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るるる-2

コントラクト・サーヴァントのキスをした途端、青い髪の女性に表情が戻った。わたしに向けられた目がびっくりしたように見開き、そして、微笑んだ。
「……私はD-ISSG-0100118D R-シロツメグサD。会いたかった。イチヒコ」
そう言って、わたしを抱きしめた。
「え、え、え、? でぃーあいえすえすじーぜろぜろ・・・むぐ」
いきなり抱きつかれて、戸惑っているうちに目の前の青い女性にキスされた。
さっきわたしがコントラクト・サーヴァントで行ったキスとまったく違って情熱的なキス。
本能的に危険なものを察知し、歯をくいしばってもがいたけど、舌が閉ざした唇をなぞる様に一巡したかと思うと、そっと唇の間に捩じ込まれた。
「んーっ!んーっ!」
後頭部と腰の後ろを、細いながらもしっかりと押さえられ、手の指で器用にも背中と頭を撫でられる。
どアップで見る相手の肌は陶器のようにきめが細かく、まつ毛は羨むほど長かった。
胸に当たる感触は成熟した女性のもので、わたしのものとは圧倒的に違っていた。
そんな判断力も徐々に……
唇の間に捩じ込まれた舌が生き物のようにうごめき、艶めかしい音を立てる。歯を撫で、歯茎をつついていく。必死に抵抗してもがいている気力も、執拗な舌の攻めと指の動き、そして耳に届くぴちゃぴちゃとはしたなく響く音で徐々に萎えていく。
「んぁっ、んっ、んっ」
軽く開いてしまった歯の間に滑り込むように舌がもぐり込み、強引にこじ開けられた。強く抱きしめられた体は海老の様に反り返る。相手の足がわたしの足を割る様に入ってくる。
口の中に入った舌はわたしの舌を探し当てるや否や、吸いついてきた。歯の裏を舐め、尖らせた舌が口蓋に円を描くようになぞっていく。
むずがゆい何かが全身を駆け巡り、相手の太ももで刺激された股間から電撃のような快感が背筋を上っていく。「んんっ」
ふわふわとした現実感のない感覚と、秘所が濡れていく感覚が全身を熱く、顔を火照らせていく。
足の、腰の力が抜けて立っていられなくなる。無意識に相手の太ももに擦り寄せている自分に気がついた。
わたしの口を蹂躙していく舌がふと止まった。

「いい加減にしなさい」
目の前の光景に、男やもめの教師であるコルベールは無力だった。
魅入られた様に二人の熱烈なラブシーンを見つめていた。耐性のない男子生徒は生唾を飲み込み、女子生徒は顔を赤らめながらも眼が離せないでいた。
そんな光景にうんざりした、耐性のあるキュルケは徐に杖を掲げて威力の弱い炎の矢を放った。
当たっても火傷をするくらいで、治癒ですぐ直る程度の魔法だ。
しかし、その矢はルイズを抱きしめたままで顔をあげた、青い髪の使い魔が掲げた手の前で霧散する。

「あぁ。ミス・ヴァリエール、ぶ、無事かね?」
それを切っ掛けに、慌ててコルベールが取り繕ったように、大声をあげた。ルイズはビクッと身を震わせて
あわてて青の髪の使い魔から身を離そうとした。その手をつかんだ使い魔の女性が悲しそうな表情でルイスを見た。
「イチヒコ……私嫌い?」
「ああああああんたねぇ、いいいいいったい、いいいいきなり、ななななにするのよっ。それに私はルイズよっ、イチヒコなんかじゃないわ」
「……ルイズ?」
「そうよっ、私はルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエールよっ」
「……分かった」
「分かったの?ならいいわ」
「……でも、あなたはイチヒコ」
「ルイズって言ってるでしょっ!」
先ほどの情熱的な行為がまるで嘘のように、物静かになった青い髪の女性とルイズが掛け合い漫才じみた会話を始めたのを、慌ててコルベールが止めた。
「まぁまぁ、なんにせよ、ミス・ヴァリエールも無事に召喚に成功したことですし、皆、教室に戻るぞ」
その場から慌てて逃げるように宣言したコルベールはさっさとフライを使って飛んで行った。
それに倣って、生徒達も三々五々飛んでいく。少々赤みがかかった顔になっているのは、さっきの行為がまだ頭に残っているからだろう。
ルイズと使い魔だけを残して全員が飛んで行った。
「あんたねぇ」
「……なに? イチヒコ」
「名前を教えなさいよ」
「……シロ姉と呼ぶ。イチヒコ」
「シロ姉?」
「そう。長いから、シロ姉と呼ぶ」
さっきの行為を思い出したのか、顔を真っ赤にしたルイズがぶっきらぼうに口を開いた。そんな態度を気にも止めない青い髪の使い魔が優しげな眼で見つめた。
どう見ても大人の美人に見つめられ違う意味でどぎまぎしたルイズが慌てて、そっぽを向いて歩き出す。
「今から帰るから付いてきなさいよ」
「違う」
「なによ」
「”今から帰るからついてきてよぉ、シロ姉”」
「は?」
「言いなおす。イチヒコ」
「あああああんたねぇ、わたしはイチヒコじゃないっていってるでしょー! で、なによ、その頼りない子供みたいな喋り方はっ」
「……イチヒコ。私嫌い?」
「……もういい、とりあえず、なんでもいいからついてきて」
じわっと涙目になりかけた自分の使い魔に、思わず捨てられそうな仔猫のイメージが被ってしまったルイズは、力なく首を振った。
諦めたように肩を落として、とぼとぼと歩き出したルイズの横で、ずっと手を握っている”シロ姉”は微笑んでいた。
教室に帰ると、”自分の使い魔を理解しましょう”と黒板に大書きされ、下に小さく”自習”とあった。
教室で使い魔と戯れている生徒もいれば、さっさと部屋に帰った生徒もいるようだ。
しばらく部屋を見渡したが、ここにいる必要もなくなったので自室に帰ることにした。
ずーっと、”シロ姉”が手を繋いでいるので、かなり恥ずかしいのでさっさと部屋に向かった。

「いい加減手を放して」
「……嫌い?」
「嫌いじゃないけど、動きづらいから放して」
「”嫌いじゃないよぅ、動きづらいから放してよぉ”」
「何よ」
「言いなおす」
「だーかーら、わたしはイチヒコじゃないって」
部屋に入っても手を繋いだままの”シロ姉”。どうも自分の使い魔はわたしを誰かに置き換えたいようだった。
時折指摘する言葉づかいから、少年っぽいような気もする。わたしが別人であるということは認識しているようだが同時に、その”誰か”であると信じ切っている。
拒絶すると、泣きそうになるのでなんとか宥めて、話を続けたが要領は得なかった。

なんだかんだで夜も更けて、ふと気がついた。ベッドが一つしかない。まずい。
「きき、き、きょうはベッドが一つしかないから、一緒に寝るけど、触ったりキスするの禁止! いい!?」
「……嫌い?」
貞操の危機を感じたので相手の顔を見ずに宣言した。
予想通り、捨てられた仔猫のような声がする。ちらっと横目に見ると、やっぱり目に涙を浮かべてる。
ぷいっと顔を反らして、しばらくしてそーっと見ると、やっぱり目に涙を浮かべていた。
「あー、もー、わかったわよ、一緒に寝ればいいんでしょ! 腕を触るくらいだったら許してあげる」

二人でベッドに入ったが、意に反して”シロ姉”は何もしてこなかった。
ただ、じぃっとわたしの顔を見ていた。その眼はわたしをとおして誰かを見ているようで、何故か切なかった。
天蓋の模様を眺めながら、寝つかれなかったら、”シロ姉”がそっとわたしを抱き寄せた。
びくっと反応したが、優しく胸に抱きしめられ、徐々に力が抜けて行った。
「子守唄歌う」
それでも、なかなか寝付けないのが分かったのか、髪をゆっくりと撫でていた”シロ姉”が静かにつぶやいた。
「おおきなかんづめ おおきなさいず なかみたっぷり おてごろかかく♪」
「なにそれっ」
”シロ姉”の歌うやさしい声とミスマッチの歌詞に思わず吹いてしまった。
「子守唄。イチヒコは喜んだ。夜遅くまで起きてる子、悪い子。早く寝る」
”シロ姉”はいたって真面目に言ってから、再び子守唄に専念した。
「べんりなわんたっち ぷるとっぷ ろいすしゃの おいしいこんびーふ♪」
あまりにも……な歌詞にくすくすと笑いながらも、緊張のほぐれたわたしは徐々に意識が闇にまぎれて行った。

”イチヒコ”が眠りについた。
随分違っている。イチヒコの面影はあまり感じられない。でも、イチヒコであることは確かであって、もうイチヒコには会えない。
そう考えると悲しくなる。
ある意味この世界に一人ぼっち。自我が芽生えてからの一人ぼっちの時間は慣れていると言っていいが、これからどうしようか? とも思う。
宇宙を飛んだサンテグジュベリ号の使命は、この星に到着したことで、ある意味終わっている。
昔では考えられないほど、ここはマンカインドで溢れている。
しかし司法HALも無く、市民番号ももたない彼らは市民と考えてよいのか?
疑問は尽きない。が、幸いなことに時間は、時間だけは山ほどある。
鼻がくっつくほどの距離で”イチヒコ”があどけない寝顔を見せている。この子の為に出来ることをしよう、この子の望むようにしよう、この子はイチヒコなのだから。
”イチヒコ”を起こさないようにベッドからそっと降りて、窓際まで歩いた。
窓の外には二つの月と夜空が広がっている。窓を開け、そっと腰かけた。
いままでに見たこともない珪素を基本とした結晶体―確か”石”だったはず―で作った建物。
ドレクスラーを使って表面粒子の方向性の均一化を施し、イオンの脱落や酸化反応を抑制する定期的な保全を行っている。
最低限の機能でのコントロールだが、今のマンカインドには十分なものなのだろう。到る所でドレクスラーを使っている。確かにこれほど濃密であれば潤沢に使えるはず。サンテグジュベリ号のコントローラーに加えて追加でいくつか設置していると、行政HAL代行予備機は言っていた。
ふとベッドに眠る”イチヒコ”を見た。”イチヒコ”はあまり気がついてくれなかった。
草を艶やかにしても、空を青くしても、あまり気に留めてくれなかった。気がついてくれなくても、お祝いの日には世界を賑やかにした。
今日はお祝いの日にしよう。”イチヒコ”と出会えたのだから。
サポート役のセイバーハーゲンが居ないので、アリシアンレンズを使って直接コントロールする。
『D-ISSG-0100118D R-シロツメグサD ドレクスラー管理者として命ずる』
『確認、いかがしましょう』
『花を咲かせる』
『了承 詳細指示』
『私の現在位置より半径1000mにおいて成長加速及び開花後10時間固定、特質変化は必要ない』
『了承 他に指示はありますか』
『他は無い』

ふと、何かに呼ばれたように目が覚めた。
鳥の鳴き声と、風の音、そして花の匂い。
顔を巡らせると、真横には、すーすーと寝息を立てるシロ姉がいた。
朝の光が穏やかに差し込み、そよ風が開いた窓から吹き込んでくる。窓を開けっ放しにして寝たかな?と思いつつ、窓辺によって何気なく外を見た。
そこは一面の花畑だった。眼をごしごしこすって見ても、変わらない。頬をつねっても変わらない。夢じゃない。
見渡す限りにありとあらゆる花が一斉に咲いていた。季節がら夏に咲く花や、秋に咲く花、見渡すかぎり、花が咲く品種のものはすべて満開だった。
「な、な、なによ、これ!」
こんな光景は見たことがない、一種幻想的でもある光景に、思わず興奮して叫び声じみた歓声を上げた。
その声で目覚めたのか、ベッドで起きがあるシロ姉の気配がした。
「そ、そ、そと見て見て、すごいわ」
ルイズは奇跡とも思える景色を見た感動を誰かに伝えたい衝動に駆られ、シロ姉を呼びよせた。
外を指差して興奮気味のルイズの横に来たシロ姉は、ルイズの興奮している顔を幸せそうに見つめていた。