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るるる-13

静かな夜の湖畔を青と白の精霊がそっと歩いている。
仄かに蛍火を纏わりつかせて、音もなく歩くその姿は、静かなモノクロームの風景に相まって神聖なものに見えてしまう。
「……ほしぞら」
精霊はそう呟くと空を見上げた。その声に誘われるかの様に満天の空には無数の光点が瞬いていた。

出発当初の目的も磨滅するほどの長さに渡って、自分達が旅した星の海と終着点。
終着の大地に根ざした命の軌跡は無数に枝分かれして、複雑で精緻なタペストリーを織りあげている。
「……サン=テグジュペリ号で一緒に旅した、ほしぞら」
ふと、”イチヒコ”のはにかんだ笑い声が聞こえた気がした。同時にR-シロツメグサの脳裏でいくつもの記憶が
フラッシュバックする。
「……”イチヒコ”」
R-ミズバショウやR-ヒナギク達と過ごした様々な光景が思い起こされ、自然と目元が熱くなっていく。
どのシーンにも”イチヒコ”が中心に居た。
”帰ってきた時に僕がいなくても悲しまないで”
この地に降りて思考が混乱する中で聞いた、”イチヒコ”のメッセージ。そして、イチヒコに出会った。

――かなしかった、うれしかった。

私が悲しまないようにと”イチヒコ”がイチヒコを差し向けてくれたのかも知れない。
イチヒコを見たとき、初めて”イチヒコ”と会ったときと同じような感動を感じたことを今も覚えている。
(……”イチヒコ”が、……イチヒコが私をしあわせにしてくれる。……イチヒコがいる限り)
私のこころ≪レム≫の中にイチヒコ達が光をつけてくれている。
「……だいすきな、”イチヒコ”」
そっと呟いた言葉で、こころ≪レム≫が色鮮やかに弾ける。
「……だいすきな、イチヒコ」
繰り返す言葉で、こころ≪レム≫が華やかに咲き誇る。
私は思わず、”いないはずの宗教存在”に感謝をささげたくなる。
「……ありがとう」
ここへきて幾度かこの言葉を耳にした。
その度にわたしのこころ≪レム≫に今までにない感情の揺らぎが巻き起こる。くすぐったいような、ほんのりと温かいような。
……そして、嬉しくなる気持。
”イチヒコ”におもちゃを買ってあげた時も、同じ言葉を聞いた。でもその時はこんな感情は持たなかった。
感情、こころ、レム。
私の感情は、私のこころは、私のレムはこんなにも色鮮やかで、こんなにも羽ばたいている。

――こんなにも嬉しい、こんなにも幸せ。

視線を足下に落とした青と白の精霊はゆっくりと歩いていく、黒曜石のように輝いている夜の湖畔を。


昨日の今日で、規模も小さいがキュルケが再びワインを持ち出してきて酒宴を開いた。
タバサは治療がすんでから、ずっと母親についていたが、母親はいまだ目覚める気配は無い。が、容体が安定しているのと、
血色がよくなっているので安心した様に柔らかい表情になっていた。
キュルケはそんなタバサを無理やり引っ張り出した。
友人が自分を気遣ってわざと明るく、賑やかに振る舞っていることを敏感に察したタバサは、その心に感謝した。
微かな笑みを浮かべたタバサは、古参のメイドに母親の世話を指示して、気の置けない友人たちとの一時を過ごした。
かなり酒がまわり夜も更けたころ、主のタバサではなく何故かキュルケがペルスランに指示をして用意させた部屋に
各々引っ込んだ。
ベッドに入るなり少女達は、可愛らしい寝息を立て始めた。
R-シロツメグサは、なんとなく眠ることができず、むにゃむにゃと幸せそうに寝ているルイズの髪をひとしきり
撫でたあと、そっと散歩に出かけた。
自然と足はラグドリアン湖に向かう。
しばらく、取り留めもないことを考えながら、静かな湖の畔をゆっくりと歩いていたR-シロツメグサの足がぴたっと
とまった。
「……誰?」
視線はほとんど動かさず、呟くような声だったが、不思議と周りに響く。
マンカインドのように物想いに耽っていて反応が遅れたが、R-シロツメグサのアリシアンレンズ≪EES≫は、大量の
人の気配が動いていることを察知した。
集中するともっと広範囲のエリアを探索できるが、あまりにも情報量が多いため普段は自分の周囲に限定していた。
この地に来て、マンカインドが集団で集まって何かをするケースを頻繁に経験したR-シロツメグサは、今のように
絞ったエリアで大量の気配があってもあまり気にならなくなっていた。
ただ、自分の方に向かってくる気配は少し注意を引かれた。
「ほう、これはこれは。これほどまでに精霊に愛される娘を初めて見た。我が眷属でもここまで愛される所は見たことが
ないな」
ゆっくりと森の方に顔を向けたR-シロツメグサの前に、つばの広い羽帽子をかぶった細身のローブ姿の男が闇から
滲み出てくるように現れた。
男は長い髪を風になびかせて切れ長の目でじっとR-シロツメグサを見つめた。
その視線の中には、絶対ばれるはずのないあの距離で、更に気配を殺している自分の存在を悟られたという驚きと、
蛍火を舞い踊らせるR-シロツメグサの姿に、今までに見たこともない程の精霊の偏愛を感じた驚愕が込められていた。
「……」
「精霊の核たる水の精霊に一言挨拶を。と思ってわざわざ顔を出したのだが、思いもよらない拾いものをしたらしい」
ゆっくりとR-シロツメグサの方に歩いてきた細身の男は、そう言いつつ羽帽子をとった。
腰まで届く髪をそっと掻き上げた細身の男の耳は長く尖っていた。この地ではエルフと称され、強力な先住魔法を使う
非常に恐れられている種族であったのだが、R-シロツメグサにはどうでもよかった。無関心といっていい。
「……」
「私を見ても驚かぬ、怯えぬ……か。蛮人とは思えないな。」
自分の素性を明らかにしても、感情の揺れが全くない姿を目の当たりにして、そのエルフの男は感心したように呟く。
「……私には関係がない」
「なるほど……確かに、関係はないな」
「……」
あまり自分に関心が向かないことにエルフの男は戸惑いを感じていた。今まで自分が姿を明らかにした時は、たとえ
どんな立場の者であったとしても、たとえガリアの王であっても、何らかの関心を抱いた。興味であれ、恐怖であれ。
だが、目の前の少女。彼からみて年端もいかぬ少女に思える存在は、たった一人で自分と相対しても、髪の毛一筋の
感情の揺らぎすら持たなかった。
そして、自分が嫉妬するほどに精霊に愛されているその姿。まるで、この地のすべての精霊を従えているように。
エルフの男は目の前の存在に非常に興味が湧いた。それが例え自分達エルフが蛮人とさげずむ一族であったとしても。
「私はネフテスのビダーシャルと言う。この出会いに感謝を」
「……そう」
「……名前を聞かせてほしいものだが?」
「……D-ISSG-0100118D R-シロツメグサD」
とことん、自分に対し興味がないR-シロツメグサに対して、ビダーシャルは自分の方から歩み寄った。
名前を告げても反応がなく、立ち去ろうとするR-シロツメグサの肩をビダーシャルはそっと掴む。
彼にとっては珍しい行動だった、咄嗟に肩を掴んでしまった自分に驚いてもいた。
肩越しにビダーシャルを見たR-シロツメグサは、軽く目を細めたあと、手をピシッと振り弾いた。
「蛮人の名前にしては珍しい」
「……邪魔」
「まあ、そう言わないでもらいたい。ここで何をしているのだ?」
「……別に」
「……そうか。所用で来ていなければ、もう少し話しておきたいところだが、今日はこれで失礼する。
精霊に愛されし娘よ」
R-シロツメグサの目に剣呑な光が灯り始めたころ、さすがにビダーシャルも手を引っ込めた。
ビダーシャルの心の中に、この少女を連れて帰りたいという意識が芽生えていたが、それが何に起因するものなのか
彼にはまだ理解できなかった。そして、彼の心の中に漣を立てた少女の記憶は忘れられそうになかった。
残念なことに、彼がこの場に来たのはある仕事をするためであって、仕事自体は簡単なものだが、その意味は
重要なもので、それを捨てることはできなかった。
後ろ髪を引かれる思いを残しながら、ビダーシャルは静かに立ち去った。
再び静かになった湖畔で、R-シロツメグサはビダーシャルにつかまれた肩を払って再び歩き出す。
しばらくして、はっと顔を上げたR-シロツメグサは唇をかみしめて、飛ぶように屋敷に向けて駆けだした。

らてぃらてぃらてぃら♪ らてぃら♪ らてぃらてぃらてぃら♪ ら~らららら♪ じゃんっ♪
らてぃらてぃらてぃら♪ らてぃら♪ らてぃらてぃらてぃら♪ ら~らららら♪ じゃっじゃんっ♪

ふっとタバサは目を覚ました。
目をあけると何故か自分の顔が褐色の柔らかい双丘に包まれ、自分が抱きしめられていることに気がついた。
自分と友人の、裸と言っても差支えない程の姿に、タバサは一瞬で真っ赤になり必死に記憶をたどった。
だがそれも一瞬のこと。
年若いながらも歴戦の戦士でもある青の少女は、しどけなく眠る炎の友人を起こさないように、ゆっくりと手を解き、
そっとベッドから降りようとした。
「嫌な予感がするわ」
ベッドから掛けられた声に、タバサは目を見張って振り返った。
寝ていると思っていたキュルケの瞼が開いていた。
「私も行くわ」
「……」
キュルケは、今まで寝ていたのが嘘のように凛とした声でベッドから身を起こした。
眼に炎を浮かべたキュルケを見たタバサはこっくりと頷いた。
それをみて破顔したキュルケは、さあさぁとタバサの背中を押した。
ネグリジェ姿にガウンを羽織り、傍らに立てかけてある杖を手に取った二人は、寝室の扉を開いた。
「ちょちょっと、どうしたのよ」
「モキュモキュモキュ」
「いいから、分かったわよっ」
廊下に出た二人は、少し離れた部屋の前で、ルイズとネグリジェを咥えて引っ張ろうとしているさんしょうおの姿を
見つけた。
開いた扉からはモンモランシーが眼をこすりながら顔をのぞかせている。
呆れた様な表情を浮かべたキュルケに気がついたモンモランシーが、少し目を覚ましたのか廊下に出てきた。
同時にルイズも杖を持ったタバサとキュルケに気がついた。
「キュルケじゃない、どうしたの?」
「し、黙って。嫌な予感がするわ」
「モキュモキュッ」
「……こっちだって」
「杖は?」
「持ってくるわ」
「じゃあ、行くわよっ」
どこかのんびりしたモンモランシーの声を刃物のようなキュルケの声が抑えた。
その尋常ではない雰囲気に、冷水を浴びたようにルイズとモンモランシーの表情と雰囲気が一変した。
我が意を得たりといった、得意げな態度でさんしょうおが廊下を飛び始めた。なんとなくさんしょうおの言いたいことが
分かったルイズの言葉に、キュルケとタバサは顔を見合わせるなり、さんしょうおを追いかけた。
モンモランシーが慌てて持ってきた杖を受け取ったルイズ達も、そのあとに続く。
さんしょうおがまっすぐに自分の母親の部屋に向かっていることに気がついたタバサは走りながら、エア・ハンマーの
呪文を唱えた。
母親の部屋にキュルケが扉を蹴り開け、直後に飛び込んだタバサはとりあえず眼についた見知らぬ男に杖を振りかざした。
ぎょっとした表情の男を、タバサのエア・ハンマーが捉え、その体を弾き飛ばした。
強力な固定化がかかっている中庭に面した掃き出し窓に、激突したその男はクモの巣状のひび割れを窓ガラスに残して
崩れ落ちた。
部屋に入り込んでいた残り二人の男は、手にしていた大きな毛布包みの端を離した。
タバサの母親を毛布で包みレビテートを掛けて浮かせていたのだろうが、精神集中が掻き乱された為、その袋は力なく
床に落ちていく。
「ちっ!」
「ジョヴァンニ、てめえが音をたてるからだろうが」
「うるせぇジェルマン」
男たちの言い合いの間に、タバサがエア・スピアーの呪文を唱える。キュルケも手持ちの攻撃呪文を唱えようとした。
しかし炎の呪文は強力な分、影響範囲が広域に広がるため、室内で強力な呪文を使うわけにもいかず、牽制程度の
小さな火球の魔法を唱える。
男達も即座に呪文を唱え、タバサの放ったエア・スピアーの呪文をエア・ハンマーで撃ち落とした。
タバサの呪文の最初の一説で大体判ったとしても、タバサに負けない速度でで呪文を唱え、的確に叩き落すその技量は
侮れなかった。
「な、何よっ、こいつら」
「きゃっ」
「モキュッ」
「あ、ありがと、さんしょうお」
「モキュ~」
直後に部屋に到達したルイズとモンモランシーは、開け放たれたドアから顔をのぞかせた瞬間、飛んできた火球に
巻き込まれそうになった。
二人が反射的に眼を閉じた瞬間、目の前にさんしょうおが立ちふさがり、ぶつかるはずだった火球を逸らした。
火球は廊下の向こうで弾け飛び、爆発音と焦げ臭い匂いが広がる。
どうやって逸らしたのか、理解できなかったが、さんしょうおはルイズの感謝に胸を張って喜んでいた。
「問答無用かよ、まあ、俺達もだがな、ヘヘヘッ」
「おい、あれはターゲットの娘だよな」
「ほほう、都合がいい」
「あれも連れてくか」
減らず口を叩きながらも、男たちはリズミカルに呪文を紡ぎ、キュルケとタバサの呪文を効果的に逸らしていく。
見た目こそくたびれた騎士の様な姿をしているが、その的確な対応、鋭い視線と戦いを楽しむ様な酷薄な笑みにタバサは
目の前のメイジに微かな恐怖を感じた。
手練の傭兵。相当な場数を踏んでいる強敵と認識したタバサは、母親を巻き込まないような直線攻撃系の呪文を
矢継ぎ早に唱える。
キュルケも同じように感じているのか、舌打ちをうって表情を強張らせた。
室内である事とタバサの母親や家具を巧妙に利用しながら、タバサ達に大技を撃たせない二人の傭兵は、混乱を
巻き起こす様に無作為に火球の呪文を放った。
「……!」
「あいつら戦い慣れてる」
「っていうかタバサのお母さんをどうにかしないと」
思い出したように風系統の直接魔法攻撃にさらされ、火球が巻き起こす炎に煽られて、タバサとキュルケは防戦一方と
なっていった。
後ろから見ていたモンモランシーがウォーター・シールドの呪文を唱え、炎の延焼を防ぐが、すべてにおいて後手後手に
回らざるを得ない。
「ルイズッ! シロ姉は? シロ姉はどうしたのよっ!」
「……居ないわ、多分散歩に行ってるのよ」
「ちっ! ファイアーウォールッ!」
傭兵の放つ火球を一瞬だけ燃え上がらせる炎の壁で巻き込んで潰しながら、キュルケが叫んだ。
その横でタバサがエア・スピアーを相手に連打していた。喜悦の表情を浮かべ、戦いを楽しんでいる風の系統の傭兵は
対抗するようにエア・ハンマーなり、ウインド・シールドで呪文を相殺していく。
ルイズは、シロ姉が居ないことに改めて気がついたが、ちょくちょく夜の散歩に出かけることも知っていた。
唇を噛んで、ルイズは叫び返した。
そうこうしている内に、最初にタバサが吹っ飛ばしたメイジが意識を取り戻してきたのか、頭を振りつつ起き上がろうと
していた。
今でもジリ貧な状況なのに、更に相手が追加されたら……。
魔法の威力を見てみると、あきらかにタバサ・キュルケ組の方が上回っている。なのに、相手の狡猾な動きや、呪文の
組み合わせ、それと火と風の連係で翻弄されている。
「まずいわ、このままだったら……」
「モキュー」
「え?」
「モキュモキュ」
「魔法を使えって? でも私は土系統の……っ!」
後ろから歯噛みをしながら見ているしかなかったルイズに、さんしょうおが目の前でふわふわと踊りだした。
何踊ってるのよ? と思っていたが、尻尾の一部を変形させながら必死に何かを伝えようとするさんしょうおを見ていた
ルイズは、はたと気がついた。
錬金が出来たから、それもスクウェアレベルの錬金が出来たから自分は土系統のメイジと思い込んでいた。
でもよく考えれば火の系統の授業のときに火の魔法が使えた時もある。

――であれば土以外の魔法も使える!?

ゼロと呼ばれていた時期、自分がどの系統のメイジなのかいろんな系統呪文を必死に試したことがある。
風のドットスペルを使うことが出来ないときは、風のライン、風のトライアングル、風のスクウェアを。
風系統が駄目だったら火を、水を、そして土系統を。
それこそ、何か間違いがあるのではないか? と必死に呪文を覚え、何度も繰り返した。
すべて駄目だったとき、”き、今日は体調が悪いのよっ”と、翌日もその翌日も繰り返した。
周りの友人がその光景を見てあきれるように嘲笑していたことを思い出す。
そのときの記憶を、呪文を今でも覚えている。
「さんしょうお、わたし、風の魔法使えるかな?」
「モキュ~」
ルイズはさんしょうおを顔の前に持ってきて、シロ姉に確認するように聞いてみた。
さんしょうおは、”当然さっ”というように尻尾をぱたぱたと振った。
「ル、ルイズ?」
延焼を防ぎ、キュルケ達の隙めがけて放たれた火弾を水壁で防いでいたモンモランシーがぎょっとしたようにルイズを見た。

室内の戦闘はかなり切実な状況となっていた。三人目の存在である。
傭兵達も三人目が復活したら自分達の勝ちと認識しているのか、必死に叩こうとするキュルケとタバサの呪文を防ぎ、
”さっさと起きろ”と足で蹴飛ばしていた。
タバサは部屋に飛び込む前に用意した呪文をエア・スピアーにしていれば。と後悔していた。
「へっへっへ、こっちの勝ちだな」
相方にジョヴァンニと呼ばれたメイジが、勝ち誇ったように笑った。
「それはこっちの台詞だわっ! エア・ハンマーッ!」
「ルイズ!?」
「……!?」
キュルケとタバサが、ものの見事に破壊された部屋で顔をゆがめたとき、後ろから高らかなルイズの声が響いた。
全員が、頭にさんしょうおを載せ杖を構えたルイズの方に気を取られた瞬間、桃色の少女の渾身の力を込めた呪文が
解き放たれた。
「モキュッ!≪設定バッチプログラム A-023 起動!≫」
キュルケとタバサは嫌な予感を感じ、とっさに頭を下げて床に伏せた。その上をごうっという轟音が響き渡ったかと思うと、
耳障りな破壊音と、”ぐえっ”と言う蛙を潰したような悲鳴が響き渡った。
「あ……、え、えーと」
「ルイズッ! あんた、私達を殺す気? 私達が死ねば良いと思ってるわね?」
「……」
「ご、ごめん」
キュルケとタバサが恨みのこもった目で床から見上げたが、次の瞬間はっと気がついてタバサの母親の元へ走った。
盾にされ良いように振り回されていたが、毛布に包まれたタバサの母親はさしたる怪我も無いようだった。
はぁと力が抜け、床にぺたんとしゃがみこむタバサを横目に、キュルケが剣呑な目をぎらつかせて立ち上がる。
「さーて、良いようにやってくれたわね、いい加減ストレス溜まってたのよ」
ルイズのエア・ハンマーで壁一面が吹き飛ばされ、テラスと化した部屋からキュルケは巨大な火球を手に中庭に下りた。
歩くたびに火球が大きくなっていく。
エア・ハンマーに打ち抜かれ中庭に吹き飛ばされた傭兵メイジ達は、とっさに展開した風の障壁で圧死こそ免れたものの、
かなりのダメージを受けていた。
「おい、聞いてないぞ、全員がトライアングル以上でおまけにスクウェアまでいやがる」
「……けっ」
「あなた方、これを受けても平気かしら? ちょっと熱いけど、”微熱”のキスよ、喜びなさいな」
流石に修羅場をくぐっているのか、この状況から退路を探そうとする傭兵達に、ある意味感心したキュルケは、
一呼吸おいてから炎の塊を放った。
夜を焦がすような炎の固まりは、三人を黒焦げにすることも無く、当たる直前に真横に弾き飛ばされた。
キュルケの表情が強張る。
「やはり、蛮人の傭兵はあてにならんな。なぜ母親を使わなかった?」
「ちっ」
「言いたい放題言いやがるぜ、これでも最低の仁義ってもんがあらーよ」
「言い訳は見苦しいな」
「くっ、分かったよ、勝手にしやがれ」
いつの間にか、三人の後ろに羽帽子をかぶって茶色いローブを着た痩身の男が立っていた。
命を救われたにもかかわらず、三人は新たに現れた男を嫌悪していた。
ひとしきり痩身の男をにらみつけると、つばを吐き捨てて体を引きずりながら退却していく。
キュルケはその光景を見ていた。傭兵達がさっさと引き上げるその判断も小憎らしいが、自分の火球を逸らした目の前の
男を警戒してか、何も出来なかった。動く影を視界の隅に捕らえ、横目で見るとタバサが同じように杖を構えている。
ルイズはただならぬ気配を感じ、モンモランシーとさんしょうおに”タバサの母親を守って”と言い残して前衛の二人の
元に駆けつけた。

この惨状を見ても眉ひとつ動かさない男に、どこか不気味なものを感じた三人は揃って杖を向けた。
「要求が一つ、いや、二つ……かなあるのだが。お互いの為に受け入れてもらいたい」
「何よっ」
「まず一つ目は、暴れないでほしい」
「ふざけるんじゃないわよっ! 暴れてるのはそっちじゃない」
杖を突きつけられていても、平然とした口調にルイズは反発した。キュルケとタバサも同じ考えなのか、口を挟むことは
なかった。
「もう一つは、そこの娘とその母親を連れて行くことを了承してもらいたい」
ルイズ達の反発を聞き流したように、淡々と自分の要求を続ける痩身の男は、思い出したように羽帽子を取った。
屋敷から漏れる光に羽帽子からあふれた長い金色の髪が煌き、そして、秀麗な顔と特徴的な尖った耳が顕になった。
その耳をみた三人、屋敷からタバサの母親の看護をしながら様子を見ていたモンモランシーを含めて四人は、
それこそハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
それほど目の前にエルフと言う存在が現れたことが衝撃だった。
エルフと戦ったときは十倍の兵力の時にようやく勝てた。と言う現実もある。年若いメイジの少女達も目の前の存在の
強力さを骨の髄まで理解していた。
「……エルフ」
「ルイズ、だめ、エルフよ」
「ふ、ふ、ふ、ふざけんじゃないわよ、エ、エ、エルフが何よっ、タバサを連れて行くですって? そんなこと許さないわ」
ルイズの声に我に返ったキュルケとタバサは、それぞれの最強の呪文を唱えた。
氷の嵐が舞い、巨大な火球が飛ぶ、そして一呼吸遅れて空気の槌が細身の体を打ち据える。はずだった。
勝利を確信した三人の表情が凍った。渾身の力を込めたはずの魔法がすべてあらぬ方向に逸らされる。
氷嵐は中庭で炸裂し、庭の木を引き裂いていく、巨大な火球は弾き飛ばされ屋敷に抱擁する。そして空気の槌は空に舞い
上がる。
「なっ」
「効かない」
「お前達蛮人はすぐにそうやって力に訴える。相手の力も知らずに無駄な努力をする。確かにお前達の力は強力だ。
これほどまでに精霊の力が豊かな地でなければ、私の方が打ち破られていただろう」
蒼白になった顔を、哀れなものを見るように見つめたエルフは悲しげに呟く。
エルフの言葉を耳にしたルイズは”無駄な努力”という言葉に、カチンときた。
努力を惜しむな。と言う自分の母親の言葉を穢された思いがした。
烈火のように舞い上がったルイズの怒りは、がたがたと震えそうになる恐怖に一瞬で駆逐した。
目の前のエルフ、とてつもなく強力な先住魔法を使う巨大な壁を、ルイズは昂然と胸を張って睨み返した。
「無駄ですって? あんた、今、無駄って言ったわね? 努力の何が無駄なのよ、無駄な努力なんて何一つないわ。
相手の力が勝ってたら尻尾を巻いて逃げ出せっていうの? そういうのを負け犬根性っていうのよっ。相手が何だろうが、
どれほど強かろうが、自分の誇りと信念にかけて逃げ出すなんてするもんですかっ! わたしはわたしであるために、
わたしの周りの人のために無駄と言われようとも、どれほど困難であっても努力し続けるわ、いくらあんたが強くても、
わたしは逃げない。逃げたりするもんですかっ! タバサも連れて行かせないっ!」
「ルイズに励まされるなんて、私も焼きが回ったわね」
「……うん」
ルイズは全身を駆け巡る高揚感と共に杖を掲げた。
その熱気に当てられたのかキュルケは髪をがしがしと荒っぽく掻き上げ、タバサも長い杖を握りなおした。
エルフはそっと首を振って、悲しい物語を聞いたようにしんみりと呟いた。
「愚かな。蛮人はただでさえ短い命をそうやって粗末にする。何故おとなしく理に従えない? 何故自然に逆らう?
それがゆえに蛮人でもあるのだが……。では、その短い命であがいてみるといい」
エルフの言葉に挑発された三人は、ほとんど残っていない精神力を振り絞って呪文を唱え始めた。
傭兵と戦った後であり、キュルケもタバサも、最盛期の威力は望むべくも無かったが、意識が飛びそうになるのを堪えて
魔法を構築する。余力のあるルイズは、タバサと口をそろえて氷嵐の呪文を唱える。自分と同期するようなルイズを
チラッと横目で見た青白い顔のタバサにルイズは笑い返した。
炎の塊と、二つの氷嵐の渦が巻き起こり、立て続けにエルフを押し包む。
勝ったと思った瞬間、エルフの前で留まった炎と氷嵐は相殺され、残った氷嵐の回転が変わり、同じ勢いでルイズ達を
襲った。
「っ!」
「だめっ!」
「ルイズーーーーッ!!」
「モキューーーッ!!」
精神力を使い果たしたタバサとキュルケは身動きも出来ずに、膝から崩れ落ち迫り来る死の刃を見つめていた。
二人とも自らの視界が何かにさえぎらた所で意識を手放した。
ルイズは咄嗟にタバサとキュルケの前に体を投げ出して二人を庇い、自らの放った氷嵐を自ら受けた。
モンモランシーとさんしょうおの悲鳴が重なる。

豊かなピンクブロンドの髪が無残にも引きちぎられていく、ざくざくと言う音が全身のいたるところから響いていく。
全身を侵食する冷気と激痛に犯されても、意識が飛びそうでも、何があっても友人を守る。その心が両手を広げ続けていた。
(ああ、わたし、死ぬんだ……シロ姉……さんしょうお……ごめんね……)
激痛が全身の神経を焼き尽くして行き、脳裏の片隅でルイズはシロ姉とさんしょうおに謝っていた。もう四肢の感覚も無い。
シロ姉にもう会えなくなるのが無性に悲しかった。
そのまま後ろに倒れかけた体が何かに支えられる。
やわらかく抱きかかえられていることに気がついたルイズは、最後の力を振り絞って片目をあけた。
呆然として泣きそうなシロ姉の顔があった。
「……イ…チ、ヒ、コ…?」
「シロ姉……」
最後にシロ姉の顔が見れた、……ありがとうって……いいたかった……けど、……口はもう……動かない。
も…う…何も…み…え……

R-シロツメグサは目の前の光景が信じられなかった。
アリシアンレンズ≪EES≫が屋敷のほうで爆発する音を拾った瞬間屋敷に向かって駆け出した。
屋敷の門の前で、同じ服を着て武装したマンカインドの集団に制止され、時間をかなりロスした。結局武器を向けて
来たので弾き飛ばして屋敷に入った。
と今度は三人組の男に遭遇し、やはり行く手を阻まれた。いい加減、切れていたので有無を言わさず意識を飛ばした。
ようやくたどり着いたとき、R-シロツメグサの目に映ったのはついさっき湖畔で出会った男の前で、両手を広げ
血だらけのルイズがゆっくりと崩れ落ちようとする姿だった。
「……イチヒコ、イチヒコ、イチヒコ、イチヒコーーーーーッ!」
男を突き飛ばして抱き留めたイチヒコの体の生命反応が薄くなってきている。R-シロツメグサはがくがくと震えながら
急いでさんしょうおの尻尾を千切り取り、生命維持に重要な器官を優先して修復する。
この時、R-シロツメグサは、R-シロツメグサの心≪レム≫は”恐怖”を感じていた。イチヒコがいなくなる恐怖、
また”すきって意味のことば、ぜんぶならべたくなるくらい、すきなやつ”を失ってしまう恐怖。
無我夢中でルイズを治療するR-シロツメグサはこの時、この上も無く”人間”だった。
R-シロツメグサは涙を流しながら、ルイズの体を見つめる。血にまみれ切り刻まれた体をそっと抱きしめる。
這いよるように近づいてきたモンモランシーが震える手で口を押さえながら真っ赤な目で見つめる中、全身でルイズを
抱きしめるR-シロツメグサは声を上げて泣いた。
二人の周りに異常に活性化したドレクスラーの光が乱舞する。
ほとんど停止していた心音が徐々に力を取り戻したことでR-シロツメグサは、ようやく落ち着きを取り戻した。
流血箇所の傷がほとんどふさがったころ、R-シロツメグサはモンモランシーにルイズを任せて立ち上がった。
「お前は……」
目の前の精霊じみた少女が引き起こした奇跡のような光景に絶句していたビダーシャルは、立ち上がったその目に、
限りない怒りと憎しみが渦巻いていることに気がつき、思わず一歩後退した。
立ち上がったR-シロツメグサは、射殺すような視線でビダーシャルを見据え片手を横に伸ばした。
「よくも、よくも、よくもわたしのイチヒコに……」
歯軋りの間から唸る様に呟いたR-シロツメグサの瞳から涙が一筋零れ落ちる。
「モキュッ『重サラマンドラ槍≪アンドリアス・ショイフツェリ≫使用可能です』」
伸ばした手に光が集まり、純白の槍が象られる。R-シロツメグサの誇る最凶の兵器、すべての物を素粒子よりも
小さいものに破壊する禁断の兵器。
R-シロツメグサは目の前の男の存在が許せなかった。イチヒコをこんなに傷つけたやつ。イチヒコを殺そうとしたやつ。
そんな存在がこの宇宙に、あっていいはずが無い。こんなモノは消えて無くなればいい。
「な、な、なんだ、それはっ、くっ」
ビダーシャルはその槍に本能的な恐怖を覚えた。あれは駄目だ、見てはいけない、即座に……速やかに逃げろ!!
本能の警告に従ってビダーシャルは飛行の魔法を使ってその場から飛び出した。
「おまえはあああぁぁぁぁっ、わたしのイチヒコにぃぃぃぃぃっーーーーーーーーーーーーー!」
R-シロツメグサは、飛んで逃げようとするビダーシャルめがけて、純白の槍≪アンドリアス・ショイフツェリ≫を
振りかざした。
「せ、精霊が……いかん」
フライで飛びながら、この地の豊富な精霊の力で絶対の防御を張る。だが、その精霊の動きが鈍い、すべての精霊があの
青と白の少女の方に向いている。悪寒を感じ後ろを振り返ったビダーシャルに、R-シロツメグサは絶叫と共に
槍≪アンドリアス・ショイフツェリ≫を投擲した。
「ま○こみたいに穴空けて死ねえええええぇーーーーーーーーーーーーー!」


らてぃらてぃらてぃら♪ らてぃら♪ らてぃらてぃらてぃら♪ ら~らららら♪ じゃんっ♪
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