の様子にふと違和感を感じた。

「ん、どうした? 凪。ぼーっとして」
「……」
「ん?  凪? おい」
「……っ! は、た、た、隊長っ!」

 湯飲みを手にしたまま、凪が自分の顔をぼーっと見ていることに気がついた一刀は軽く小首を傾げる。
 声をかけても、目の前で軽く手を振っても反応を返さない凪を訝しく思い、軽く額をつついた。
 つつかれて、ようやく我に返ったらしい凪は、びっくりしたように目を見開いて一刀を見つめる。
 しばらく状況が掴めなかったのか、不思議そうな表情を浮かべていたかと思うと、一瞬で顔を茹で蛸のよう
に真っ赤にして、慌てて視線を落とした。

「どうしたんだよ、凪? 調子悪いのか?」
「あ、い、いえ、そう言うわけではありません」
「んー? ならいいけど、あまり無理はするなよ」
「……はい」

 耳まで真っ赤に染まりながらも、どことなく考え事をしているような、消沈しているような凪の様子に、一
刀は話を向けてみるが、芳しい成果はなかった。しばらくして顔を赤らめたまま、大丈夫です。と言いつのる
凪に、一刀は仕方ないなと引き下がった。後で沙和か真桜辺りに聞いてみるか。と想いながら。

    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 警邏が終わって、別件で先に帰った一刀の分も、各地区の隊員達の報告を聞き、引き継ぎを終わらせた凪が
戻ったのは、夕餉の香りが漂い始める頃だった。
 城門の衛士の敬礼を受けて、無意識で頷きながら、凪は想いを巡らしていた。
 いつの頃からだろう、自分の中の感情に気がついたのは。それが単なる敬愛で無くなっていたと悟ったのは。
 おまけに、一旦、自覚してしまったら、後はその気持ちを否定することも、抑えることも出来なくなってい
た。
 何かの拍子に、ふと気がつくと、あの人の事を考えている。そして、あの人の事を考えると、今まで経験し
たことも無い、もどかしい痛みと、いてもたってもいられない衝動が胸の奥を走る。
 原因も理由も分かってはいたが、どうしようもなかった。

 凪は目を瞑って、ゆっくりと頭を振る。

 あの人と私では、身分が違う。背負っている物の重さも違う。天の御使いであるあの人は、華琳さまにすら
平然と言い返せる数少ない人。
 対外的には部下か、客将的な立場ではあるが、本質的な所で華琳さまと同格の人。それはこの地で他に並ぶ
者が無いと言っていい。
 戦場に出ることなど、とても出来ない様な穏やかな性格なのに、いざ戦いになれば、若干青ざめながらも逃
げることも無く死地をしっかり見据える。
 そして、華琳さまや春蘭さま、霞さま達をまとめてしっかりと受け止めて、包み込む優しさと、しなやかさ
を併せ持っている。

 ……そんな人は他に知らない。

 いつの頃からだろう、警邏で隣を歩くのがとても嬉しくて。いつの頃からだろう、私の代わりに沙和や真桜
が歩くのが、とても残念に思えるようになったのは。
 そして、いつの頃からだろう、あの人と一緒の警邏の時は、念入りに髪を編み込む様になったのは。胸甲を
念入りに磨くようになったのは。
 そして……。

(せっかく二人だったのに……)

 今日も、隣を歩くことが出来て嬉しかった。

(あきれられてないといいけど……)

 だけど自分の気持ちを持て余し、あの人の前で醜態をさらす嵌めにもなった。

(それより、明日、どうしよう。明日もあの人と一緒の警邏なのに……)

 一緒と言う言葉が浮かんだ時に、胸の鼓動が外にも漏れるのではないかと思うぐらい大きく鳴り響いた気が
した。
 思わず立ち止まって慌てて周りを見回す。誰もいないのを確認してから、胸に手を当て、ほーっと大きく息
を吐き出す。

「……隊長」

 微かな呟きが形の良い口から吐息のように漏れ、心が軽やかに舞い踊る。ただ、その舞は現実という名の風
にあっさりと吹き飛ばされてしまう。

    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

「ん、凪っちやんかぁ、仕事は終わったんか?」

 中庭を通り抜けて自室に戻ろうとした時、あまり人が通らない庭の隅のちょっとした芝生敷きの方から声が
かけられた。
 ゆっくりを顔を巡らせると、そこには小洒落た灯籠の明かりの下で手酌をしている霞がいた。
 しっかりとおつまみ系中心の点心を、大量に取りそろえているのを見ると、他にも招待客がいるのだろう。
 自由闊達な野生の猫のような、曹魏の驍将は手に持った盃を芝生の上に置いてにっこりと笑った。
 同性から見ても蠱惑的なその瞳が、灯籠の揺らめく明かりで、どきっとするほど艶やかな光を纏う。

「あ、霞さま。はい、終わりました。霞さまは酒宴ですか?」
「そやで、ええやろー、雰囲気やで、雰囲気」
「え? は、はぁ」
「ほい、凪」

 凪の呆けた様な言葉に、にっと笑った霞が盃を勧めてくる。
 立ったまま受け取るわけにもいかず、なし崩し的に霞の前にちょこんと座って青磁の盃を受け取った。

「ん? なんやなんや、えらい疲れてるやん? 今日の警邏は、そないきつかったんかー?」

 凪の盃に徳利から酒を注ぎつつ、どことなく沈んだ表情を気にしたのか、霞が心配そうに小首を傾げる。

「あ、い、いえ、仕事自体はそれほど……」
「ん? ”仕事自体は”ってことは、他になんかあるんか?」
「……い、いえ、なんでもありません」

 しまった。と凪が臍を噛んだ時は遅かった。霞はその言葉に敏感に反応して怪訝そうな表情を浮かべる。
 流石に状況判断に優れ神速を銘打つ名将。些細な失言も見逃さなかった。
 そして、凪は唐突に気がついた、こんな所で霞が酒宴を開こうとしている。そして、これほど艶やかな雰囲
気を浮かべているとすれば相手は、自ずと限られてくる。それは華琳さまでも春蘭さまでもない。それは……。

「し、失礼します」
「ん〜? よっと」
「し、霞さま?」

 慌てて盃を置いて、その場を辞そうとして立ち上がった凪の腕を、いつの間にか伸びてきていた霞の手が掴
んでいた。自分を苦もなく捕まえるとは流石。と、くだらないことを考えている間に、ぐっと手を引かれ、元
の場所に戻されてしまう。

「ちょい、よーく顔を見せてみ」
「あ、あ、あの」

 戸惑ったままの凪を、霞は真剣な表情で見つめる。
 暗がりで光る猫のような双眸に射貫かれた凪は、その場で硬直した。全てを見通すような視線の前で、凪は
自分が丸裸にされていくようで、無性に居心地が悪かった。
 しばらく、凪にとって、身の置き所のない時間が続く。

「んー、あ、あんな所に一刀がっ!」
「えっ!?」

 怪訝そうに、凪の顔を見つめていた霞が、ふっと目を逸らし、あっと驚いたような表情を浮かべた。
 霞の声に、凪は慌てて、振り返った。

――誰もいない。

「あ」

 しまった! 嵌められた! と、瞬時に悟った凪をにっこりと笑った霞が迎える。

「ははぁ〜ん、そーかそーか、凪っちも春が来たんかぁ、ええなぁ! どきどきやなぁ! わくわくするなぁ!」

 霞は我が事のように、上機嫌に笑っていた。凪の肩をばしばしと叩き、心底嬉しそうに微笑む。

「霞さま……」

 凪は自らの胸の内を、半刻にも満たない時間で、あっさりと看破されたことに愕然とした。
 あの人へ向ける感情は、誰にも秘密にしていたのに。それこそ沙和や真桜にも秘密にしていたのに……。
 ある意味、霞さまはあの人の想い人の一人。横恋慕する私なんかは邪魔な存在であるはずなのに、純粋に私
の気持ちを喜んでくれている。
 その懐の大きさは、流石に魏の将軍。
 しかし、自分自身はとても微笑む気にはなれなかった。
 そう、あの人の周りは、こんな人ばかりがいる。こんなにも自分とは器の大きさの違う魅力的な人達ばかり
がいる。
 そして、端から見ても、あの人と心が通じ合っているのが、太い絆で結ばれているのが分かる。
 そんな輪の中に、何の取り柄もない自分が胸を張って飛び込むことなど、とても出来ない。
 あの中になんて……、入る資格などない……。

「ん、どないしたん?」
「……いえ、隊長の周りには、本当に素晴らしい方ばかりですので、私なんかは……」

 凪の苦み走った声に、霞は表情を改めた。
 自分の腕を抱え込み、悲しそうな表情で呟く妹分の横に座って背中をばしばしと叩く。

「な〜にいうてるんや、凪っちは十分可愛いで」
「か、可愛いなんて……」
「大丈夫や、ウチが保証するで、一刀もめろめろやで」
「でもっ! でも、私は……私には自信が……」

 霞の言葉にはっと真っ赤に染まった顔を上げた凪だったが、徐々に力なく顔が下がっていく。
 霞は頭をがしがしと掻きながら、どうしたものか。と一人悩む。
 軍団を指揮する場や戦場では、この上もなく頼りになる妹分ではあったが、こういったことにはからっきし
に経験が無いのが見て取れる。自分を必要以上に卑下する所など生真面目が過ぎると言うか、何というか。
 まあ、確かに、振り返ってみれば、一刀に手を差し出してもらえるまでは、自分もついこの間までは似たよ
うな状況だったので、大口は叩けないのだが。
 霞は、さて、ほんまに、どないしよー。と、力なく俯く妹分を見つめる。
 真っ赤になってもじもじとするその姿を見ていると、強烈な庇護欲が沸いてくる。あー、もー、こいつかわ
ええなぁ。と。
 頭をがしがしと掻いていると、ふっと、閃いた。そう言えば一刀はなんて言ってたっけか、雰囲気作って……。

『凪、かわいいよ』
『一刀様、嬉しいです』
『凪……』
『一刀様……』

(……あかん、想像できひん)
 霞には、二人の甘い光景が浮かんでこなかった。代わりに浮かんでくるのは……

『凪! ちょ、ちょっと待って』
『隊長! 急いでください! 賊が!』
『お、おいっ、ま、待っ、待ってくださいすいませんごめんなさいもうしません……』
『隊長! 済みません! 先に行きます! はあああぁぁぁぁっ!』

(……やっぱこっちやな)
 一刀が凪に振り回されている光景だった。

「あ、あかん、凪! 凪は固すぎる!」
「か、固いですか……」
「ん、そやっ。凪の真面目な所は美徳やし、大事なことやけど、必要以上に固いんや」
「そ、そうですか……」

 しょんぼりと身の置き場が無いように小さくなっている凪に、霞はびしっと人差し指を突き付ける。
 唐突に突き付けられた指と言葉に凪は目を白黒させた後、気が抜けたように呆然とした。
 霞は、下に置かれた盃を凪に渡して、優しく微笑みながら、無理矢理に酒を注ぐ。
 拗ねた様な表情で上目遣いに見てくる凪の頭を、あー、もー、こいつ、たまらんなぁ。と頭をくしゃっと撫
でる。
 凪が一息に盃をあおって、空になった盃に、今度は穏やかに酒を注いで、霞はゆっくりと口を開く。

「なあ、凪っち。一刀と二人で警邏してる時はなんて呼んでるんや?」
「隊長」
「一刀と二人で休憩してる時は?」
「隊長」
「じゃあ、一刀と二人で晩ご飯食べてる時は?」
「隊長」
「せやったらな、隊長と麻婆どっちが好きや?」
「隊長」

 繰り返される質問に凪は半分拗ねながらも当然といった表情で答えていく。そして、はっと気がついた時は
遅かった。

「っっっ!」

 凪は、霞の問い掛けに条件反射的に答えていたが、質問の意味が頭の中で再生されると同時に、慌てて口を
手で塞ぐ。自分が何を言ったか理解したと同時に一瞬で全身の血が沸騰する。顔が上気する。全身が、そして
耳が熱い。
 恐る恐る霞の方を見ると、これ以上にない慈愛に満ちた微笑が自分を迎えていた。
 戸惑う凪に、霞はゆっくりと言い含めるように言葉を紡ぐ。

「凪。ええねん。一刀はなぁ。あきれるくらい懐が広いから、ウチらの我が儘を笑いながら何でも受け入れて
くれるねん。そやからな。凪も四の五の考えずに甘えたらええねん。一刀に好きや〜って、自分の気持ちを正
直に言ってしまえばええねん」
「で、ですが、隊長は!」
「そこやっ!」
「は、はいっ」
「ええか〜、”かずと”やで」
「は?」

 霞の言葉に凪は目を見開いた。今、目の前の人はなんと? なんと言った?
 目をぱちくりする凪に、悪戯っぽく笑った霞が、一転して真面目な顔をする。
 その圧力すら持った視線に、知らず知らず後ずさる。

「隊長やない、かずとや。」
「そ、そんな呼び捨てなんて……」

 目の前の名将の言葉は、凪にとっては果てしなく高いハードルだった。別格の人と思っている相手を、隊長
を名前で呼び捨てにすることなど、出来るはずがない。
 しかし霞はそんな凪の怯えにも似た戸惑いを切って捨てた。

「”そんな”も”こんな”もない、凪は自分から壁つくっとる。自分から手が届かへんって勝手に思い込んで
る。だからや、だから変に気ぃまわして、考えすぎになってるねん。いっぺん”かずと”って呼んでみ」
「そ、そ、そんな、私には無理ですし、失礼です」

 じりじりと逃げようとする凪の手を、霞はしっかりと握って離さなかった。痛いほど掴まれ、そして、それ
以上に心に痛い言葉が突き刺さる。

「凪っちは一刀のことを信じてないんか? 一刀がそないなことで無礼やって怒ると、ほんまに思ってるんか?
 ほんまに凪がそう思ってるんやったら、ウチの目は節穴や。どうや? 凪。一刀は怒るか?」
「……い、いえ。決してそんなことはっ!」
「やろ? 思ってもみぃひんことやのに、自分から止まっとる。それが凪っちが自分で作ってる壁や。もっと
自分に正直になってみ。な?」
「……はい」

 凪には一刀が怒る光景は想像出来なかった。笑って許してくれるか、照れた風に微笑んでくれるか。そんな
光景しか浮かばなかった。
 霞を見る。ようやく分かったか。と猫のような目が笑っていた。

「んじゃあ、練習や。ほれ、かずとって言ってみ」

 掴んでいた手を離した霞が、満足げに頷いた後、盃に酒を注ぐ。
 凪は一息で干してから、覚悟を決める。
 顔がどんどん火照っていき、自らの心臓の鼓動が痛いほど聞こえるのは、酒のせいだと心に言い聞かせて、
口を開く。
 霞がわくわくと見つめる。

「……か、か、かずと」

 蚊の泣くような声が出た。
 がくっと姿勢を崩した霞が、ぺちっと凪の額をはたく。

「声が小さいっ!」
「かずと」
「もうちょい」
「かずとっ!」
「そや、できるやんかぁ」

 凪は半ば捨て鉢になって声を張り上げた。それでも普段の会話くらいの声量でしかなかったが。

 そんな時だった。

「ん〜、なんか呼んだか?」

 まさに、当の本人の声がしたのは。
 瞬時に振り返った二人の視線の先に、両手に点心の皿と、酒瓶を抱えた一刀が四苦八苦しながら庭を横切っ
てこちらに向かってくるのが見えた。

「ほれ、ええ機会や、凪。呼ん……ちょいまちっ!」
「――っ!! し、し、し、し、失礼しますっっっ!!!!」

 凪は、霞が止める間もなく一礼するなり脱兎のごとく走り去った。

「あ、おい、凪……」

 あまりの素早さに、一刀と霞が思わず顔を見合わせる。
 一瞬の間の後に盛大に霞が吹き出した。

「あははははっ」
「何があったんだ? 霞」
「にゃっはは〜、い、いや、あんな……いや、な、なんでもないねん、うぷぷ」
「うーん、よくわからんが……」
「ええてええて、すぐわかるって。で、これは差し入れなん?」
「おう」
「あ、おいしそうやな。ま、すわってーな」
「お、おい、霞」
「♪♪」

 何がなんだか、状況が理解できていない一刀は霞に目を向けた。霞は涙を浮かべるほど笑っていた。
 彼もここまでご機嫌な霞を見たのは久しぶりだった。
 浮かれた感情のままに、飛び跳ねるように立ち上がった霞は一刀から酒瓶を受け取り、そのまま腕組みをし
て上機嫌で引っ張っていく。

    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 一息で風のように城内を走り抜けた凪は、自分の居室の近くまで来てようやく速度を落とした。

 どうしようどうしようどうしよう。
 絶対聞かれた。

 さっきから頭の中で、その言葉ばっかりが交互に繰り返される。恥ずかしさのあまり熱病にかかった時のよ
うに全身が熱い。のどが渇く、舌が張り付く。
 しかし、それにも増して、心が躍る。甘美な痛みが全身を駆け巡る。

 名前を呼ぶだけで。

「一刀さま」

 それだけで、私の心は躍る。

「一刀」

 たった一言。

「かずと」

 それだけで……。