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るるる-10

One I love, two I love,
ひとつ、好き、ふたつ、愛してる、
Three I love, I say,
みっつ、愛してる、ほんとよ、
Four I love with all my heart,
よっつ、愛してる、心の底から
Five I cast away,
いつつ、追い払って
Six he loves, seven she loves, eight both love.
むっつ、彼が愛してくれる、ななつ、彼女も愛するわ、やっつ、お互い愛してる
Nine he comes, ten he tarries,
ここのつ、彼がやってきて、とおで、とどまっちゃう
Eleven he courts, twelve he marries.
じゅういちで、告白されて、そして、結婚するの


ぽんぽんぽん、ぽ、ぽぽぽぽぽん♪ ぽかぽかぽん♪ ぽ、ぽぽぽぽぽん♪

結果的に大騒ぎになった帰省から学院に戻った翌朝、ルイズには妙なものを見る視線が突き刺さっていた。
厳密にいえばルイズの頭の上に。
朝の食事の時もそうだったのだが、使い魔品評会の時の強烈な印象が、未だに生徒達に刻みこまれているR-シロツメグサが
隣に陣取っているため、生徒達は興味津津の目をルイズの頭の上に向けながらも、声をかけようとする人間はいなかった。
ふと、ルイズは横を見た。視線を感じたのかシロ姉は、何? という表情を浮かべて軽く首を傾げる。
そこには、いつものような穏やかな表情を浮かべた、白と青の自分の使い魔がいた。

やっぱり、いつものシロ姉だわ。あの夜は確かに若返ったように見えたけど、今は出会ったころと同じ大人だし……。
でも、『恥ずかしいからどれくすらーを吸収した』ってどういうことかしら?
ルイズはシロ姉の顔を見ながら、ぼおっとそんな取り留めもないことを考えていた。

「モキューッ!!」
「きゃっ」
初めて会った? 時から定位置を勝手にルイズの頭の上にしているさんしょうおが暴れ始めた。どうも、頭の上で
もぞもぞしているうちに、ルイズの自慢の長い髪が巻きついたらしい。
「もう、何するのよっ、食事のときはじっとしてなさいって言ったわよね」
「モキュー」
慌てて頭の上から髪の毛をばらしながら、さんしょうおを両手で引っぺがして顔の前で軽く睨みつける。
ジタバタしていたさんしょうおだったが、しゅんとした顔になったので、少々罪悪感を感じたルイズは手を放してあげた。
もきゅもきゅ鳴きながら、ふわふわとシロ姉の所へ飛んでいったさんしょうおだったが、「だめ、イチヒコと一緒に居る」
とシロ姉のところでも怒られていた。
ちらっとルイズの方を見たあと、だるまさんがころんだをしているように、視線を外す度にちょっとずつ近寄ってくる。
怒られた後の子供みたいな行為に、思わず噴き出したルイズはさんしょうおを捕まえて頭の上に乗せた。
「じっとしてなさいよ」
「モキュモキュ~」
どこか安心した様なさんしょうおの声を聞いたルイズは、食堂が妙に静かなことに気がついた。慌てて周りを見渡すと
全員の視線が集中していた。
「あ、ご、ごごごちそうさまっ!!」
一瞬で顔を真っ赤にしたルイズは、蹴倒す様に立ちあがって、シロ姉の手を引いてそそくさと食堂から退散した。


「おはよぉ」
午前中最後の休憩時間に、夜更かしして寝坊していたのか、眠たげなキュルケがあくびを噛み殺しながらはいってきた。
教室をきょろきょろと見渡して、ルイズを見つけ、当然のようにその横の席に崩れる様に座り込んだ。
「おはよ、キュルケ。また夜更かし?」
「いいじゃない」
足を組んで椅子に座り直し、只でさえ露出の高い服のボタンを外しながら、暑い暑いと手をぱたぱたとしていたキュルケの
動きが止まった。
二、三度目を瞬かせたあと、ごしごしと目をこすって、自分の目を確認するようにもう一度見つめた。
「ねえルイズ、あなたの頭の上のコレは何?」
その場にいた全員が聞きたかった質問をキュルケがしたことで、一瞬で教室中がシーンとなって生徒達が聞き耳を立てる。
「モキュー!!」
キュルケにつんつんとつつかれたさんしょうおが抗議するように鳴き、キュルケの手を払いながらルイズが答えた。
「さんしょうお、だって」
「”だって”って、あなたが飼ってるんじゃないの?」
何処となく、伝聞調のルイズの言葉に、キュルケが訝しげな表情を浮かべた。
「んーと一応、使い魔? かな」
「え? つかいまぁ? アンタの使い魔ってあのシロ姉じゃなかったっけ?」
「そうなんだけどね」
どこか要領の得ないルイズの言葉に、たたみかける様に言いつのったキュルケだが、うーんと唸るようなルイズに肩をすくめた。
「まあ、いいわ、だけど……」
さんしょうおに目を向けていたキュルケが、気配を感じて振り返った。
いつの間にかトレードマークの長い杖を持ったタバサが背後にいた。そのタバサの視線は一直線にルイズの頭の上に乗っている
さんしょうおに向かっていた。
「タバサ?」
「浮いてる……」
「モキュ?」
キュルケの問いかけに、心あらずのタバサは上の空で答えた。どうも、さんしょうおに心惹かれるものがあるらしく、
食い入るように見つめている。さんしょうおは、その視線に警戒するようにタバサに顔を向けて尻尾をぱたぱたと振る。
親友のこんな姿を初めて見たキュルケは苦笑を浮かべた。
「タバサ、この動物知ってる?」
「……知らない」
「そう、ありがと」
さんしょうおと、眼力合戦を始めたタバサを放ってキュルケがルイズに向き直った。
「で、一体なんなの、これ」
「モキュモキューッ!」
キュルケはルイズの頭のさんしょうおを、猫を捕まえる時のように掴んで、抗議を無視してタバサに渡した。
ルイズは机に肘をついて顎を載せながら、タバサが杖を置いて、さんしょうおを人形のように抱えあげているのを見つめていた。
「うーんと、シロ姉が貸してくれたの」
「は? 貸すって、これを?」
「なんか、どれくすらーのぷろきしいんたーふぇーすになるから、だって」
「???」
理解できないルイズの言葉にキュルケの表情が曇り、かわいそうなものを見る目になった。
おもむろに自分の額とルイズの額に手を当てて熱を測る。
「そんな目で見ないでよ、私だってわかんないんだから、熱もないわよっ」
「まあ、いいわ」
額に当てた手を払いのけながらむくれるルイズを見つめ、キュルケは笑った。
「モキュー」
さんしょうおの何と無く哀願じみた声に振り返ったルイズとキュルケは、いまだに硬直したように、さんしょうおと
にらめっこしているタバサの姿を見て、顔を見合わせた。
「相当気に入ったみたいよ、アレ」
「……あげないわよ?」


初夏の穏やかな昼下がり、中庭に設けられたテラスは、午後の授業までの空き時間を思い思いに過ごす生徒でにぎやかだった。
ルイズとキュルケは白くてこじんまりとした、しかし瀟洒なテーブルで紅茶を囲み、図書館に行っていたシロ姉は
ルイズの横で借りてきた本を広げている。
タバサは相変わらずさんしょうおを捕まえて、芝生の上にちょこんと座って、ねこじゃらし草をさんしょうおの前で
ぴろぴろと揺らしていた。
時折声をかけてくる男子生徒を適当にあしらっていたキュルケが突然机に突っ伏した。
「しっかし暇ねえ、なんか、こぅ、パーっと派手な出来事はないのかしら?」
「キュルケ、あんたねぇ」
テーブルに置いていたカップを割れないように、慌てて持ち上げたルイズがキュルケを睨みつける。
キュルケはその非難を何処吹く風と受け流しながら、ふわふわと飛んでルイズの頭に舞い戻るさんしょうおを漫然と
見つめていた。
平和で退屈な、いつもの光景だった。
そんな空気を、多少なりとも変えたのは、本塔のほうから小走りに駆けよってきた金髪の少女の持ちこんだニュースだった。
「ルイズー、大変大変」
「どうしたの、モンモランシー」
走ってきて息が切れたのか、胸に手を当てて深呼吸をしていたモンモランシーが、顔をあげてルイズに掴み掛る様ににじり寄った。
「あんた、いったい何したのよ?」
「え?」
「王宮から招聘がかかってるわよ。それでもって、今、学院長の所に使者の人が来てるわよ」
「は?」
まくし立てたモンモランシーの言葉に、ルイズは呆気にとられた。
記憶を探っても、王家から招聘されるようなことは何もない、はず。
どう考えてもおかしい。ルイズはモンモランシーにがくがくと揺さぶられながら、原因を必死で考えていた。
「やるじゃない、ルイズ。親の七光ね」
「うっさいわね」
顔をあげたキュルケはネズミを捕まえた猫のような表情でニヤッと笑った。
絶好の暇つぶしを見つけたと、その表情が物語っている。
「面白そうだし、私もついて行こうっと」
「行く」
普段は、キュルケに引っ張られない限り積極的に行動しないタバサが即答した。キュルケは少し意外に感じたが、ルイズの
頭の上に居るさんしょうお効果によるものだろう。
そう言えばいつもは図書館にこもっているタバサも、最近は頻繁にルイズの所に来ている気がする。
「モンモランシーはどうする?」
「え~なんで私が」
「せっかくの王宮よ? 王都よ? いい男もいるかもよ?」
「……そうね、私も行く」
最初は、いやいやそうだったモンモランシーが、キュルケの”いい男”の一言であっさりと態度を変えた。確か幼馴染で
同級生のギーシュと付き合っていたはずなのに? と思って首をかしげるルイズに、キュルケが細かいことを聞くなと
言う風にウインクをした。
どうも、ルイズには分からない事情があるらしい。
しかしながら、呼ばれてもいない人間を大勢引きつれていく自分が、周りからどう見られるか想像したルイズは、
こめかみを手で揉みながら、これ見よがしに盛大な溜息を吐いた。
「っていうか、あんた達って呼ばれてないんじゃないの? 迷惑よ、迷惑!」
「まあまあ、固いこと言わないの、どうせ暇だし」
「授業はどうするのよ?」
「ひ・ま・だ・し」
「……」
ルイズの思いっきり嫌そうな口調を、顔の前で手を振ってキュルケは笑い飛ばした。
確かに、キュルケくらいの使い手であれば、授業もそれほど刺激があるわけではないだろう。
この春までは分からなかったが、キュルケの性格が分かった今では大体想像がつく。自分の快楽に結びつくものであれば、
キュルケはあらゆる手を使う。多分ここで無理やり押しとどめたら、王宮に先回りされて「遅いわね」と言われるのは
目に見えている。まだ目の届く範囲でいてくれた方がいいか。とルイズは自分を無理やり誤魔化した。
「なんか面白そうだし、いいじゃない、ルイズ」
「まあ、いいわ。どうせ止めても無駄でしょ?」


モンモランシーが来た後しばらくして学院長に呼び出されたルイズは、今回の招聘が王女からの要請であることを告げられた。
幼馴染でもあるアンリエッタ王女がわざわざ公式に呼び出す理由が見当たらず、迎えの王家の紋章の入った馬車に乗った
ルイズの表情は曇りがちだった。
心配したシロ姉がそっとルイズの髪を撫でるが、どこか落ち付かない表情は変わらなかった。
数時間ほどして、王都トリスタニアに差し掛かった。キュルケ達はタバサのシルフィードで行っているので、
とっくの昔に着いているはずだった。
王家の紋章入りの馬車のせいなのか、本来あるはずの誰何も何もなく王宮の正門を潜り、ほぼフリーパス状態で城内に通される。
城前ではルイズ達を魔法衛士隊の隊長の紋章を付けた壮年の衛士が、何か懐かしいものを見るような雰囲気でルイズを迎えた後、
謁見の間の脇にある比較的こじんまりとした応接室に案内した。

「アンリエッタ殿下」
「久しいですね、というより先日お会いしましたね、ルイズ。まあまぁ、顔をあげて頂戴、あなたと私の間では、
そんなにかしこまらなくてもいいわよ、それに今は私の私用ですから、楽にしてね」
そこには白いスリムなシルクのドレスに略式のティアラを乗せたアンリエッタ王女がソファに腰を落ち着かせていた。
招待者よりも王族が先にいるという異例の事態に、ルイズは慌てて膝をついて首を垂れる。
ふわっと立ちあがったアンリエッタ王女は、ルイズの手をとって優しく声をかけた。

「アンリエッタ様……」
「ルイズ、使い魔の……いえ、今は違いますね。紹介下さらない?」
「あ、はい。ディー・アイエスエスジー・ゼロイチゼロゼロイチイチハチディー・アール・シロツメグサディーです」
「よろしく」
「あ、ア、アンリエッタ様、シロ姉はこの地のルールと言うか礼儀と言うか……」
アンリエッタはルイズを立ち上がらせると、その後ろで静かに佇んでいる青と白のイメージが鮮烈な女性に目を向けた。
王族という立場の自分に対して、畏怖も畏敬も何もなく、ただじっと見つめ返してくるその女性にどことなく人間を
超えた様な存在、精霊? という言葉が脳裏に浮かんだ。
確かに、この女性であれば、あの話も納得できるかもしれない。それに使い魔品評会での力もそうだった。
普通のメイジではない。エルフでもなさそうだが、それに準ずる存在なのだろう。
王族に対する礼儀とは到底考えられないほど、そっけない挨拶や態度にもアンリエッタは不思議と不愉快さを感じなかった。
「ああ、気にしませんよ。気楽に。と言ったではありませんか……ところで、ルイズ、頭の上の……」
「はい、これは さんしょうお と言って私……正確にはシロ姉……アール・シロツメグサディーの使い魔です」
王女は部屋に入ってきたルイズを見た時から、幼馴染の頭の上にへばり付いているモノが気になっていた。
王宮には珍しいものを見せにやってくる貴族たちもいるので、結構いろんな動物を見てきているのだが、それでも
見たこともない動物だった。
ただ、青と白の女性の使い魔と聞くと、なぜだか納得できるような気がした。
アンリエッタはルイズ達を座らせ、紅茶を片手にしばらくの談笑の後、本題を切り出した。
「そうそう、ルイズ、今日来て頂いたのは、アール・シロツメグサディー卿の処遇について内輪の話なのです」
「はい」
その言葉を聞いたルイズはようやく合点が行ったように、どこか強張っていた表情が穏やかに落ち付いた。
自分の名前が出たR-シロツメグサは、微妙に表情を変えてアンリエッタを見つめる。
「ラ・ヴァリエール公爵から打診を頂いております件なのですが、知っていますか?」
「え?もう、お父さまが……。はい、先日、実家に帰った折にちょっと」
「そうですか、では話が早いですね
マリアンヌお母様は、特に異論はないようなのですが、功績も何もないものを貴族位にあげるのは前例がないとかで
マザリーニ枢機卿が難色を示しています」
「はい」
アンリエッタの言葉に、ちょっとびっくりした様な表情を浮かべたルイズだったが、すぐにその表情を改めて真剣な
眼差しになった。
そのしっかりとした目に、アンリエッタは幼馴染に今までと違った印象を受けた。どことなく芯を感じさせる雰囲気が、
自分の責任と信念をしっかりと持った人間のように思える。
ルイズが、いままでの少女時代の延長から、少し大人の階段を上がったような頼もしさと、自分から離れ始めた一抹の寂しさ
を同時に感じていた。
「で、ルイズのお父様と枢機卿がいがみ合うような状況になりつつあります。枢機卿の言いたい事も良く分かりますし、ラ・ヴァリエール公爵の打診をむげに断るわけにもいきません。私としては、トリステインの重鎮たる方々が無用の騒乱を巻き起こすことを望みません」
「はい、よくわかります」
ルイズにはアンリエッタの懸念がよく分かった。自分の実家は国内屈指の貴族の家柄。王家とも深いつながりのある家系であり、
他の貴族達とは一線を画している。またマザリーニ枢機卿は世間の噂ほど怪しい人物ではなく、厳格な政治家であると
父親から聞かされていた。
ある意味、トリステインの両輪とも言える存在でもある二人だが、それゆえ協調して動かなければトリステインは迷走してしまう。
遠因をたどれば自分に行きつく。しかし、父親の言動の詳細を知らないままに自分がうっかりと話すこともできない。
そう考えたルイズの表情は今まで以上に深刻になった。
アンリエッタは深刻そうな幼馴染の表情をみて、くすくすっと笑って、明るく言い放った。
「なので、功績をあげていただこうかと思っております」
「アンリエッタ様?」
アンリエッタの悪戯を思いついたような表情に、一瞬あっけにとられたルイズだったが、幼いころの思い出が蘇ってきたのか、
次第にアンリエッタと似たような表情になっていた。
悪戯盟約を結んだ二人の少女は、顔を近づけてひそひそと作戦を考え始めた。
「功績があれば、枢機卿も文句を言うことはないでしょ?」
「ええ、まあ、それはそうですけど……」
「唐突ですけど、ラグドリアン湖は知っていますね?」
「ええ、当然です」
アンリエッタがひそひそと内緒話をするように手を口に添えて小声で喋り、誰に聞かれている訳でもないのにルイズも
似たような行動をとっている。R-シロツメグサの聴覚では特に差し支えなく聞こえるため、気にはならないが、
これもマンカインドの行動なのだろうか? ”イチヒコ”と”タイショー”が教室の隅でこっそりと話していたことを
思い出し、なんとなく仲間外れにされたような気がして寂しかった。
そんなシロ姉の思いも露知らず、ルイズとアンリエッタのひそひそ話は続いている。
「そこが今、困った状態になっているようです」
「困った状態と言いますと?」
アンリエッタの声が一層密やかになり、つられたルイズは更に身を乗り出した。
ラグドリアン湖には子供の頃に避暑地として何回か行った事があった。澄んだ透明な湖と神秘的な雰囲気がするとても
奇麗な湖だった記憶がある。幼いアンリエッタと水遊びをしたのも、確かそこだった。
「ラグドリアン湖を治める水の精霊の機嫌が悪いのか、水嵩が異常に増して周りの集落や畑が水没していっているようです。
ですので、ルイズとアール・シロツメグサディー卿に様子を見てもらいたいのです。そして、できるのであれば、
水の精霊と会話していただいて、原因を探って欲しいのです」
「水の精霊ですか? たしか、水の精霊との連絡を取り持つ人が居たように記憶していますが……」
「ええ、古くはモンモランシ家、そして、今はナヴァル伯が担当していますよ。ただ、内緒の話ですがナヴァル伯爵は
一度も水の精霊と会話ができていないそうなのです」
「なんてこと」
アンリエッタの言葉を聞いたルイズは驚いた。水の精霊との盟約をトリステイン王家は結んでいて、その交渉役として
代々専任のメイジが割り当たっていた。その交渉役が会話すらできていないとなると、何が起きるか分からない。
水の精霊は独自の価値観を持って行動するため、行動を抑制するために盟約の維持と、精霊との対話が不可欠であると
教えられていた。その交渉役が役に立っていない。
俄かにルイズに緊張が走る。
「ですので、ルイズ。いえ、正確にはアール・シロツメグサディー卿がこの事態を収めることが出来れば、
マザリーニ枢機卿も納得すると思うのです」
「なるほど」
「水の精霊の力は強大です。ですが、ルイズとアール・シロツメグサディー卿であれば打開できるものと信じております」
トリステイン王家と水の精霊の盟約が壊れかかっていると、アンリエッタは言外に匂わしている。
確かに、この事実が公表されると王家としてはとてつもない失態と取られてしまう。だが、この問題を解決できれば、
水の精霊との交渉役をしてシロ姉を推挙することすらできるだろう。当然、貴族位を持ったメイジとして。
功績の公表はできないが、少なくともマザリーニ枢機卿は目立った反論はしないだろう。
ルイズはそこまで考えてはっとアンリエッタの顔を見つめた。
穏やかに微笑む王女の顔がそこにあった。
「アンリエッタ姫様……」
「ここだけの話ですけど、聞きましたよ、ルイズ」
アンリエッタは姿勢を正して、ルイズに向き直った。そしてシロ姉をちらっと見てから、楽しそうに笑った。
「え?」
「ルイズのお母様って、あの烈風のカリン様だったのですね。実はカリン様からもアール・シロツメグサディー卿の
推薦状を頂いているのです。
私はカリン様が太鼓判を押して推薦する様な人は殆ど知りません。たとえ、このトリステインで著名なメイジであっても」
「おかあさま……」
ルイズは不意に目頭が熱くなるのを感じて身を震わせる。自分の、自分達の為に、両親がここまで動いてくれている。
その事実がとても嬉しかった。
ルイズが泣きそうになっていることに気がついたシロ姉は慌ててルイズを抱き寄せ、そしてアンリエッタに厳しい視線を送る。
ルイズが慌てて目じりを拭きながら「違うの、シロ姉。嬉しいの」と説明する姿を、アンリエッタは何か尊いものを見るような
眼で見つめていた。


「で、ルイズ、なんの話だったの?」
「ラグドリアン湖の水の精霊と話をして来いだって」
応接室を出たルイズは、友人が来ていると案内役の衛士に告げられ、控えの間に通された。
そこにはキュルケ達が退屈そうに待っていた。
「ラグドリアン湖……」
「そうそう、モンモランシ家って水の精霊の交渉役だったのでしょう? 細かいこと教えてくれる?」
ルイズが詳細を適当にぼやかして、王女の依頼内容を打ち明けるとモンモランシーの表情が強張った。
「ど、どうしたの? モンモランシー? 顔が青いわよ?」
「ちょ、ちょっと待ってルイズ、王女殿下はモンモランシ家についてなんか言ってた?」
キュルケが挙動不審になったモンモランシーを訝しげに見つめたが、当の本人はルイズに掴み掛らんばかりに詰めよっていた。
余りの迫力にルイズは後ずさった。
「い、いいえ、何も言ってないわよ?」
「はぁー、よかったぁ」
「ど、どうしたの?」
ルイズの言葉に、力の抜けた様な表情でへなへなと腰から崩れたモンモランシーに逆にルイズが驚いた。
しばらくして落ち着いたモンモランシーから聞き出すと、自分の家が代々交渉役だったのに、父親の対応がまずくて
水の精霊の機嫌を損ねてしまったこと。そして、結果的に水の精霊の交渉役と言う大任から外され、モンモランシー家は
凋落してきていること。
更に、王家からは特に目立った叱責が来ていないことが、逆に怖かったこと。
王女の口から、水の精霊に関する話が出たということで、自分の家が不味い立場になったのではないかと不安になった。
モンモランシーの心配事は杞憂だと、安心させたルイズは、逆に勢い込んだ。
「そう、じゃあ、モンモランシーは水の精霊見たことあるのね」
「ええ、見たことあるわよ」
「どんな姿してるの?」
「えーとね、奇麗な女の人の……」
モンモランシーが昔のことを思い出す様に目を細めていると、ぎょっとしたようにシロ姉を見つめた。
食い入るように見つめた後、ぶんぶんと頭を振った。
「どうしたの?」
「い、いえなんでもないわ。よく考えたら子供の頃だったから、細かい姿は忘れちゃった。
で、でもラグドリアン湖だったら案内できるわ」
「え? ほんとに? ありがとう、お願いしてもいいかしら」
「その代り、王女様に、ド・モンモランシの人間の助力があったって言ってくれる?」
「分かったわ」
ルイズの訝しげな視線を前に、モンモランシーは引き攣った笑顔を返した。ルイズもなにか隠しているようなその行動を
怪訝に思ったが、それ以上突っ込んでも悪いかな? と引き下がった。
ただ、モンモランシーの案内は渡りに船だったので、その協力は素直に受け取った。
「面白そうだから私たちも着いて行くわ」
「キュルケ、相当暇なのね」
「まあね」
「タバサも行きましょ。確か、あなたの実家はラグドリアン湖の近くだったわよね?」
「そう」
「じゃあ、決まりね。」
ルイズとモンモランシーのやりとりを見ていたキュルケは、ようやく刺激的な出来事が始まりそうで、内心わくわくしていた。
平穏だが退屈な日常から少し抜け出せるこの機会を逃すつもりも全くなく、ルイズの返事を待たずにキュルケは一方的に宣言した。


「ルネ・フォンクと申します。ラグドリアン湖までお連れするように命ぜられました。よろしくお願いします」
「ありがとう。よろしくお願いします」
「いえ、自分は、まだ下っ端ですが、このような大役を任されて光栄であります」
王宮の裏庭に設けられた騎乗スペースに、中型の風竜と小太りの若い衛士が待機していた。王女がルイズの為に用意した
ラグドリアン湖までの乗り物だった。
少し離れた所にタバサのシルフィードが自分の主人に撫でられながら大人しく丸まっているが、それと比べても二回りほど
大きな風竜だった。
若い衛士は、うら若き貴族令嬢、それもラ・ヴァリエール公爵家令嬢を乗せて飛ぶということに舞い上がっているようだったが、
目の前に立ったシロ姉にその夢を無残にも打ち砕かれた。
「……いらない」
「は? 何が、でありますか?」
「し、シロ姉?」
ルネ・フォンクと言う若い衛士に抑揚のない一言を投げかけたシロ姉はスタスタと、待機している風竜の顔の前に歩いて
行き、怪訝そうな表情の風竜の前に立ちふさがって、じっと見つめた。
「おまえ、私の言うこと、聞く、わかった?」
「ぶぉぉぉ」
見知らぬ人間が、竜の顔の前という最も危険な位置に立つという自殺行為に、ルイズ達は硬直した。いくら慣れているとはいえ、
そんな危険な行為は厳重に戒められている衛士も、引き攣った表情で声も出なかった。
そんな一行の様子を気にも留めずにシロ姉は風竜に命令した。
一瞬動きを止めた風竜はブレスを吐きそうな体制をとったが、ゆっくりと頭を垂れ、翼を広げた。それは完全な服従の仕草だった。
「おまえ、いい子」
「ぶぉぉぉ」
それを見たシロ姉は風竜の頭をぽんぽんと叩いて、振り返った。
「これ、借りる」
「あ、あ……」
「イチヒコ。乗る。わたしと二人乗り、する」
若い衛士は、自分の見たことが信じられないように、茫然としていた。確かに自分の使い魔ではないが下賜された風竜は
そう簡単に言うことを聞くようなものではない、はずだった。
しかし、目の前の女性のメイジはあっという間に自分から風竜を奪っていった。
その横を通り抜け、同じように硬直しているルイズの手をつかんだシロ姉が、はにかんだ笑顔を向けた。
「あーはいはい、じゃあ、私達はシルフィードに乗ってついてくわ。」
もう、大概のことでは動じなくなっているキュルケは比較的早く立ち直って、豊かな髪をがしがしと掻き上げて、
タバサの元へ向かい、驚愕以外の別の色をにじませているモンモランシーもちらちらと振り返りながら、その後に続いた。

「きゅいきゅい、お姉さま、お姉さま」
「しっ」
「あの人、やっぱり、なんか懐かしい」
「懐かしい?」
「わかんないの。けど、懐かしいの。絶対に言うこと聞かないといけないの、そんなきがするの」
「わかった、分かったから黙りなさい」
「しゅん」
遠目にルイズ達の様子を見ていたシルフィードが傍に居るタバサにそっと呟いた。キュルケ達が近寄ってきているので
制止したタバサだったが、シルフィードの言葉には何か大きな謎が隠されているような気がしてならなかった。
ルイズの使い魔の女性を懐かしいと感じるシルフィード。あっさりと懐いた衛士の風竜、呪文も唱えず杖も持たずに
見たこともない魔法を使う使い魔。エルフではないが……一体……。
タバサの思考は、近寄ってきたキュルケに声をかけられるまで続いた。


「イチヒコ、もっとくっつく」
「う、うん」
衛士の風竜に乗ったシロ姉とルイズは、翼が巻き起こす土埃で衛士を砂だらけにして空に舞い上がった。
手綱は前に座ったシロ姉が握り ―とは言ってもただ持っているだけにしか見えないが―、ルイズはその後ろにちょこんと
座っていた。
それを不満に思ったのか、シロ姉はルイズの手をとって自分の腰にまわした。
「こいびとと二人乗りする。大事なこと。もっとぎゅっとする」
「そ、そうなの?」
「そう、とっても大事」
「うん」
シロ姉の断言する言葉に、どうにも照れながら、ルイズは細い腰にしがみついた。
ルイズの体温を身近に感じるシロ姉も、どこか幸せそうな表情を浮かべていた。
ふと世界に二人だけしかいないような気になったルイズだが、それはそれでいいような気にもなっていた。
自分だけを見て、自分のことを全身で愛してくれる。性別が同じと言うのは不幸なことかもしれないが、それでも自分は
良いのかもしれない。
ルイズには、幼き日に憧れた人との結婚を幻想したこともある。相手は大人だったので他愛もないルイズの言葉を、笑って
くれていた。
その時の感情とは異なり、シロ姉だから、シロ姉だったら、わたしはずっと一緒にいれるかもしれない。
そんな風にルイズは感じていた。それがどういう姿となるか分からないが、シロ姉のわたしに対する想いが変ることはない。
将来なんて誰も分からないけど、シロ姉だけは変わらない。ルイズは一人そう確信していた。
思わず、シロ姉に回した腕に力を籠めた。シロ姉はちょっと後ろを振り返って、ぴったりとくっつくルイズに目を細めていた。

しばらくして、気がつくと足下に再び王都トリスタニアの姿が見えてきた。ルイズはなんとなく嫌な予感がした。
「シロ姉、どこ行ってるの? さっきからくるくる回ってるようなきがするけど?」
「どこ? 二人乗りが大事」
「あああ、あのね、シロ姉? ラグドリアン湖って分かる?」
「知らない」
ルイズが恐る恐る切り出すと、シロ姉はあっさりと自信に満ちた表情で答えた。
あまりにも予想通りの回答を耳にしてがっくりしていると、シルフィードに乗ったタバサ達が引き返してきた。
「ルイズー、さっきから何してんのよー」
「だって、シロ姉、ラグドリアン湖知らないっていうし」
「そんなことだろうと思った。ついて来なさい」
キュルケの呼びかけに、ルイズが声を張り上げると、キュルケ達は笑った。
ルイズは旋回するシルフィードをシロ姉の背後から指差した。
「シロ姉、あの風竜追っかけて」
ルイズの言葉に、しばらく考え込んでいたシロ姉が、ぽんと手を打った。
肩越しにルイズを振り返ったシロ姉が何かを真似たように、にやりと笑った。
「分かった。”刑事さん、尾行ですか?”」
「尾行? っていうか”けいじ”って何?」
「前の乗り物追っかける人のこと」
「ふーん」
また、”まんが”あたりからの受け売りなのだろうか。微妙に違和感のある知識で、何故か両手を前に突き出しているシロ姉。
こだわりがある様な態度と言葉に、ルイズは肩をすくめた。
そんなルイズ達を乗せて二頭の風竜はラグドリアン湖への風に乗った。

ぽんぽんぽん、ぽ、ぽぽぽぽぽん♪ ぽかぽかぽん♪ ぽ、ぽぽぽぽぽん♪

One I love, two I love,
ひとつ、好き、ふたつ、愛してる、
Three I love, I say,
みっつ、愛してる、ほんとよ、
Four I love with all my heart,
よっつ、愛してる、心の底から
Five I cast away,
いつつ、追い払って
Six he loves, seven she loves, eight both love.
むっつ、彼が愛してくれる、ななつ、彼女も愛するわ、やっつ、お互い愛してる
Nine he comes, ten he tarries,
ここのつ、彼がやってきて、とおで、とどまっちゃう
Eleven he courts, twelve he marries.
じゅういちで、告白されて、そして、結婚するの