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るるる-14

Row, row, row your boat
漕いで、漕いで、船を漕いで
Gently down the stream.
そっと小川を下ろうよ
Merrily, merrily, merrily, merrily,
楽しいね、楽しくね
Life is but a dream.
人生は夢なのだから

ぽんぽんぽん、ぽ、ぽぽぽぽぽん♪ ぽかぽかぽん♪ ぽ、ぽぽぽぽぽん♪

「あれ?」
「モキュ? モキュモキュー」
目を開いたルイズが真っ先に見たものは、歴史を感じさせるような板張りの天井だった。ベッドに仰向けになって
寝ていたらしい。ルイズは自分の置かれた状況が理解できずに、ゆっくりと身を起こした。
広い部屋の中央に置いてある四人掛けのテーブルの上に座っていたさんしょうおが、目を覚ましたルイズに気が付いて、
ゆっくりと飛んできたので、胸に抱きながら辺りを見回した。
清潔そうな白いシーツのダブルベッド、それから柔らかい羊毛の毛布。豪華ではないがいずれも丁寧な造りのものだった。
なんとなく見たことある部屋だな、と考えていたルイズは、先日泊まったラグドリアン湖の旅籠だとふっと思い出した。
目一杯に開けられたカーテンと窓からは、かなり高くなった太陽の明るい日差しが差し込み、気持ちのいい風が
流れ込んでくる。遠くからの子供の笑い声や、鳥の鳴き声。威勢のいい掛け声などが響き、自然とルイズの表情を
穏やかにさせる。
穏やかで平和な午後の光景だった。
「……イチヒコ」
「あ……、きゃっ」
かちゃ。という音と共に部屋のドアが開き、反射的に振り返ったルイズの瞳に、奇麗に畳んだ白いバスタオルを手にした
シロ姉が映った。
おはようと言うべきか、寝坊してごめんなさいと言うべきか迷っていると、タックルを受けたようにシロ姉に抱きつかれ、
そのままベッドに押し倒された。
「イチヒコイチヒコイチヒコ……」
「あ、し、シロ姉、ちょっ、ちょっと落ち着いて」
顔を胸で抱え込むように抱きしめられ、やわらかい双丘の感触になんとなく劣等感を感じるルイズは、感極まったように
名前を連呼するシロ姉を、じたばたともがいて、なんとか引きはがした。
再び起き上がったルイズが、身を離してベッドの隅にちょこんと座るシロ姉を見て驚いた。泣き出しそうなくらい
目が潤み、でも心底安堵した様な表情のシロ姉は今まで見たことがなかった。
「……」
「え、えーと」
「イチヒコ、駄目。危ないことするの、駄目」
両目に宝石を湛えたような眼で見つめてくるシロ姉にルイズが言葉を選んでいると、今度はゆっくりと抱きしめた
シロ姉が溜息をつく様に呟いた。
その言葉をきっかけに、ルイズの脳裏にエルフとの戦いの記憶が蘇っていく。全身を切り刻む感覚と共に。
「あ、うぅ、かはっ」
全身を覆う悪寒がルイズの体をがくがくと震わせ、体中の血液が凍っていく感触がルイズを襲う。同時に体中を
切り刻まれて行く痛みが、ルイズの小さい体を陸に打ち上げられた海老のように跳ね上げ、呼吸を詰まらせる。
がくがくと震え始めたルイズをシロ姉が優しく、そして、自らを拘束具と化したように強く抱きしめた。ルイズの口に
指を差し込んでいるのは、舌を噛み切らないようにという配慮だろう。
シロ姉の「大丈夫」と繰り返される優しい声と、温かく柔らかい感触にルイズの震えは徐々に落ち着いていった。
戦いの末路に見たシロ姉の顔。全身をくまなく覆った激痛の嵐の中、目の前が真っ暗になる寸前に見たシロ姉の顔。
その顔が同じように自分を見つめている。
ルイズは、深い闇の奥から、吹き荒れる吹雪の中から、救い出してくれるような光をその瞳に感じた。
「……シロ姉が助けてくれたの?」
しばらくして、呼吸が落ち着き、記憶の整理がついたルイズが、全身を冷や汗でべっとりと濡らしながらも、
ぎこちない微笑みを浮かべた。青白い顔に、水をかぶった時の様に張り付いた髪がルイズの憔悴度合いを示していた。
「……そう」
「……ありがとう、シロ姉」
ぶるっと震えるルイズに気がついたシロ姉が手早く服を脱がせながら……というより、服を分解し、さんしょうおが
咥えて持ってきたバスタオルでルイズを包んだ。
なすがままだったルイズが、体が温まるにつれ気分が落ち着いたのか、シロ姉の胸に頭をことんと預けて、子犬が
じゃれつくような無防備な微笑みを浮かべてゆっくりと見上げた。
「……」
「え? 何?」
その天使の様な表情に、微かに頬を染めたシロ姉が何事かを口にした。
ちょうど、耳もとのタオルが邪魔で聞き取れなかったルイズが、もそもそと顔を出し、じっと見つめて聞き返した。
「……もっと、かんしゃする」
「うん、ありがとう、シロ姉」
シロ姉が上気しながら、濡れた目でルイズを見つめ、ルイズは無邪気に笑い返した。
感動したように、しばらくその顔を見つめていたシロ姉がゆっくりとルイズに顔を近づけていく。答える様にルイズも
両手をシーツから出してシロ姉の首に抱きつきかけた時、戸口からこんこんという音がした。

「あ、あの、やっぱり昼間はまずいと思うわ」
シロ姉必殺桃色空間に取り込まれかけていたルイズが、はっと我にかえって戸口を見ると、真っ赤な顔をした
モンモランシーと、その後ろで溜息をつきながら少々やつれたキュルケが立っていた
「キュキュキュッ」
「何よ? ネズミの真似?」
顔を真っ赤にして胸にタオルを掻き抱いて腕を振り回すルイズに、キュルケは早朝に叩き起こされたような
腫れぼったい顔を向けた。
「キュルケッ、いつから覗いてたのよ」
「人聞きの悪いこと言わないで欲しいわ。覗いてたんじゃなくて、扉をあけっぱなしだったのが悪いわよ。
あと『ちょ、ちょっと落ち着いて』くらいからかしら?」
かすれた声で、壁にもたれかかるキュルケをみて、その疲労度合にルイズの怒りも急速にしぼんでいった。
「あ、あ、あ、あのねぇ」
「別にどおってことないわよ、見慣れてるし」
「ううう~」
「ま、いいわ、ちょっと借りるわよ」
キュルケが部屋に入ってきてテーブルに突っ伏し、モンモランシーとタバサもその横に陣取った。
隠れて見えていなかったが、タバサもキュルケの後ろにいたらしい。
二人とも疲労困憊なのは明らかだった。部屋に入るなり、キュルケと同じようにぐったりと椅子に座りこんだ。

「さんしょうお 何があってもイチヒコを守る」
「モキュ」
シロ姉が食事を持ってくると言って、さんしょうおに厳かに告げてからルイズの頭の上に置いて部屋を出た後、
モンモランシーがぽつりぽつりと、あの後のことを話し出した。
ルイズはどう贔屓目に見ても死ぬ寸前だったらしい。あんなにボロボロになった人は見たことないわ。とは
モンモランシーの言葉。
死にかけていたルイズの傷をシロ姉が塞ぎ、一命を取り留めた段階でモンモランシーがルイズを預かった。
大半は修復されていることに驚いたが、それでもまだ塞ぎ切れていない傷を水魔法で治したり、ルイズが庇いきれずに
傷ついたキュルケとタバサの体を治療をしている間に、シロ姉と対峙していたエルフが消えてしまった。
「消えた?」
「ええ、消えたわ。槍の形をした魔法みたいなんだけど、ぱぁっと光ったかと思うと、跡形もなく……ね。正直言って、
水の精霊の力ってとんでもないと思うわ。モンモランシ家は長い間精霊との交渉役をしてたけど、そんな力なんて
まったく知らなかったの」
「私達で相手にならなかったエルフに勝つって、さすがというべきかしら? それとも、恐ろしいと言うべきかしらね」
「どうかしら、でも、ルイズ。シロ姉の力は危険よ? あんな力持ってるってばれたら、確実に狙われるわ」
モンモランシーの言葉に、ルイズはハンマーで殴られたようなショックを受けた。
シロ姉は、率先して力を使うことは無い。それこそ自分が窮地に陥ったときとか、悲しんでいるときに限られる。ただ、
実際に力を使った時は常識というものを根底からひっくり返すような結果を引き起こす。今までは良い方に結果が
出ているが、それが悪い方向に向いたら……。
確かにシロ姉の力を欲しがる人間は多いだろう。巨大なゴーレムを融解し、湖に大渦を引き起こし、エルフを打ち
倒すほどの力。ある種の人間にはその力は垂涎の的だろう。
それこそ、モンモランシーに聞いた昔話に出てくる精霊の力で戦争をはじめたという人間達のようにシロ姉を……。
そこまで考えたルイズははっとなってシロ姉が出て行った扉を見つめた。
(もし、わたしがシロ姉にガリアを滅ぼして。と言ったら……)
ルイズの脳裏に、無数の死体の上で無表情なまま力を行使するシロ姉の姿が浮かぶ。
(だめだめだめっ、そんなの駄目よっ)
時折、学院の庭で花に埋もれ、優しい頬笑みを浮かべて静かに佇むシロ姉の姿をルイズは知っている。その自然の中に
溶け込む様な姿は本当に精霊みたいに思える時もあった。口数が少なくて不器用だけれど、とても優しいシロ姉の姿を
知っているルイズには、血みどろの大地の上で無表情に命を奪っていく姿を想像することは嫌だった。しかし、自分が
望めば想像通りの結果を生むような予感がして、ルイズはぶんぶんと頭を振った。悪夢を振り捨てるように。

「ガリア正規兵?」
考え込んでいる間に、モンモランシーの話が進んでいたようで、キュルケの困惑した声がルイズの意識を怖い想像から
引き戻した。
「そうなの。屋敷を取り囲むように倒れてたらしいわ。だからあわてて身を隠したのよ。まあここも長居はできないけど、
少なくともトリステイン領内だし、知人も多いから多少はなんとかなるわ」
モンモランシーに、このままだとガリアに連行される危険があるとペルスランが伝え、移動用の馬車を用意した。
しかし国境を越えれないことが明らかなので、結局馬車を風竜に吊下げてラグドリアン湖を渡り、そして旅籠に
隠れるように逃げ込んだ。
モンモランシーの言葉にルイズ達が聞き入っていると、シロ姉が宿の人間を連れて戻ってきた。
部外者が現れたので一行の口が自然と閉じる。が、それ以前に部屋に広がった美味しそうな匂いが、口を閉ざした本当の
原因かもしれない。
香ばしい香りは年若い少女達の胃袋を刺激し、顔を見合せた四人は目を輝かせて並べられていく料理を見つめる。
宿の人間がもってきた着替えに慌ててルイズが袖を通し、テーブルについたと同時に、ハムを挟んでキツネ色に焼いた
パンや温かいスープを全員が無言で体にしみわたらせていく。
がっついて食べない所はさすがに貴族の一員だが、それでもマナー担当の人間が見たら眉をしかめるのは確実だった。
欲求の一つが満たされて落ち付いたのか、四人の表情に力が戻っていくのは若さの特権なのだろう。
全員が一息ついて、ほっとした空気が流れたときに、どんどんと戸が叩かれ、外から切迫した声が掛けられた。
「シャルロット様! 奥様がお目覚めに!」
「……!」
「えっ?」
声の主はペルスランだったが、その言葉を聞いたタバサの動きは素早かった。肌身離さず持っている杖を手に取るなり
脱兎のごとく駆けだした。ルイズたちも、一歩遅れて同じように飛び出した。

昨日、モンモランシーが一人で泊まっていた部屋にタバサの母親は寝かされていた。
ドアをあけるのも、もどかしそうにタバサが飛び込み、部屋に入ることを遠慮したルイズ達は廊下から様子を窺った。
その部屋は、ルイズ達の止まる部屋よりも豪奢だった。その旅籠の最上級の部屋の天蓋付きのベッドに母親は
寝かされていた。
やせ細ったタバサの母が介添えの老メイドに支えながらゆっくりと身を起こす。
「母様!」
キュルケですら聞いた事のないような弾んだ声で、部屋に飛び込んだタバサに母親は驚いたような表情を向けた。
「あ、あの、えーと、どちら様でしょう?」
「……え?」
その痩せ細り、一見して老女とも思えるような容貌をしていても正気を取り戻したタバサの母親の声は若かった。
そのギャップが更に痛々しさを際立たせる。そして、唐突に飛び込んできた少女を、怯えと共に見つめる母親の言葉が
タバサの動きを止め、表情を万年雪の山頂に上った時の様に凍り付かせていく。
「あ、ご、ごめんなさい、覚えてないの」
「そんなっ」
戸口で見ていたルイズ達は異口同音に叫んだ。なんで? ここまできてなんで? ルイズの心にはやるせなさが満ちていく。
近くにいるシロ姉に目を向けるが、シロ姉はそっと首を振った。
身じろぎもせずにタバサの様子を見ていたキュルケの表情が見る見る強張っていく。
戸惑いと、微かに、だが隠しきれない恐怖の表情を向ける母親を見つめていたタバサは、一瞬天井を振り仰いだかと思うと、
一歩下がって片膝をつき、杖を体の前に置いた。
俯いて床を見つめていたタバサが、ゆっくりと顔をあげる。
その表情はいつものタバサと何も変わらなかった。感情を押し殺し、”タバサ”を演じるシャルロットがそこにいた。
”タバサ”は己の母親を静かな目で見つめた。母親も、タバサの所作に自分を害するものではないと理解したのか、
表情を和らげる。
「……私はタバサ。雪風のタバサ。あなたを守る者」
「……タバサ。どこかで聞いた名前だわ」
その名前に何かを感じたのか、母親は不意に遠い目をする。
老メイドは窓の方を向いてエプロンで顔を覆い、ペルスランはじっと床を見つめる。
やりきれなくなったルイズが部屋に入り込もうとするのを、振り返ったタバサが鋭い視線と揺れる声で釘を刺した。
「タバサッ」
「黙って。お願いだから……、お願いだから黙って。ルイズ」
殆ど名前で呼ぶことがないタバサに、感情を露にして名前で制止されたルイズは両手を握りしめ、唇を噛みしめた。
タバサの一言に込められた悲痛な叫びがルイズには分かってしまった、どれほどタバサが苦しんでいるか、そして
その苦しみを出さないと必死で耐えていることを。すべては母のために。
人形のように無表情になっているのは、そうでもしなければ耐えられそうにないから。そうでもしなければ、自分が
崩れてしまいそうになるから。シャルロットではなくタバサであれば、耐えることが出来る。
唇をかみ締める桃色の友人を横目に見たキュルケは、シロ姉にルイズをよろしくと言い残してそっと部屋に入って扉を
閉ざした。
ルイズはそれをただ見送ることしか出来なかった。無力感に震える体をシロ姉が後ろからそっと抱き寄せる。
悲しげに首を振るモンモランシーと共に三人は閉ざされた扉の前で沈黙の彫像と化していた。

しばらくして、そっとドアが開いて、充血した目のタバサがルイズ達を招き入れる。
こんな時にルイズ達よりも冷静な対応が出来るキュルケが、ベッドの傍に置いた椅子に座りタバサの母親と話していた。
「とりあえず、何も判らない身です。お任せ致します」
母親がゆっくりと頭を下げ、キュルケも立ち上がって礼を返す。入り口近くで固まっているタバサに顔を向けた。
「タバサ、いいの?」
「いい」
タバサは、キュルケに軽く頷くと、ベッドの方へゆっくりと歩いていった。
すぐに母親と同じ視線になるように片膝をつく。
「……ひとつだけ、ひとつだけ、お願いが」
タバサの口から漏れた声は、月の輝く深い森の様に静かだった。透明だった。そして、ルイズには悲しかった。
「え? 私に? なにかしら?」
やせ細る前であれば、舞踏会で幾多の貴族を虜にしたに違いない微笑みを前に、タバサは自分の思いを断ち切るかのように
母の顔を見つめた後、そっと頭を下げた。
「頭を撫でてもらえますか?」
「え? こうかしら?」
本来であれば抱きしめたいに違いない衝動を必死にこらえるタバサと、ぎこちなくもどこか嬉しそうにタバサの頭を
撫でる母親を見て、キュルケは踵を返し、ルイズ達も続いた。
「私達は遠慮しましょうか」
「そうね」
扉を閉める時に振り返って見た母と娘の光景は、ルイズの心の深い所に刻み込まれた。

「さて、これから、どうする?」
「一旦王宮に帰ってアンリエッタ様に報告しないと」
「まあ、そうね」
「……イチヒコ」
「何? シロ姉」
ルイズの部屋に戻った一行がテーブルに着いて相談を始めた時、ベッドに腰かけていたシロ姉が困惑した表情をルイズに
向ける。
その戸惑った声に全員の顔がシロ姉に向いた。
「なぜ、タバサは説明しない?」
「え?」
「自分が娘だと、何故説明しない?」
「うーん、難しいわね」
シロ姉の理解不能だというような口調の質問に、ルイズも戸惑った。感覚的に理解はできても、口で、それもシロ姉に
きちんと伝わるように、どう説明したらいいだろうか? と思い悩み始めると、横からキュルケが口を挟んできた。
「シロ姉、あなたならどうする?」
「……何を?」
「たとえば、よ。ルイズが死にたいくらいの悲しい目に会って、あなたの記憶も一緒に失ったとするわ」
「勝手に人を記憶喪失にさせないでよね」
「うるさいわね、たとえ話でしょっ! で、それであなたが過去を説明したら、一緒にその悲しい記憶が戻ってしまうと
したら、それでもあなたは記憶を戻そうとする? 記憶が戻ったら悲しみのあまり死んでしまうかもしれないわよ?」
「それは……」
キュルケが真剣な表情をして、R-シロツメグサに向き合う。その視線にいつもと違う何かを感じたR-シロツメグサも
真っ向から受け止めた。
だが、ルイズの茶々を一蹴したキュルケの言葉に、シロ姉はたじろいだように眼を彷徨わせる。
キュルケはR-シロツメグサの妙にずれている感覚が、閉鎖された地域で極少数で暮らしていたからだろうと感じていた。
そうでもなければ、これほどの存在が今まで噂すらでた事がないなんてあり得ない。
(まるで大きな子供みたいね。ルイズと一緒で、ほんとに手がかかること)
キュルケは心の中でクスッと笑う。
「あなたは自分のことを思い出してくれるから、それでいいかもしれない、でも、ルイズにとってはそれが幸せかしら?」
「……」
一息置いてからキュルケに突き付けられた命題にR-シロツメグサの心≪レム≫は乱れた。自分を思い出して欲しい、
自分を見て欲しいという欲望と、同時に悲しむイチヒコを見たくない。もうこれ以上泣き叫ぶイチヒコを見たくない。
という気持ちが、お互いの存在意義を掛けて心の中で暴れ始める。どちらも選択しきれない二者択一。
R-シロツメグサの心≪レム≫は悲鳴をあげる。
「私はそれでも説明するわよ」
「モンモランシー……」
そんな中、毅然とした声が、横合いから掛けられた。言葉の主は、金色の髪をした感情豊かな少女だった。
R-シロツメグサの揺れる瞳に見つめられ、ちょっと照れたような表情を浮かべたモンモランシーは、おどけた声で
笑みを浮かべた。
「だって、未来があるじゃない。たとえ死にたいくらいのつらい記憶でも、一緒にがんばれば乗り越えていけるわよ」
「そうね」
その言葉にキュルケが頷く。そして再びR-シロツメグサに視線を合わせたキュルケは自嘲するように呟いた。
「そういう意味ではタバサは、自分の感情を殺してでもお母様の平穏を望んだのよ。まったく、あの子らしいわ」
どこか悲しげな声のキュルケは、それだけ言うと、頬づえをついて窓から見えるラグドリアン湖を見つめる。
キュルケが小さく「ばかね」と呟いたのをR-シロツメグサの耳が拾う。何処となく透明なキュルケの顔を、
R-シロツメグサはまじまじと見つめた。
ふとルイズの視線を感じたR-シロツメグサは、ルイズに向き直った。
「……イチヒコはどっち?」
「え? わたし?」
シロ姉の問いにルイズはあからさまに動揺した。わたわたと慌てるルイズを、横眼に見たキュルケはテーブルに
突っ伏して顔だけ向ける。
「ルイズはねぇ、説明した後に、わたしを忘れるなんてふざけんじゃ無いわよっ! って怒鳴ってから、
めそめそ泣くタイプね」
「キュルケッ」
「まあ、ひとついえることは、正解なんて人それぞれなのよ」
顔を真っ赤にしてぎゃんぎゃんと吠えるルイズをあしらうキュルケを見ながら、R-シロツメグサの心は晴れなかった。
タバサは自分の存在を殺してまでも母親の平和を望んだらしい。であれば、記憶が戻らない限りタバサ本人は誰にも
救ってもらえない。そんな自己犠牲をどうして行うのか分からなかった。
「それが人間よ、シロ姉」
「……それが人間≪マンカインド≫」
R-シロツメグサの考えを見透かしたかのように、キュルケがいたずらっぽく笑う。
キュルケの『人間』という言葉は、波打つ心≪レム≫に翻弄される小舟の様なR-シロツメグサをまるで錨を
おろしたようにがっちりと繋ぎとめた。
「それが人間」と口の中で小さく繰り返すシロ姉は、心配そうなルイズの視線に気がついて、大丈夫だというように
そっと微笑んだ。

「ねぇねぇ、話を変えるけど、問題がひとつあるわよ」
「何?」
ルイズをからかっているキュルケを頬杖をついて見ていたモンモランシーがふっと思い出したように顔を上げる。
その声で動きを止めたルイズ達を見て人差し指を立てた。
「タバサとタバサのお母様の処遇」
「……」
「タバサは留学して来てるからいいとして、タバサのお母様を保護してるってことになると、どう考えてもガリアと
喧嘩になるわ」
「……そうね」
「どうするの?」
少し賑やかになったその場の雰囲気が一気に静かになった。ただ助けて終わり。というわけにはいかない。タバサの屋敷を
ガリア兵が囲んでいたことや、タバサと母親を攫おうとした点から見ても、ガリアのかなり上層部が関与しているに
違いない。
理由は分からないが、強引な手法を使っている点からも、かなり剣呑な状況なのかもしれない。
キュルケには考えがあるような表情を見せているのが気になるが、ルイズにできることは限られていた。
「とりあえず、アンリエッタ様に報告もしないといけないから、王宮に戻るわ。風竜も借りてるし」
ルイズの言葉にモンモランシー達は同意するように頷いた。

翌日の明け方早く、まだ夜の領域が幅を利かせている頃に、二頭の風竜に分乗し、タバサの母親とペルスラン達を乗せた
馬車を慎重に持ち上げて王都へ飛び立った。
昼過ぎに王宮に到着したルイズはラ・ヴァリエールの名前を使って王女との謁見を申請した。
かなり待たされるのでは? という予想を覆して、ルイズ達の控え室に侍従が呼びに来たのは、部屋に腰を落ち着けて
いくばくも立っていなかった。

前と同じく、謁見の間の脇の応接室に案内されたということは、アンリエッタ王女の個人的な用件として時間をとったの
だろう。
ルイズは、そっと同席している友人の様子を窺った。キュルケはいつもと変わらず不敵な面持ちで、タバサは無表情を
貫いている。あの後、母親と一緒にいる姿を何度か見たが、見事なまでに無表情だった。
母親から話しかけられると、眼を細めて言葉を交わすが、それでも一線を引いた態度は崩さなかった。
その姿を見るたびにルイズは大声で怒鳴りつけたくなる。でも、いつもキュルケに目線で制されて引かざるを得なかった。
そして、モンモランシー。この場にいる人間で一番緊張しているのは彼女だろう。がっちがちに緊張で固まった表情と
膝の上で握りしめた真っ白な拳が、いっそ可哀想に思えるくらい。モンモランシ家の不始末の追い目や、雲の上の
存在でもある王女とこれほど間近で接する機会などほとんどない彼女は、時間がたつにつれて体が硬直していく。
「大丈夫よ、モンモランシー」と声をかけても生返事しか返ってこなかった。
あと、シロ姉はいつもと変わらず、タバサに負けずとも劣らない無表情だった。ただ、ルイズの視線に気がつくと必ず、
微笑みをうかべて見つめてくる。
じっと見ていると、すいこまれそうになるので、ルイズは軽く笑い返して視線を外した。
そうこうする間に、先触れと共にアンリエッタ王女が満面の笑顔を浮かべながら部屋に入ってきた。
「まあ、ルイズ髪を切ったの?」
「え、ええ、まあ」
純白のシルクをベースにしたドレスに身を包んだ王女が、微笑んで部屋を明るくさせながら上座のソファに腰を落ち付けた。
戦いで自慢の長い髪がボロボロになり、残念に思いながらも見苦しくないように肩口で髪を切ったルイズは答えに困って
笑ってごまかした。
その微妙な表情を察知したのか、アンリエッタは手をぱんと鳴らして、明るく笑う。
「そうだわ、最初に言うことを間違えてました。
ルイズ、ありがとう。ナヴァル伯からも連絡が来ました。水の精霊の暴走が止まったようですね。
水も元の水位に戻っているようです。これでマザリーニ枢機卿も嫌とは言わないでしょう」
「ありがとうございます。しかし、今回の成果に関しては、わたしの友人達の協力がなければ叶わなかったことでも
あります」
ルイズは、アンリエッタの言葉に頭を下げた後、水の精霊に関しての報告と、同席している友人の役割、そして名前を
紹介した。タバサだけは、タバサのままで本名は告げずに。
「まあ、頼もしいお友達ね。これからもルイズをよろしくお願いしますね」
「ひ、姫様! や、やめてください」
「あら、どうして? ルイズを助けてくれた人達に幼馴染の私が頭を下げたっていいでしょう?」
目を丸くして報告を聞いていたアンリエッタが、一同に向き直って頭を下げるのをルイズが慌てて止める。ルイズを
からかって遊んでいるアンリエッタは、それに気が付いて真っ赤になって憤慨するルイズを見て楽しそうにころころと
笑った。
ルイズとアンリエッタの関係と王女の性格の一端を知った一同は、つられるように顔を綻ばせた。

王女との謁見の場が、和やかな午後のティータイムと化してしばらくして、思いつめたようなルイズが、姿勢を正した。
「……アンリエッタ様、ご相談したいことがあります」
「あら、改まって何かしら?」
キュルケとモンモランシーを相手に談笑していたアンリエッタが、今までに見たことのないような幼馴染の表情に態度を
改めた。柔和ながらも毅然とした王女の表情になる。
ルイズは、ほとんど会話に参加せずに押し黙っているシロ姉の方をちらりと見た後に、王女を見つめた。

「まあ、あなたがオルレアン公の忘れ形見ですのね。本来であれば公式の場でお会いするべきでしょうけれど……」
「いえ、私は今は出奔した身です。その御心だけをありがたく頂戴いたします」
傭兵とガリア兵が襲ってきた一連の状況を説明されたアンリエッタは、タバサの手をとって苦労をねぎらった後、
ルイズに向き直った。
アンリエッタの厳しい表情を見たルイズは、芳しい結果が出ないと理解した。
沈痛な面持ちでアンリエッタが目を伏せた。
「難しい話ですね。オルレアン公の奥様ですか、保護してあげたいのは山々なのですが……少なくとも、トリステインは
ガリアと事を構えることは出来ません」
「……アンリエッタ様」
国力差を理解していてもルイズの口調に非難が混じるのは、このままタバサの母親を放り出すことなどできないからだった。
何か方法があるはず。ルイズの頭の中に、その言葉がぐるぐると渦を巻く。しかし、アンリエッタの言葉は無情に部屋に
響く。
「ルイズ、わかって頂戴。トリステインは無力なのです。ガリアと正面衝突した場合は、まず間違いなく負けます。
多分、ヴァリエール公爵も同じ意見だと思います」
アンリエッタの言葉に無力感を感じるルイズは俯いた。モンモランシーも同様だった。トリステイン人として、何も
助力が出来ないのか? それが二人の表情を暗くする。
二人の様子を見つめていたキュルケが、意を決したように顔を上げた。
「僭越ながら、言葉をさしはさむことをお許しください。オルレアン公妃様は、我がツェルプストーで引き受けますわ」
「キュルケ?」
キュルケの唐突で大胆な言葉にルイズ達は驚いた。タバサ自身も、びっくりした様な表情を浮かべて親友を見つめる。
アンリエッタも含めて全員の視線を一身に浴びたキュルケは髪をかき上げた後、今までにない決意を秘めた表情をうかべる。
「いいのよ、ルイズ、多分こうなるだろうと思っていたわ。それにラ・ヴァリエールに出来ないことをツェルプストーが
するっていうのは、とっても理にかなってると思わない? おほほほほっ」
「キュ~ル~ケ~」
最後にちらっとルイズを見たキュルケは、おどけた口調で笑ったが、誰もそれが本心だとは思わなかった。キュルケは
すぐに表情を改めた。
「それはさて置いて、アンリエッタ王女殿下。我がゲルマニアには、いくらガリアとはいえ表立った手出しは出来ません。
それにまさかオルレアン公妃がゲルマニアで保護されているとは誰も思わないでしょう」
「……確かに、その通りではありますが……わかりました。お任せします。道中の護衛はトリステインの魔法衛士隊から
出しましょう」
しばらく考え込んでいたアンリエッタは、タバサ、モンモランシー、そしてルイズ。一通り顔を見回した後、キュルケに
顔を向ける。
キュルケは、アンリエッタの言葉に恭しく頭を下げた。
「……ありがとう」
「いいのよ、タバサ。私に任せない。あと、これからはそんなに肩肘張らなくてもいいわよ」
硬い表情のタバサを優しくキュルケが抱きしめる。
その胸に抱かれてタバサの肩がかすかに震えているのを、一同は静かに見つめていた。

キュルケとモンモランシーがタバサを連れて、その場を辞した後、ルイズは残っていたもう一つの想いを口にした。
「アンリエッタ様、最後にひとつお願いがあります」
「……なんでしょう」
アンリエッタはルイズの鳶色の眼に、なんとなく嫌な予感を覚えた。
この数日の間に幼馴染がどれほどの経験をしたのか? つい先日会ったばかりだというのに、別人かと思うほどルイズの
印象が異なっているのを実感した。どこか世間を知らない、のんびりした雰囲気を持っていたはずが、今はそんな気配は
微塵も感じない。
ピンと張り詰めた高音の弦の様な緊張感をルイズから感じる。アンリエッタは不意に友人が先に何歩も歩き出したような
錯覚に陥った。
「アルビオンへ。アルビオンへ行かせてください」
「……なぜ、今アルビオンなのですか?」
ルイズの言葉にアンリエッタは目を見開いた。ルイズの口からアルビオンという単語が出てくるとは思わなかった。
今、まさに、王宮の重鎮が頭を悩ましている地、そして自分の運命が変わる地でもあるだけに、アンリエッタは激しく
動揺した。
その様子を怪訝そうに見つめるルイズの視線を受けて、アンリエッタは、微かに震える声で理由を聞いた。

「そう。そういうことですか」
ルイズが、水の精霊の恋人を取り返すと約束したこと、そして、恋人をさらった首謀者の名前と、オルレアン公家の
老執事が首謀者の名前に合致する人物を知っていた幸運。
そして、その人物がアルビオンにいるというはずということまで分かったこと。
最後にルイズが、真偽のほどを確かめてきたい。と結び、じっと聞いていたアンリエッタが溜息をついた。
期待と使命感に燃える目のルイズを前に、アンリエッタはゆっくりと言葉を紡いだ。
「ルイズ。今、アルビオンでは内乱が起きています」
「内乱、ですか?」
怪訝そうなルイズを前に、アンリエッタが知る状況を説明した。
魔法学院という世俗から隔離された状況にいたルイズが、初めて聞く内容に表情がこわばっていく。
「ええ、一部貴族達がまとまって反乱を起しています。その反乱軍のリーダーの名前がクロムウェルというそうです」
「なんですってっ!」
クロムウェルという名前が出たこと、そしてそれが反乱軍の首魁であると聞かされたルイズは思わず立ち上がった。
握りこぶしを振る振ると震わせる幼馴染をアンリエッタが眩しそうに見つめる。
「そして、反乱軍は、とても遠くから届く強力な電光の魔法を使っているようで、固定化を掛けた砦がバターの様に
切り裂かれてまるで役に立たないそうです。
そもそも、そんな電光の魔法など、初めて聞きましたし、対応が取れないそうで、連戦連敗の状況の様です」
「そんな」
「ただ、その魔法も頻繁に撃てないらしいので、なんとかなっているようですが、このままでは
いずれ負けてしまうでしょう」
アンリエッタの言葉に、ルイズの脳裏に一つのキーワードが浮かんだ。
「アンリエッタ様、それはもしかしたら、水の精霊の恋人の力かもしれません。クロムウェルという人物が水の精霊の
恋人の力を悪用しているとしたら、つじつまが合います」
ルイズの真剣な表情に、アンリエッタは口を両手で覆った。水の精霊の力は先日来まざまざと見せつけられている。
その力と同等の物が敵の力となったら? 到底勝ち目がない。
アンリエッタは深い穴に落ち込んでいく様な、深い闇の奥に放り出されるような悪寒を感じた。アルビオン王家の勝利を
必死に望み、始祖に毎日祈っていたが、一縷の望みすら立たれてしまった。そんな力が敵であれば、愛するアルビオンの
皇太子の命も希望は持てない。
アンリエッタの目から透明な滴が流れ落ちる。
ルイズは、アンリエッタが突然流した涙に狼狽して、慌てて立ち上がってアンリエッタの元に駆け寄ろうとした。
その動きを、シロ姉の言葉が止めた。
「……それはX-428の光線砲≪デラメーター≫」
二人の視線を一気に浴びることになったR-シロツメグサだが、特に変わった様子もなく、ルイズを見つめ返す。
アンリエッタが涙を拭いて、意を決したように訊ねた。
「アール・シロツメグサディー卿は、電光の魔法を知っているのですか?」
「知ってる。でもX型のセイバーハーゲンに付いているのは、R-ヒナギクのものに比べたら出力はかなり低いはず」
「アール・ヒナギクって?」
「……近所の……子?」
「???」
R-シロツメグサはアンリエッタの質問に淡々と答えた。その中に出てきた聞きなれない単語に首をかしげた
アンリエッタとルイズだった。シロ姉の不思議言葉は聞き慣れてきているせいもあって、ルイズは聞き流しかけたが、
アンリエッタとしては、今まで謎だった敵の魔法をいとも簡単に知っているというR-シロツメグサに希望を見出した。
まさに藁にもすがる思いだった。
なんとななるかもしれない。期待に震える声のアンリエッタにR-シロツメグサは不思議なものを見る様な顔をした。
「もしかして、アール・シロツメグサディー卿はその電光の魔法を打ち破ることが出来ますか?」
「当然」
「っ! わかりました。
誰かっ!」
シロ姉の言葉を聞いた瞬間、アンリエッタの表情が晴れた。さっと扉の方を向いて手を打ち鳴らすと、侍従を呼び出した。
「は、お呼びでしょうか?」
「ラ・ヴァリエール公爵とマザリーニ枢機卿をここへ。大至急です。すべての事より優先してください」
「は」
とてつもない重鎮の名前をさらっと口にするアンリエッタに、ルイズは腰を浮かせて慌てた。
「あ、あ、あ、ああの、アンリエッタ様」
「ルイズ、あなたに感謝しなければなりません。ひょっとしたら……」
ルイズが目の前で、必死に手を振っているがアンリエッタは自分の思考に耽っていて気がつかなかった。

「アルビオンへの使者ですと? アール・シロツメグサディー卿をですか?」
「そんなっ」
思わず上げた悲鳴のような声に、隣に座っている父親にじろりと睨まれて蛇に睨まれた蛙のようにルイズは身を竦めた。
二週間ほど前に帰省した折に、ある程度は認めてもらったのも事実だが、長年の習い性はそう簡単には消えなかった。
アンリエッタの説明を聞いていたラ・ヴァリエール公は、腕を組んで渋い顔で目を閉じた。
「ええ、アール・シロツメグサディー卿は、反乱軍の電光の魔法を打ち破る術を持っておられるとか」
「とはいえ、一人でいってどうにかなるようなものではありませんぞ」
アンリエッタが身を乗り出す様に言葉を重ねるが、ラ・ヴァリエール公爵の対面に座るマザリーニ枢機卿は顰めた表情を
崩さなかった。真っ白になった髪と鬚が特徴的な痩せぎすの枢機卿は、それが癖なのか、骨ばった指で口髭をねじっていた。
王国の政・軍の両輪を前にしたアンリエッタの提案は、R-シロツメグサを使者としてアルビオンへ向かわせて、
なんとか反乱軍の新魔法を封じる。その一点だった。
反乱軍が王家を圧倒している理由、電光の新魔法。それさえ何とか出来れば王党派が息を吹き返して反撃に転じるはず。
アンリエッタはそう信じていた。しかし、マザリーニ枢機卿は慎重な姿勢を崩さず、結果的に二人の視線は
目を閉じているラ・ヴァリエール公爵に向いた。
「ふむ、なるほど、それは良い考えかも知れませぬな」
ゆっくりと目を開けたラ・ヴァリエール公爵は目に面白そうな光を湛えてアンリエッタ王女とマザリーニ枢機卿を見た。
「お父さまっ!」
「ルイズ、殿下の前だ、落ち付きなさい」
「ですがっ」
そんな危険な任務にシロ姉だけを一人で放り出すことを父親が了承するとは思わなかったルイズは、悲鳴じみた声を
あげて抗議した。娘に耳元で叫ばれ、顔をしかめた公爵は手をあげて娘を制止する。納得がいかないルイズだったが、
父親の厳しい視線に不承不承黙るしかなかった。
隣で自分のことを話題にされているにもかかわらず、まるで人ごとのように超然としているシロ姉が、よしよしと
ルイズの頭を撫でる。
精霊のような”使い魔”に撫でられながらぶすっとしている娘の表情を横目に、微かに自嘲じみた笑みを浮かべた
ラ・ヴァリエール公爵は、娘に恨まれるだろうな。と思いつつ父親の顔を封印した。
「まず、アール・シロツメグサディー卿はトリステインの貴族ではない。
であるがゆえに、なにかあってもトリステインは知らぬ存ぜぬを通すことができる」
「ふむ」
「お父さまっ! それは本気で言ってらっしゃるのですか? 本気でシロ姉を捨て駒にするとおっしゃるのですかっ!?」
「またんか、愚か者。為政者はすべての悪条件を考慮せねばならんのだ」
ルイズは隣の父親の口から出た言葉に茫然とした。頭がなかなか父親の言葉を理解しなかった。理解したと思ったら、
ルイズの感覚では父親は言外にシロ姉を見殺しにすると言っているに等しかった。
(そんなこと許されるはずがない。ちい姉さまの命を救って、わたしの命も救ってくれたシロ姉を見殺しになんてできない。
お父さまの言葉はとても納得できないわ)
あと、ルイズには気になることがあった、父親はトリステイン人であることにこだわっている様に思える。
それが分からなかった。
「それと、なぜトリステインの貴族であるかどうかが気になるのですかっ」
「まだわからんのかっ! 他国の内乱にほいほいと出兵すれば、他国がトリステインに攻め込む際の
口実になるであろうが」
「あっ……」
マザリーニ枢機卿は父公爵の言葉に納得しているようだったが、ルイズには分からなかった。
父親に必死に食い下がっていると、父親の雷がルイズに落ちた。
公爵は娘を一括して硬直させた後、マザリーニ枢機卿を鋭い目で見つめた。マザリーニ枢機卿も、眼を細めて公爵と
対峙する。
心持ち身を乗り出したマザリーニ枢機卿は、髭を弄りながら考え込むように眼を閉じた。
「これはあくまでもアルビオンで起きていることですからな、軍事同盟を結んでいれば違いますが、今の状況では
表だって手を出すわけにはいきませぬ」
「そんなことをすればガリアあたりに内政干渉として糾弾されるに違いないな」
「確かに、反乱軍の快進撃の一旦は電光の魔法にあります。砦がまるで役に立たないそうですから。
その電光の魔法を無力化することができるのであれば、王女殿下の仰るように王家にも勝ち目が見えてくるでしょうな。
検討に値する提案かも知れませんな。公爵閣下」
王国の両輪が次第に噛みあい始めてきたのを見たアンリエッタは、密かにほっと溜息をついた。
同時に、その横でじりじりと議論を見守っている幼馴染に心苦しいものを感じてもいた。
アンリエッタはルイズとシロ姉の関係が主人と使い魔という枠に嵌らないことを知っていた。しかし、それでも自分の
愛する人間を助ける手段があるのであれば……。愛する皇太子を救うことができるのであれば、何でもする。
どんな手段でも使う。そんな女心が突き動かしていたのも事実だった。ひょっとしたら、夢物語かもしれない、可能性は
ないのかもしれない。
でもどんなに可能性は低くても掛けてみたくなった。希望は捨てたくなかった。
「マザリーニ枢機卿、わたくしはアール・シロツメグサディー卿に使者をお任せしたく思います。ゲルマニアとの交渉も、
その成否を見極めてからでも遅くはないでしょう?」
「……確かに、我々としては、想定していなかった選択肢が増えたに過ぎませんので影響はありませんが……」
「であれば、問題ないでしょう?」
アンリエッタの押し切るような言葉に、マザリーニは思いつくリスクを片っ端から検討した。確かに、現時点での王女の
提案は全体的な戦略を変更するほどのものでもない。逆に成功した場合は、あまりとりたくない戦略を破棄することが
出来る。
あまり公にはできないが、場合によってはアルビオンに恩を売ることさえできるだろう。
失敗したとしても、トリステインに対する悪影響はほとんどない。であれば、それで王女が納得するのであれば試しても
問題はない。
唯一、ラ・ヴァリエール公爵令嬢の意見で公爵がどう動くか判らない所が懸念といえば懸念だが、目の前の親子の会話を
見れば、問題はなさそうに思える。であれば、自分としては特に反対する理由はない。
目をつぶって高速で思索を重ねていたマザリーニは、アンリエッタの顔を見てゆっくりと頷いた。
「ゲルマニアとの交渉とは、何でしょうか? お父さま」
「お前が知る必要はない」
仲間はずれ状態ではあるのだが、相手が相手だけに、疎外感はあまり感じていなかったルイズが王女の言葉に、
なんとなく不吉な予感を覚えた。
隣の父親にそっと尋ねるが、父親は渋い顔をしてごまかそうとした。それをアンリエッタが手を上げて制した。
「いいのですよ、ラ・ヴァリエール公爵。でも、ここだけの内緒よ。ルイズ。
もし、アルビオン王家の旗色が悪くなれば、トリステインは来るアルビオン反乱軍の侵攻に備える必要があります。
反乱軍は次はトリステインだと公言しているようですし。ここに攻め込んでくることは間違いないでしょう。
ですがトリステイン一国では強力なアルビオン空軍に歯向うことができません。残念ながら戦力が足らないのです。
ですから、トリステイン王国を、臣民を守るために、ゲルマニアと同盟を結ぼうと考えているのです」
「……吝嗇で名高いゲルマニアがあっさりと同盟を結ぶとは考えにくいですわ」
アンリエッタは静かな声で、王国の重要戦略を明かした。ラ・ヴァリエール公爵も、マザリーニ枢機卿も渋い顔を
しているが、王女を止めようとはしなかった。アルビオンの反乱を知っている者、そしてアルビオン王家が窮地に
立たされていることを知っている人間は、いずれトリステインは、どこかの国と軍事同盟を結ぶだろうと感じていた。
更に”どこかの国”の選択肢は限られていて、苦い感情と共に大半は正解を引き当てる。
「ええ、ですから、ゲルマニアの欲しがっているものを与える必要があります」
「……まさかっ」
ルイズもそうだった。同盟を結ぶとすればガリアかゲルマニアしか選択肢がなく、同じくらい古い王国で、強大な国家で
あるガリアと同盟を結ぶと併合されてしまう危険性が高いトリステインは、必然的に新興国家であるゲルマニアと
結ぶことになる。ただ、ゲルマニア国王の有名な性格から考えると……。
ルイズの表情が一気に険しくなる。嫌な想像が頭から離れないルイズは、両手を口にあてふるふると頭を振る。
「そうです、新興国家に必要なものは、歴史と正統性。古王国トリステイン王家の血が入るのであればゲルマニアとて
無碍には断らないでしょ?」
「そんな、姫様が……」
「……王家に生まれたものとして、望む結婚は諦めております」
「そんな……」
アンリエッタの沈んだ表情を見たルイズは父公爵と枢機卿にすがるような視線を向けた。
二人とも沈痛な表情ではあったが固く引き結ばれた口が、議論を尽くした結果ということを物語っていた。
ルイズは天井を振り仰いだ。自分が魔法学院でのんびりと過ごしている間に、世の中はこれほどまでに無常に
過ぎていたのか? 在りし日々に戯れた、幼馴染が人身御供と化している間にわたしは何をしていたのか?
幼馴染は、アルビオンの存続に一縷の望みを持っている様に思える。たしか新年の挨拶の際に、ちらっと聞いたことを
思い出した。王女の想い人はアルビオンにいると。アルビオンの人間でアンリエッタ王女にふさわしい人物は一人しか
考えられない。
その相手を、王女という立場、トリステイン王国という弱さで見殺しにせざるを得ず、そのうえ、王国の維持のために
人身御供になるという。
偶然に現れたシロ姉にすがることしか出来ない幼馴染を前に、わたしは指を咥えてみているだけしか出来ないのか?
ルイズは沈痛な目でシロ姉を見た。さっきから握っているシロ姉の手の温もりと、シロ姉の静かな目がルイズを暖かく包む。
その瞳を見ていたルイズは不意に心の中に清涼な気が充ち溢れるように感じた。まるで天啓が閃いたかのように輝く。
(そうよ、わたしは何をしたかったの? トリステイン王国の、アンリエッタ様の役に立ちたかったんじゃない。
なんでこんなことをわすれていたの? わたしがしたかったことは魔法を使えるようになることじゃなくて、立派な
メイジとして役に立ちたかったからじゃない。
お父さまやお母様、そしてお姉さま達の様に、立派なメイジになりたかったんじゃない)
魔法学院でシロ姉と出会い、魔法が使えるようになって一ヶ月。短い間に人生の大半を濃縮したような出来事があった。
いつもシロ姉がいて助けてくれた。初めて会ったときから、ずっとわたしを見てくれるシロ姉。
そのシロ姉と一緒に望みどおりアンリエッタ王女とトリステイン王国のために働けるのであれば、何が問題なのだろうか?
自分を縛り付けていると思っていた枷は何?
わたしはシロ姉が一緒にいてくれればなんだってできる。シロ姉もずっとわたしと一緒に居てくれると言った。
だったら、こんな枷なんて何の意味もない。わたしはわたし。何があっても変わらない。
ルイズはシロ姉の手をぎゅっと握った後、ゆっくりと立ち上がった。
その鳶色の瞳には一つの決意を心に秘めた凛とした光が輝いていた。
「わかりました、であれば、わたくしとシロ姉でアルビオンを救って見せます」
「ルイズッ! お前は話を聞いていたのかっ?」
「ええ、お父さま。
……いえ、ラ・ヴァリエール公爵閣下」
ルイズの言葉に目を剥いた公爵は慌てて立ち上がって、ルイズを睨みつけた。いつもであればその視線に萎縮するはずの
ルイズが芯のある瞳で見返してくる。その雰囲気に、若い日の妻のイメージが重なる。
父親の怒声に、微笑みすら浮かべたルイズは、おもむろに身にまとっていたマントを外し、魔法学院のペンダントを重ねる。
「この、愚か者っ! 自分が何をしているのか分かっているのかっ!」
娘が何を考えているのか気がついた公爵の大喝が、部屋のガラスをびりびりと震わせる。枢機卿ですら目も見開いて体を
硬直した。普段の娘であれば、この一声で体が硬直し、泣きながら謝ってくるはずが、激昂する公爵を前に
微動だにしなかった。
「な、なにをしているの? ルイズ? やめてっ」
一瞬遅れてアンリエッタが悲鳴じみた声と共に立ち上がり、両手で口を押える。その瞳は旋風の前のランプの様に
動揺していた。
そして、ようやく気がついた枢機卿も、目の前の年若い貴族の行為に目を見開いた。
時間が止まったような錯覚すら覚える様に硬直する一同を見回してルイズはゆっくりとアンリエッタの前に行き、
片膝をついてマントを捧げた。R-シロツメグサはすっと立ち上がり、ルイズの横に立って、まるで一同からルイズを
庇うように立ちふさがる。
涙を浮かべて、いやいやをする王女の前で、ルイズは万感の思いを込めて、揺れる声を振り絞った。
「アンリエッタ王女殿下、今日、この日、たった今を持って私は名前を捨てます。ラ・ヴァリエール家の三女でもなく、
トリステインの人間でもなく、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、只のルイズとなって、
アルビオンへ向かいます」
「お前は、馬鹿か……」
娘の行動に絶句する公爵の顔を見つめたルイズはにっこりと笑った、その瞳が見る間に潤む。
「今しばらくの間だけ、お父様と呼ぶことをお許しください」
ルイズはスカートの端を摘んで淑女の礼をした後。顔を上げ、まっすぐに父親を見つめた。透き通った滴を頬に
伝わせながらも、その視線の強靭さにラ・ヴァリエール公爵は眩しいものを見た様に目を細める。
「わたしは水の精霊と約束しました。誓約の精霊と約束をしたのです。
わたしはその誓約を守りたいのです。そして、友人が窮地に陥っているのであれば、助けたいのです。
それがわたしの誇りであり、責務であると思うのです」
「ルイズ……」
娘の言葉に、父親は掛ける言葉を失った。自分の娘が魔法学院で力強い翼を得て大空へ飛び立って行く。大貴族の
娘らしからぬ行動力は母親の血なのか。
本音を言えば力づくでも阻止したい。だが娘が自ら悩み、そして見出した答えも尊重したい。
公爵はふっとルイズの横のR-シロツメグサを見た。ガリアの王族かと思えるような色彩の少女は、じっとルイズを
見つめていた。妻である烈風カリンをいともたやすく退けた強力この上ない使い手。力づく……もできんな。
とかぶりを振った。
この精霊じみた娘を認めた時から、ひょっとしたら、こうなる運命だったのかも知れぬ。公爵は自分の娘の選択に
誇らしさを感じながらも、寂寥感を禁じ得なかった。
「お父様。手のかかる娘で、迷惑ばかりかける娘で、申し訳ありません」
「どうあっても行くつもりか?」
「ええ、まいります」
「ついこの間まで、甘えていた娘だと思っておったのに。娘はすぐに飛び立って行くのだな」
娘の意思が多少の翻意では変わらないことを悟った父親は、一瞬で十も老けた様に呟いた。いずれ嫁いでいくのが娘の
宿命とはいえ、いざ手元から離れていくことを実感すると、心の中にぽっかりと大きな穴があいた様に感じる。
ルイズも、生まれ育った地、そして家族と訣別することに万感の思いがあった。しかし、今直面している事態は自分しか
できないという自覚もあった。今までのルイズであれば逃げ帰っていたに違いない。しかし水の精霊と対話し、エルフと
戦って友人をかばい、そして、理不尽に巻き込まれたタバサ、そして茨の道を歩もうとするアンリエッタのことを思うと、
ルイズは傍観していることはできなかった。
「ルイズ……」
アンリエッタは目の前で起きていることに理解がついて行かなかった。アルビオンに居る皇太子の力になりたい。
窮地に陥っている恋人をなんとか助けたい。王女はその一点だけを考えていた。
たまたま幼馴染の知人が、手助けになる可能性を持っている。だからその知人に助けてもらおう。そんな安易な発想が
元だった。それなのに、話はどんどん膨らみ、結果的に唯一無二の幼馴染を王国から放逐してまでも、その任務に
つかせることになった。たとえ幼馴染であるルイズが言い出したことであっても、すべての発端は自分の一言だった。
それなのに、ルイズの献身に、ルイズを犠牲にしても、アルビオンにいるウェールズ皇太子を助けることが出来るかも
知れないと喜ぶ自分がいる。
アンリエッタは自分が、自分の不徳な心が心底嫌になった。
そんなアンリエッタを前に、ルイズはある意味晴れ晴れとした表情で笑った。それがアンリエッタには眩しかった。
羨ましかった。そして、アンリエッタは今の幼馴染の顔を、幼馴染の献身を一生忘れないと誓った。
「アンリエッタ王女殿下。これから、わたしはただのルイズになります。トリステインの貴族でも何でもない、それこそ、
何もないゼロとして。
……今まで、ゼロの二つ名は恥じておりました。しかし、今はゼロという名前を誇りに思います。
わたしはゼロのルイズとして、アルビオンに参ります」
「……わたくしは、おともだちの情けにすがるしかないのですね」
ぽつりとつぶやいた後、アンリエッタの目からとめどなく涙がこぼれていく。ルイズは、シロ姉にいつもされている様に
アンリエッタをゆっくりと抱きしめた。
「ごめんなさいごめんなさい……」
アンリエッタはルイズにしがみ付いて、声を上げて泣いた。ルイズはもらい泣きしそうになる所をこらえて上を向く。
「姫様。心配なさらないでください。わたしとシロ姉であれば、必ず良い結果を報告できると思います。そうよね?
シロ姉」
「イチヒコの望みはわたしの望み、イチヒコがいるところが私のいるところ。イチヒコが行くなら私も行く。
わたしのすべてはイチヒコのもの。イチヒコが大丈夫と言ってる。だから大丈夫」
ルイズに見つめられたシロ姉は、静かに微笑む。その顔を見てアンリエッタはぐしゃぐしゃに泣きはらした顔で
うんうんと頷いた。
シロ姉はそんな王女を見つめた後、ラ・ヴァリエール公爵に向き直る。
強い視線に思わずたじろいだ公爵に向かってシロ姉は言い放った。
「父親。イチヒコ、私がもらう」
「ちょ、ちょっと、シロ姉!」
「何? イチヒコ。イチヒコ、私に、イチヒコくれると言った。それは結婚。結婚する時は、親から貰うと聞いた。
だから私が貰う」
「あのねぇ」
突拍子もないシロ姉の言葉にルイズが呆れた。
ルイズの胸でアンリエッタが小さく吹き出し、マザリーニ枢機卿ですら苦笑を浮かべている。
一瞬あっけにとられたような表情のラ・ヴァリエール公爵の表情が次第に不敵に歪み、やがて重苦しい空気を
吹き飛ばすような公爵の痛快な笑い声が広がる。
「よかろう、その娘はくれてやる。ただし、必ず五体満足で帰ってくることが条件だ。わかったな」
トリステインの大貴族である、ラ・ヴァリエール公爵は真っ赤になってR-シロツメグサ詰めよる娘を見ながら、
心底楽しそうに笑った。この者がいれば大丈夫だ。多分無事に帰ってくるに違いない。それどころか帰ってきたら
娘が増えるかもしれんな。と思いつつ。

ぽんぽんぽん、ぽ、ぽぽぽぽぽん♪ ぽかぽかぽん♪ ぽ、ぽぽぽぽぽん♪

Row, row, row your boat
漕いで、漕いで、船を漕いで
Gently down the stream.
そっと小川を下ろうよ
Merrily, merrily, merrily, merrily,
楽しいね、楽しくね
Life is but a dream.
人生は夢なのだから