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るるる-21

らてぃらてぃらてぃら♪ らてぃら♪ らてぃらてぃらてぃら♪ ら~らららら♪ じゃんっ♪
らてぃらてぃらてぃら♪ らてぃら♪ らてぃらてぃらてぃら♪ ら~らららら♪ じゃっじゃんっ♪

「ウェールズ殿下、上はなんとか制圧できそうです」
参謀長の険しい表情に微かな光明が浮かんだ。
早朝から始まった戦いも日が傾き始めた頃に、戦いの趨勢が見えてき始めた。
開戦当初、総兵力から見て王軍はかなり不利な状況だった。索敵に失敗し敵中枢への急襲作戦が出来ない状態では、
兵力に物を言わせた単純な総力戦に陥りがちであり、そうなってしまうと兵力の少ない王軍が徐々に押し込まれるのは
目に見えていた。
数に劣る王軍は、能力の高さと機動力を生かした電撃戦に活路を見出そうとした。しかし、それも徐々に息切れがする。
時間と共に、戦況の天秤は次第に反乱軍に傾きかけていた。もうこれまでか。参謀長は事前に練っていたウェールズの
脱出と再起の作戦を真剣に考え始めていた。
しかし、状況が変わった。
突如として乱入したラ・ヴァリエール夫妻というイレギュラーに翻弄された反乱軍は悲しいまでに混乱した。
もともと反乱軍の指揮系統は曖昧で、有機的な運動も少なかった。
数に劣る王軍が何とか持ちこたえていたのは、このおかげでもある。
唐突に現れ、鋭利な刃物のように陣を切り裂いていくフネを押し包もうとする動きも鈍く、反乱軍は結果的に圧倒的な
突破力に蹂躙された。
自らの攻撃が手も足も出ない様子を見ていた反乱軍の将兵は、少しでも攻撃の軸線から逃れようとあがいていた。
実際のところイレギュラー戦力たるラ・ヴァリエール夫妻が敵に与えた損害はそれほど大きいものではない。
反乱軍全軍から見れば、まだまだカバーできる誤差の範囲の損害だったはず。しかし、公爵夫妻は物理的損害以上に敵の
戦意をくじいていた。
この敵には勝てない。そう思い込んだ敵兵は浮き足立ち、それを見て意気軒昂な王軍の竜騎士やフネの砲兵が戸惑う
反乱軍をなぎ倒していった。
味方のフネが落とされていくその様子を見て、更に崩れていくという悪循環。
たった一箇所の罅割れから、堤防が決壊する様に軍が崩れていく。
まるで、電光の魔法にさらされた過去の王軍を見ているようだった。
「危なかったですな。公爵殿の示威行為がなければ、こうなっていたのは我々ですな」
「そうだな」
冷静に戦況を見据える参謀長の言葉にウェールズも頷いた。
ウェールズはふと、公爵の意味ありげな微笑を思い出した。
ひょっとするとあまり借りを作ってはいけない相手に、払いきれない物を借りてしまった様な気もする。
だが、参謀長もウェールズも表情を緩めたのは一瞬だけだった。
脆すぎる。それが二人の偽らざる思いだった。彼らの目から見て、敵があまりにも脆い事が気になった。
まるで、各自がばらばらに戦っているような、そんな気になった。その上、ここまで戦意が低迷しているにも拘らず、
戦意を鼓舞しようとする気配すらない。精神的に崩れた軍を立て直そうとする司令官の姿も見えなかった。
司令官を見つけたら近衛の精鋭風竜部隊を突撃させようと待機させていたが、ターゲットとなる敵司令官はいまだ姿を
見せなかった。
敵の目的は何だ? ウェールズは、表情を引き締めて参謀長を見つめる。
「地上はどうなってる?」
「火竜の爆撃が使えるようになりましたので、だいぶ楽になりました。問題は……」
参謀長も同じ事を考えていたようだった。敵は上を捨てても地上を取ろうとしているのではないのか?
だがウェールズには、地上に固執する意味も目的も分からなかった。
ただ、反乱軍が地上を重視しているのであれば、そろそろ敵の決戦兵器である電光の魔法が出て来るはず。
「電光の魔法か」
「御意」
「アレさえなければ……」
ウェールズは、深いため息をついた。電光の魔法は非常に厄介だった。突如として光るあの魔法は、相手の出方を
察知することはまず無理で、防ぐことも殆どできない。
甚大な痛撃を受けた後にようやく対応が取れる。
それも撤退か回避か消極的な対応しか取れないところが歯がゆかった。
アンリエッタから送られてきた電光の魔法を封じることの出来る人材も実際に効果があるのかどうか、まだわからない。
戦況の好転とは別に、闇夜で暗殺者に狙われているような感覚が、じりじりとウェールズの神経を逆なでする。

「ウェールズ殿下っ!!」
全員がぴりぴりとしていた中、悲鳴のような監視員の叫びが艦橋の静寂を切り裂いた。その声に込められた驚愕の音色に
全員の動きが止まる。
ウェールズが風の様に遠見の鏡に走り寄る。
「電光かっ!?」
「いえっ、違いますっ」
監視員の指し示す先に巨大な桶のようなフネが出現していた。近くにいるフネの数倍の大きさを誇っている。
ロイヤル・ソヴリン号に匹敵する大きさだ。そしてそのフネの甲板上に異様なものがあった。
何かの見間違いか? 思わず目をこすったウェールズの視線の先に、悪夢のようなものが立っていた。
「なんて、大きさだ……」
ウェールズの言葉はその場の全員の感想を代弁していた。
フネの甲板上に巨大な甲冑を着た騎士のようなゴーレムが片膝をついて三体整列していた。
「早くフネごと落とせっ! 砲撃を集中しろっ!」
あれは駄目だ! あれを動かさせてはいけない! ウェールズは直感が命じるままに叫んだ。
ウェールズと同じ悪寒を感じたのだろう、百戦錬磨の艦長たちは、命ぜられる前に、異形のゴーレムを乗せた船に砲撃を
集中させる。的が巨大で鈍重な点もあり面白いように命中する。
だが信じられないことに砲撃に被弾し炎に包まれたフネの中から、騎士甲冑のゴーレムが身軽に体を起こし、舷側から
飛び降りた。
大地を揺るがす音があたり一体を制圧した。
燃えながら墜落するフネを背景に森の木々をなぎ倒して着地した巨大なゴーレムがゆっくりと起き上がる。
炎の中に巨大な影が立ち上がって行くのは、まさに悪夢の光景だった。
「ば、ば、ばかな……」
正確なフネのサイズが判断できなかった為、ゴーレムの正確な大きさがわからなかった。
だが、森の木が腰ほどまでしかないということは三十メイル近い大きさということになる。
ウェールズの喘ぐような声が響く。
全員の目がその巨大さに驚愕していた。
しかしウェールズの後ろから遠見の鏡を見つめていたルイズだけは、大きさには目が行ってなかった。
魔法学院の襲撃事件で使われたゴーレムとサイズ的には変わらないし、自分でもあの大きさのゴーレムを作ることはできる。
だが、その滑らかな動きと造型に、甲冑を着ているその姿に、あの時のゴーレムには無かった本能的な嫌悪感を感じていた。
ゴーレムは手に持った剣と呼ぶにはあまりにも巨大な金属の塊を振って森の木をなぎ倒し、前進を始めた。
「な、なんだ、あれは、あれでゴーレムか?」
ウェールズの喘ぐ様な声をきっかけに、砲撃と地上部隊からの魔法が集中する。
多分近衛師団長の爆炎と思われる巨大な炎にゴーレムが包まれた。一瞬歓喜の声が上がるが、ゴーレムが剣を一振りすると、
炎は無常にも四散した。
電撃の魔法や、火の玉が飛んでいくが、ゴーレムは完全に魔法を無視していた。
剣が水平に薙ぎ払われ、逃げ遅れた兵士達が、文字通り肉塊と化していく。
「魔法が通じません!」
監視兵の悲鳴のような報告は、誰も聞いていなかった。
参謀長の怒声にも似た指示が響き渡る。
「術者だ、あの魔法を維持しているメイジがいるはずだ! あんなものを維持するのであれば集団のはずだ!
それを探し出せ! 早くしろっ!」
伝令が叫ぶように指示を伝え始める。
その喧騒の中、唇をかみ締めて震える体をシロ姉に支えられていたルイズは、その光景を見て踵を返すなり駆け出した。
慌ててR-シロツメグサが追いかける。

「キュルケ、あれってちょっとまずいんじゃない?」
その悪夢のような光景は、甲板上のキュルケたちからも見えていた。
モンモランシーの震える声に、キュルケとタバサは厳しい表情をしていた。
「なんとなく、エルフのアレを思い出すわ」
キュルケが髪をかきあげつつ、心底嫌そうに呟いた。その横で、タバサも頷いていた。
彼女等が戦ったエルフは魔法が効かなかった。すべて魔法が当たる前に反射されて相手まで届かなかった。
フネの舷側から覗き下ろした先のゴーレムも似たような感じだった。
彼女達の直感が、若くして高位のメイジに押し上げた才能が、エルフとゴーレムの類似点を強烈に訴えかけていた。
三人は苦い顔をして、すべてを蹴散らすゴーレムを見つめていると、甲板のドアがばたんと開いて、肩で息をするルイズが
飛び出してきた。
「キュルケッ! タバサッ!」
ルイズは舷側で下を見ているキュルケたちを見つけると、慌てて走り寄った。
その剣幕と必死の表情にキュルケ達はあっけに取られる。それと同時になんとなくキュルケは嫌な予感がした。
「……何?」
「エルフのあの魔法が効かない障壁みたいなのって魔法よねっ?」
タバサの両肩を掴んで、ルイズが決意を秘めたような底光りのする目で見つめる。
タバサは自分の両肩を掴む手の強さに顔をわずかに顰めながら、記憶をたどって答えた。
確か、エルフとの戦闘を記録した書物に書いてあった。実際にラグドリアン湖の畔のオルレアン邸でエルフと戦った時は、
そんな記憶を思い出す間も無かったが、確かに攻撃反射の先住魔法をエルフは持っている。
「多分、そう。先住魔法の”反射”……」
「そっか」
タバサの言葉を聴いたルイズは、顔を落としてほっとため息をついた。
ルイズの頭頂部を見ながらタバサは首をかしげた。救いを求めてキュルケを見る。しかしキュルケはなにやら難しそうな
表情で口を引き結んでいた。
「……イチヒコ、私が壊そうか?」
後ろにいたシロ姉の言葉を聴いてルイズが顔を上げる。
その顔は何か吹っ切れたような清清しさと、そして高揚しているかのように微かに紅潮していた。
シロ姉の心配そうな表情に、ルイズはゆっくりと首を振って、しっかりとした目でシロ姉と見つめた。
「……ううん。シロ姉は電光の魔法が出た時の為に、ここに残って。ウェールズ殿下を救って」
「ルイズ、あ、あ、あんた、まさかっ」
「……危ない、イチヒコ」
ルイズの意図を悟ったキュルケが目を剥いた。
R-シロツメグサもルイズが何をしようとしているのか理解した。
止めようとした友人達の声だが、ルイズの決意は固かった。
ルイズは、ゴーレムが魔法をはじき返したのを見た瞬間から、エルフとの戦いを思い出していた。
あの時の悪夢、あの時の痛み。全身をずたずたにされる恐怖。自らの魔法とは言え、そっくりそのまま反射する敵。
しかし、その恐怖と同時に、ひとつの光明があった。艦橋で待機している間に仮眠を取っていたので、時間の感覚が
おかしくなっているが、その光はたった一日前の出来事の中にあった。

ルイズはあの時の光景を思い出していた。
シロ姉との喧嘩の原因となった始祖のオルゴールと”イチヒコ”との出会い。
その中で”イチヒコ”はなんと言っていた?
日常の幸せが、今あるものが尊いと言っていた優しい”イチヒコ”。
そしてそんな”イチヒコ”が、遥か未来のわたしに送ってくれた一つのプレゼント。一つの”魔法”。
あの時は”イチヒコ”の方が気になってたけど、よくよく考えてみれば、それはとてつもないこと。
ウェールズに手渡された始祖のオルゴールと、その中に封ぜられていた”イチヒコ”の動く幻像。その関係が示すのは、
たった一つの真実。”イチヒコ”は始祖であるということ。
わたしの良く知ってる始祖の名前はブリミル。そして彼の駆使した魔法は”虚無”の名で知られる、誰も見たことの無い
伝説の魔法。始祖以外に使われたことが無い未知の魔法。

”すべての魔法をキャンセルする魔法”

わたしはなぜか、その魔法を知っている。
どうやって始祖が、”イチヒコ”が、わたしに伝えてくれたのか判らない。
だけど、わたしは知っている。魔法を発動するための呪文も、そしてその効果も。
頭の奥底から沸いてくるように、その知識が流れ出てくる。
すべての魔法をキャンセルできるのであれば、”魔法”で作られているゴーレムはどうなる?
”魔法”を反射する”魔法”は?
”イチヒコ”は、こんな日が来るのを予見していたのだろう。”魔法”が悪用されるときを。
そして、将来の子孫が悪用を止めてくれるように願いを込めて、僅かばかりの力を残していてくれたのだろう。
ふっとシロ姉を見つめる。シロ姉は眉を寄せて困った顔をしていた。
わたしのことを心配してくれているのは、とってもよく判る。でも、これはわたしがここにいる意味なのかもしれない。
水の精霊の恋人の、電光の魔法をとめる力がシロ姉にはあるらしい。
そして、わたしにはあの巨大なゴーレムをとめる力がある。

であれば、ここがわたしの決断の場所。

わたしがここにいる理由。

わたしが魔法を使う場所。

わたしの戦場。

だから……
「シロ姉も見たわよね? たぶん、こんな時の為に”イチヒコ”がわたしに魔法をくれたと思うの。戦うためじゃなくて、
みんなを守るための力をくれたと思うの」
「……イチヒコ」
ルイズは自分の手を胸に当て、そっと目を瞑る。

その様子を見たR-シロツメグサは、ゆっくりと首を振った。
イチヒコの決意を止めることは出来ない。いや、止めたらいけない。イチヒコと”イチヒコ”の、それぞれの思い。
イチヒコが”イチヒコ”の思いを受け入れて自ら選択した。
それを私は大切にしたい。

真っ先に止めると予想していたR-シロツメグサが、諦めたように寂しそうな微笑を浮かべたのを見て、キュルケが目を
見開いて慌てて割り込んだ。
「ちょっと分かる様にいいなさいな。なに? なんなの? イチヒコが魔法をくれたって」
ルイズはゆっくりと目を開けて、キュルケを見つめた。
厳しい表情のキュルケに、大事な宝物を見つけたような表情のルイズが答える。
「ほんとの”イチヒコ”の動く絵があった、って言ったわよね」
「聞いたわ」
「その動く絵の最後に、ほんとの”イチヒコ”、いえ、始祖ブリミルというべきかも知れないけど、魔法をくれたの。
頭に直接……ね」
ルイズがさらっと、なんでもないことのように告げた言葉は、その場にいた少女全員に雷が落ちたような効果があった。

――始祖ブリミル

ハルケギニアに住む人間であれば誰でも知っている神のような存在。この世で最も偉大なメイジ。
彼女達は、”たびびと”のアール・タンポポという少女に聞かされた御伽噺のような、謎めいた言葉を追いかけてきた。
ルイズを助けるという大きな目的のほかに、言葉の真偽を確かめに来たのも事実だった。
そしてルイズの口から出た言葉。ほんとの”イチヒコ”が始祖ブリミルだということ。
「え?」
キュルケ達は愕然とした表情で顔を見合わせた。
燃えあがる炎のような少女の頭の中で、複雑な歯車が音を立ててかみ合っていく。

ルイズの召喚したシロ姉という存在。
水の精霊。
”たびびと”のアール・タンポポと始祖ブリミルの関係。
”たびびと”のアール・タンポポと雰囲気の酷似したシロ姉。
最後に始祖ブリミルが”イチヒコ”であると言うこと。
そして、シロ姉がイチヒコという名前に異常にこだわる事実。

結果として導き出される真実はひとつ。
始祖ブリミルが”イチヒコ”だとすると、イチヒコと呼ばれるルイズは……、魔法が使えなかった魔法使いのはずが、
いつの間にか通常では考えられない、複数の系統の究極に手が届く魔法使い。
であれば、ひょっとしてルイズの本当の特性は……、始祖ブリミルと同じ!?
「なんてこと!? それって、それって……」
「伝説の系統、”虚無”」
モンモランシーが両手で口を覆ってルイズを見つめる。いつも無表情なタバサも、幾分青ざめた表情でルイズを見つめる。
そして、目を見開いたキュルケは無言だった。
ルイズは、舌をちろっと出して笑ったあと、一転して射抜くような目でモンモランシーを、タバサを、そしてキュルケを
見つめていく。
「まあ、虚無かどうかは分からないけどね。だけど、今がその時だと思うの。
”イチヒコ”がくれた力を使うときだと思うの」
絶句するキュルケ達を横目にR-シロツメグサがルイズの頭に載っているさんしょうおをぽんぽんと叩いた。
「……わかった。さんしょうお、イチヒコ絶対守る」
「モキュー」
任せろと言うばかりに、さんしょうおが昂然と頭をあげた。
ルイズの顔を穴が開くほど見つめていたキュルケだったが、ふぅと息を吐き出した。
そして、いつもの様に不敵な笑みを浮かべた。
「仕方がないわねぇ、じゃあ、私達も一緒に行ってあげるわ、雑魚は任せなさい」
その言葉に、タバサもモンモランシーも頷いた。
「じゃあ、さっさと行きましょ?」
キュルケが食事を取った後、ずっとうずくまっているシルフィードを見つめた。
多少は休憩できただろうか? これからまた、少し飛んでもらわないといけない。大丈夫だろうか。
タバサを見ると、ちらっと自分の使い魔を一瞥した後、ゆっくりと頷いた。
さて行こうか? と振り返ったとき、ルイズの慌てた声が足を止めさせた。
「ちょっとまって、”イチヒコ”の魔法は、始祖のオルゴールがないと使えないの」
出足を挫かれたキュルケが振り返ってあきれた表情を浮かべた。
「え? そうなの? そういえば、あんた杖は? ああ、そっか、杖を置いて飛び出したんだっけ」
「ほ、ほ、ほっっといてよ。は、は、話を戻すわよっ」
ルイズはメイジであれば必ず肌身離さず持っている、メイジの魂というべき杖を持っていないことを指摘され、
恥ずかしさで顔を真っ赤にした。
キュルケのみならず、モンモランシーとタバサも微妙な視線を向けるに到って、圧倒的不利を悟ったルイズは強引に
話題を引き戻した。
「なんでか、理由は分からないけど、魔法を使うためには始祖のオルゴールを動かしてるときじゃないと駄目だって、”イチヒコ”から教えられたの」
「へぇ、じゃあ、さっさと取りに行きましょうよ。どこにあるの?」
「あそこ」
ルイズはキュルケの言葉に頷いて、王都ロンディニウムの方向を指差した。

フネが地上の騎士型ゴーレムに砲弾の雨を降らせる中、手早くこれからの動きを話し合った少女達は、それぞれの準備を
始めた。
そしてルイズはウェールズに許可を得るために艦内を走っていた。
地上から騎士型のゴーレムが投げる大木を回避するために、前後左右に揺れる艦内を苦労して走りぬける。
そして、意気込んで艦橋のドアを開けて飛び込んだルイズの目に、顔面が蒼白になっているウェールズと、沈痛な表情を
浮かべる参謀長達が映った。
思わずルイズの動きがゼリーの中に突っ込んだように止まっていく。
「ばかな、もう一度言ってくれっ!」
ウェールズの悲鳴じみた怒声が響く。あっけに取られるルイズはまるで目に入っていない。
参謀長は、その怒声を前に銅像のような固まった表情のままで繰り返した。
「繰り返します。反乱軍別働隊の急襲を受け、ハヴィランド宮殿が占拠されました。戦闘力と錬度の高さから、恐らく
この部隊が中枢部隊と思われます。ジェームズ一世陛下の安否は不明ですが、生存の可能性は極めて低い……」
「護衛部隊はどうしたっ!?」
参謀長の報告を途中でさえぎるようにウェールズが畳み掛けた。呆然とした表情がウェールズの受けた衝撃を語っていた。
父王であるジェームズ一世には、繰り返し避難を進言していたが、父は頑固として宮殿から離れることは無かった。
息子を前線において、父が責務を放り出して逃げては民の信頼を望むべくも無い。と一喝されてはウェールズも
引き下がるしか無かった。
それが……
「電光の魔法を受け、全滅と……」
ウェールズは思わず天を仰いだ。敵に宮殿を占拠された以上、取り残された者の運命は分かりきっている。特に象徴たる
国王の運命は、凄惨なものになるだろう。
思わず、国王救出の部隊を出そうかと思った。が、今の状況を考えると余分な部隊を割くわけには行かない。
ともすれば無理難題を言いそうになる誘惑をウェールズは必死に抑える。
「何故だ? 何故、宮殿を占拠する?」
ごんと大きな音がして、テーブルが震えた。ウェールズがやり場の無い憤りを拳で打ちつけた音だった。
歯軋りの隙間から出た様な唸り声で、ウェールズが呟く。
反乱軍の目的が分からなかった。確かに王国の象徴である宮殿を占拠することは重い意味を持つ。しかし、目の前の軍勢が
まだ健在な状態で後方の宮殿を占拠しても、孤立するだけで意味は無いはず。
それも、アルビオン王軍と全面衝突をさせて、反乱軍全軍を囮にして注意を逸らしたあとに別働隊が占拠するなど、
まるっきり意味が分からなかった。
宮殿占拠後の行動を見ても、ウェールズ率いるアルビオン王軍を挟撃する意図も、士気を挫くための誇示行為も
見受けられない。
戦略的な行動をまるっきり無視したような、その沈黙に、ウェールズは得体の知れない薄ら寒いものを感じた。
アルビオンを二分するほどの反乱も、この全面衝突もただの捨て駒であって、反乱軍、いやオリヴァー・クロムウェルの
本当の目的はハヴィランド宮殿ではないのか?
妄言じみた想像が浮かんだが、ウェールズは、あまりも意味が無さ過ぎると頭を振った。
どう考えても、あの宮殿にそれほどの価値があるとはとても思えなかった。
しかし、現実として宮殿を押さえられ、電光の魔法が後背を脅かし、前方には更に未知の魔法兵器に蹂躙されつつある。
ただでさえ電光の魔法に脅かされてきたアルビオン王軍の士気の低下は著しく、更に魔法も攻撃も効かない魔法兵器と
いう存在が更なる絶望を引き起こす。
父王を弑され、あがいても、せせら笑うように新たな戦力を導入してくる敵の得体の知れない強大さに、ウェールズは
無力感に苛まされた。
テーブルを殴ったままの体制で、身動きすらしないウェールズに誰も声をかけることができなかった。
戦場の真っ只中の艦橋に、不自然なほどの静寂が広がる。

ルイズは電光の魔法が出たと聞いて、すぐ後ろで優しく包み込むように立っているシロ姉と顔を見合わせたあと、敢然と
歩を進めた。凍ったような空気の中、ルイズは自分の信念を貫き通すため、一歩、また一歩とウェールズに歩み寄る。
「ウェールズ殿下、電光の魔法はシロ姉が止めます。そして、あの騎士ゴーレムはわたしが止めて見せます」
ウェールズの横で、ゆっくりと片膝をついたルイズは、艦橋にいた全員の視線が集中する中、静かだが芯の通った声で
宣言した。その声は静寂の空気を切り裂いて、全員の耳を打ち据える。
無力感の嵐の中に翻弄されていたウェールズも、ルイズの言葉に、その凛とした声に、はっとしたように顔を向けた。
「ルイズ卿……」
ゆっくりと立ち上がったルイズは、そっと血の滲むウェールズの手を取った。
「わたしはわたしの信念の為に、ここにいます。ウェールズ殿下は御自分の守るべきものの為に、立ってください。
立ち上がってください。まだ俯くには早すぎます。もう少しだけ戦ってください。わたしがゴーレムを倒し、そして
シロ姉が電光を抑えれば、この戦いは必ず勝てます」
ルイズの信念の灯った瞳は、嵐の中で難破したようなウェールズの心の中で、ひとつの極星のように輝いた。
握られた手が震えていることに気がついたウェールズは、はっとルイズを見つめた。
少女の唇は真っ白になって緊張に微かに震えている。
自分の言葉の意味と、自らに課した責任の大きさに、ともすればくじけそうになっている。
しかし、それでもその目は未来を見据え、自分の道を信じていた。
ルイズの決意を見たウェールズは、自嘲気味な苦笑いを浮かべる。こんなときこそ自分がしっかりと立たなければならない。
それなのに、自分の責任を忘れ、こんな年若い少女に支えられているようでは、アルビオンを背負って立つこともできない。
ウェールズは、無力感を振り払うように頭を振った。
伏せた目を上げ、そして再びルイズを見つめる瞳には、強い光が戻っていた。
「……そうだな。すまない、まだ、戦いの真っ最中だな。ありがとう」
「いえ、では、わたしはすぐに出ます」
その目を見て、ほっとしたルイズは踵を返して、微笑んで迎えるシロ姉のところに走りよる。
「護衛を出そう」
「いいえ、ウェールズ殿下、護衛は必要ありません」
ウェールズの言葉に、ルイズが振り返った。
「しかし、危険すぎる」
ルイズの肩にシロ姉の繊細な手が置かれる。
下からシロ姉を見上げて微笑んだルイズは、シロ姉の白磁のような手に、そっと自分の手を重ねた。
そして、眉根を寄せて重ねて言うウェールズに、寄り添った白と桃色の二人が向き直る。
「わたしにはシロ姉がいます。そして力強い友人がいます。シロ姉が、友人達がわたしを守ってくれます。
だからわたしは気兼ねなく戦えるんです」
「……わかった」

ルイズ達が出て行ったドアをじっと見つめながら、ウェールズが口を開いた。
「参謀長。陸の軍を一時戦線から後退できるか?」
「難しいですが、やってみましょう」
何か一つ壁を破ったようなウェールズの口調に、自然と参謀長も身が引き締まる思いがした。その一言で、一転して
ピリッとした空気が艦橋に満ち溢れる。
全員の背筋が自然と伸び上がり、顔が上を向く。彼らは自らの指揮官が真実の主君になったことを直感的に悟っていた。
「上はどうだ?」
「はっ、先の我が軍の攻撃で、半数は撃沈しております」
「そうか、ではまだこっちのほうが有利だな。今は電光は意識から捨てろ。宮殿に攻め込まない限り悩まされることは無い。
只の砲台でしかない。監視だけ強めておけ。竜騎士たちは敵のフネを燃やせ。それとフネはゴーレムに砲撃を集中させて
陸が撤退できる余裕を作れ」
「はっ」
ウェールズの立て続けの指示に参謀達が活発に動き始める。
そしてウェールズは、凄みのある目で前を見つめた後、手を振りかざした。
「イーグル号を前面に出せ、アルビオン王国はまだ終わっていない」
「御意」
参謀長も、今度は反論しなかった。一礼して、ウェールズの指示を操舵手に伝える。
イーグル号がゆっくりと前進を始める。
「伝令っ! 全軍に伝えろ。
ウェールズ・テューダーは今ここにいる。そしてこれからもここにいる。
ウェールズ・テューダーがいる限りアルビオンは決して諦めない。何があろうとも、決して諦めない」
「はっ!」
ウェールズは、イーグル号の砲が今までの鬱憤を解き放つかのように絶え間なく黒煙を吹き上げ、船体を揺らすのを
感じていた。
前を見たまま、斜め後ろに控える参謀長に、思いを述懐した。
「スタンリー伯爵……我々は彼女達に、トリステインにとてつもない借りを作っているな」
「……借りはそのうち返せばよろしいでしょう。返す為にも、とりあえず今は借りておきましょう」
「……そうだな」
参謀長の静かな声に頷いたウェールズは、厳しい目を戦場に向けた。
戦況がどう変わるのか、ウェールズ達にはまだ分からなかった。

らてぃらてぃらてぃら♪ らてぃら♪ らてぃらてぃらてぃら♪ ら~らららら♪ じゃんっ♪
らてぃらてぃらてぃら♪ らてぃら♪ らてぃらてぃらてぃら♪ ら~らららら♪ じゃっじゃんっ♪