るるる-9

Ring-a-Ring-o' Roses,
輪になってバラの花輪を作ろうよ
A pocket full of posies,
ポケットに花をいっぱいに
Atishoo! Atishoo!
ハクション!ハクション!
We all fall down.
みんな倒れちゃった

ぽんぽんぽん、ぽ、ぽぽぽぽぽん♪ ぽかぽかぽん♪ ぽ、ぽぽぽぽぽん♪

ぶくぶくぶくぶく

何十人も一緒に入れるような大きさで典雅な彫刻や精緻な壁画が描かれ豪奢な湯殿。はっきり言って尋常ではないほど贅を
極めたラ・ヴァリエールの浴槽の中で、足を抱えたルイズが顔を真っ赤にしていた。

ぶくぶくぶくぶく

顔の半分を湯につけて無意味に泡を立てているのは、何もお風呂が嫌いだからじゃないわ。
いいえ、むしろ体が楽になってぽかぽかするのでお風呂は大好き。
でも今のわたしには、いつものようにお湯を楽しむ余裕なんてこれっぽっちもない。それもこれも
「何? イチヒコ」
肌が触れるほど……と言うより、横にぴったりと寄り添ってるシロ姉のせいだ。
わたしから見ても、魅力的な体のライン、理想的な胸、肌のきめ細やかさ。とどめはその陶磁器のような白さと、ほんのり
上気して艶やかさを持った美しい顔。女のわたしから見てもドキッとするわ。
それに引き替え、わたしの胸が笑えるくらいぺったんこで悲しくなってくる。
ちろちろとシロ姉の方を見ていたら、ばっちり目があった。
ぶがぼぉ
なぜかシロ姉が頬を染めて、ちょっと視線を俯かせるから、思わず慌てて滑って、お湯の中に沈んでしまった。
溺れかけたところを、シロ姉に引き上げられたけど、この体制は……

そもそもの事の発端はカトレアの一言だった。夕方の出来事で、埃にまみれた母親とシロ姉に夕食前に湯浴みをしては
どうか?と進言した。
その言葉にルイズは一瞬顔を引き攣らせた。シロ姉の反応が容易に予想できるからだ。そして、想像した通りにシロ姉は
ルイズと一緒に入ると言い出した。
自分の魔法を使う前に、遍在すべてが取り押さえられるという、いまだかつて想像すらしたことのない、圧倒的な負け方に
茫然としていた母親は、エレオノールと公爵に付き添われて固い表情のまま無言で奥の部屋へ引っ込んだ。
それを横目に何故か嬉々としたカトレアが侍従達に指示をだして、なし崩し的に湯殿に連れて行かれて今に至る。

「イチヒコ、大丈夫? ……人工呼吸、する」
「え、あ、い、いや、だ、だいじょうむぐ……」
何故か座っていて滑るという、妙な挙動を示して溺れかけたルイズを引き揚げたR-シロツメグサは、ぷはっと息を吐いて
慌てるルイズの後頭部に手をまわして、抱きしめた体制のまま”人工呼吸”を開始した。
「んーっ! んーっ んん、ん」
目を見開いて拒絶しようとしたルイズだが、いつのまにか、その行為に慣らされたように、それとも心境の変化なのか
すぐに力が抜けていった。
風呂の途中で既に裸であるということも、心理的障壁を低くして低くしていたのだろう。
シロ姉の手がルイズの腰に回され、二度と離さないようにぎゅっと抱きしめる。肌と肌の直接のふれあいに、ドキドキする
鼓動をルイズは隠せなかった。
お湯に温められたシロ姉の体とルイズの体が密着する。いつしか、ルイズの両手もおずおずとシロ姉の背中に回されていた。
自分が抱きしめられていることに気づいたシロ姉は、何とも言えないような幸せな表情を浮かべ、ルイズを強く抱きしめる。
「……ぁあぁ」
いつしか、シロ姉の舌が、ルイズの舌と絡まり始める。おずおずと出されたルイズの舌を、受け止める様にシロ姉の舌が
ルイズに入り込む。舌を絡ませ、つついて、軽く甘噛みをする。
最初はおっかなびっくりだったルイズも、シロ姉の舌に誘われるように徐々に大胆になっていく。
ルイズの舌が誘われるように突き出され、シロ姉に入り込む。シロ姉もその舌を受け止め、そして優しく迎え入れる様に
吸いつく。
交互に繰り返される行為に、ルイズには二人の唾液が入り混じって体が溶けていくような感覚にとらわれていた。
「んふぅ、あ、ん、んんっ」
ルイズの腕が腰から徐々に上にあがっていき、シロ姉の首を抱きかかえるようになる。
お湯とは異なるぴちゃぴちゃという音が浴槽内に木霊し、その音が聞こえたルイズは恥ずかしさで身を悶える。
湯気に包まれ、魔法のランプの光に照らされた二人の間に糸を引く光が繋がり、真っ赤になってとろんとした表情の
ルイズから口を離したシロ姉は、そのまま首筋に吸いついた。
「はぅんん~~、あっ、あっ、ああぁん」
首筋から鎖骨に、そして耳の方にキスの雨を降らせていったシロ姉が、耳たぶを甘噛みした時、キスを受けるたびに
絶えず繰り返される快感の漣が、巨大な津波となってルイズを襲った。
足ががくがくと震え、花芯からゆっくりとした電撃のようなうずきが背筋を伝い、首筋に到達する。
今まで感じたことのない感覚に全身を鳥肌が覆い、神経が鋭敏になっていく。
シロ姉の肌の感触が、手の感触が、そして胸の感触と頂点で固くなっている蕾のような先端がルイズの肌に触れるたびに、
しびれるような気持ちよさが体に突き刺さっていく。
「……イチヒコ、すき、だいすき」
耳元で濡れた声で囁かれ、ルイズはビクンと体を震わせる。頭に霞がかかったようにぼおっとしているルイズは、
その言葉に、眼尻に涙を浮かべる。今のルイズにはもう、相手の性別も何も関係がなかった。ただ、愛しい。
それだけだった。
「わたしも、わたしも、すきぃ」
その言葉を聞いたシロ姉は、抱きしめたままゆっくりと体を倒した。
浴槽の縁を枕のようにして体を横たえたルイズは、お湯がいつの間にか水飴のようにねっとりとしていることに気がついた。
そのおかげなのか、体が支えられるように水に浮かんでいる。
「あ、ぁ、や、こ、こわい」
赤い顔で半分虚ろな表情のまま戸惑うルイズに、シロ姉は「大丈夫、ドレクスラーで変質させただけ」と、いつもの様に
訳の分からない言葉をかける。そして、おもむろに粘性のある”元お湯”をすくい取り、ルイズの胸に落とした。
そのままルイズの胸に手を這わせ、そして知らず知らずの間に硬くつんととんがっているピンクの突起を指でつまむ。
「えっ?、えっ、あ、ひぁ、ああああああぁぁぁぁん」
薄いがしっかりと少女を主張する胸を揉まれ、シロ姉の微妙な指の動きに今までに数倍するむず痒いがゾクゾクとした
感覚がルイズを蕩けさせ、刺激を受けるたびに背筋が弓の様に跳ね上がる。
半開きの口からは、熱い吐息が絶え間なく漏れ、徐々にその吐息が荒くなっていく。
快感の嵐の中で、筏に乗っているようなルイズは無意識でいやいやをするように首を横に振った。
「イチヒコ、もう、はなさない」
それを見ていたシロ姉は感極まったように強く抱きしめた。そして、右手がルイズの胸から腹へすべり、脇を抜け、
蜜を出す花壺に到達した瞬間。
「ーーーっんんん!」
目を見開いて息を止めたルイズが、全身を硬直させてビクビクと震え、やがてぐったりと弛緩した。
一瞬呆けた表情のシロ姉だったが、聖母の様に微笑んでルイズをゆっくりと抱き起こした。
しばらくして、シロ姉の腕の中で朦朧とした意識から回復したルイズは、真っ赤な顔で下から顔を見上げ、そして、
堰を切ったように涙をぽろぽろとこぼした。
「ふえ、ふぇ、ふぇぇぇん」
「イチヒコ、ずっと一緒、約束、する」
「うん、うん」
ルイズはシロ姉の透明な頬笑みと、万感の思いが籠ったその言葉に、泣きながら頷き返して、そして、シロ姉を抱きしめた。
しっかりと抱きかえすシロ姉の耳に戸口から遠慮がちな声が掛けられた。
「あ、あ、え、えーと、シロ姉さま、ルイズ。さすがに長湯です……」
カトレアが真っ赤な顔で戸口に、立っていた。


ラ・ヴァリエール城の大きなダイニングは既に土メイジによって直されていたのか、調度品は別だが一応の体裁は
整えられていた。
遅い夕食の時間になり、ヴァリエール家の面々がそろって巨大なテーブルに座って食事を取り始める。
当然の様にR-シロツメグサも、いつものように無表情ともとれるほど静かな表情で末席に陣取っていた。
未だに青い表情の公爵、公爵夫人と、微妙な視線をルイズ達に向けるエレオノール、そして、真っ赤な顔をしている
カトレアとルイズ。
給仕たちも、夕方のようなことがあっては、と僅かな隙すら見せないように完璧にこなしていた。
気まずい雰囲気の静かな食事が過ぎ、デザートの時間になったころ、ヴァリエール公爵がちらっと夫人に目くばせをした後、
重たい口を開いた。
「ルイズ」
「は、は、はいーっ」
強張った表情ながらも、公爵としての矜持をもった雰囲気と静かな口調に、ルイズは雷を落されたかの様に反応した。
ぎしぎしと、油を差していない歯車のように軋みながら引きつ言った顔を父親に向ける。
デザートのチーズケーキにフォークを刺そうとしていたルイズの横のシロ姉の目が細まり、剣呑な光を放ち始める。
「我がヴァリエール家は、トリステイン王家に仕える古き一門であると自負している。
そして、その責任は政に武に全力をもって当たることを意味する」
「は、はい」
「名門であり武門でもあるということだ。
そして、ヴァリエールの系譜に連なるものは、人に認められる力を誇示せねばならない」
父公爵が何を言いだそうとしているのか分からないルイズではあったが、自分が怒られている訳ではなさそうだと思い
ほっと心の奥で溜息をついた。
その様子を見た、R-シロツメグサも尖った雰囲気をおさめて、チーズケーキに集中し始めた。
「そして、長いヴァリエール家の歴史の中でも、屈指の力を誇るカリーヌをあっさりと破るお前の使い魔という、
アール・シロツメグサ卿の力を座視するわけにはいかない」
公爵が自分の発した言葉でルイズ達が、どう反応するか確かめる様にじっと見つめる。
”あの娘”という呼び方から卿付きになったのは、そのメイジとしての実力を評価したものなのだろう。
父親の目をまっすぐと見つめ返すルイズには誇らしげな光が浮かんでいたが、同時に不安な表情も見え隠れしていた。
そんな愛娘の心の内を読み取った侯爵は、一転して不敵な笑みを浮かべた。
「で、だ。カリーヌとも相談したのだが卿を我が一門に迎え入れようと思う」
「父さまっ」
「だまりなさい、エレオノール。お父さまのお話はまだ終わっていません」
父親の爆弾発言に一番上の娘は目を剥いて抗議したが、母親の氷の様な一喝で不承不承口を閉ざした。
助けを求めるような視線を父親に向けるが、諦めろとばかりにゆっくりと首を振るのを見て、溜息とともに目の前の紅茶に
口をつけた。
「それって……」
「だが、ルイズ、お前と結婚するなどと言うことはあり得ない。女同士での結婚など許されるはずがない。しかし、しかしだ、
ヴァリエール家として、アール・シロツメグサ卿の力は無為にしておく訳にもいかん」
「父さま……」
両手を口にあてて、がたんと音を鳴らして立ち上がったルイズに、寂しいような苦笑する様な微妙な表情の公爵が
落ち付けとばかりに手を振った。
そそくさと侍従がルイズの椅子を直して恭しくお辞儀をする。
「正直言って、アール・シロツメグサ卿がお前を奪って逃亡することを考えると、我々では立ち向かうことも困難かも
しれん。であれば、お前たちの意見を尊重して一緒にいれる様に取り計らうしかあるまい」
「えっ……」
椅子に座りなおしたルイズを横目に、まさに花嫁を送り出す父親のような表情を浮かべた公爵は、困り切った笑顔と共に
全面降伏に近い条件を出した。
結局の所、そう言うことだった。R-シロツメグサが本気になって実力行使に出て二人で駆け落ちなぞされた日には
目も当てられない。そんな事態になったら、公爵の知る限り誰も止めることができない。
軍隊を差し向ければ別かもしれないが、駆け落ちした娘の為に軍隊を動かすことになったら、物笑いの種になり
ヴァリエール家の名誉は地に落ち、トリステインは列強諸国から嘲笑されるだろう。
ただ、味方に引き込む事が出来れば、”烈風”としてある意味伝説となっているカリーヌを超える、比類なき力を
手にすることができる。
末の娘を外戚に嫁がせると考えれば悪い条件ではないかもしれない。それにあのカトレアがああも強硬に支持しているのは
それなりの理由があるのだろう。
父親として娘が離れるのは寂しいが、一方公爵としての自分は娘一人を餌に強力な使い手を身内に引き込めるのであれば、
それはそれで問題ないという嫌になるような計算が立てられていた。
子供が見込めないことだけが残念だが……。
自分の打算的な判断に苦いものを感じながら公爵は娘を見た。自分にまっすぐに向き合う末娘。その眼を見てふと気がついた。
この子はこんな風に私を見つめ返していただろうか?
学院に入る前はおどおどとしていなかっただろうか?
いつも、泣きながら隠れていた末の娘が、しっかりとした足取りで歩き始めたことを実感する。
ふっとその横で、ルイズを心配そうに見つめる青と白の女性が目に入る。
前代未聞だが娘の使い魔として召喚されたという彼女がいて、初めて娘はしっかりと立ち上がれたのだろう。
あの盗賊を捕まえたというのも彼女に違いない。
確かにルイズはスクウェアクラスの力を持っているのは事実だが、呪文の洗練度合いは、まだまだひよっこの域を
出ていない。今のルイズでは前線に立つドットメイジにすら勝つことはできないだろう。
軽く頭を振って思考を頭から振り払った公爵は、権謀策謀を張り巡らせる政治家としての悪戯っぽい微笑を浮かべる。
「かなり手がかかるが卿を一代貴族として王家に申請しようと思う。我が一族に繋がるものとして。お前と一緒に
ル・プロヴァン辺りを任せることにすれば、カトレアのラ・フォンティーヌとも近くていいだろう。あそこは薔薇の園が綺麗だぞ」
「……お父さま、ありがとうございます」
安堵感と、家族に認められたこと、そして、父親からの温かい言葉に、涙ぐんだルイズが手の甲で眼尻をごしごしと擦る。
その背中にそっと手をあてているR-シロツメグサに向かって、公爵は軽く頭を下げた。
「それと、アール・シロツメグサ卿、我が娘カトレアの命を救っていただき感謝の言葉もない」
「気にしない、イチヒコが喜ぶから、治しただけ」
「……」
「シロ姉さま……」
幾多の貴族達も萎縮するヴァリエール公爵の炯々たる視線を、身じろぎもせずに見つめ返すR-シロツメグサは、
そっけなく返した。
父の言葉にエレオノールはゆっくりとカトレアを見つめて、やはり信じられないと頭を振り、カトレアはR-シロツメグサの
言葉の中に微かな、本当に微かな戸惑いの様な感情の揺れを感じ取って微笑んでいた。
多分自分のしたことの反響に、感謝にどう反応していいのか分からないのだろう。
「ルイズ」
「は、はい」
「力に溺れた愚かな母からの忠告です。心して聞きなさい」
それまで黙っていた公爵夫人が横に座っている公爵を一瞥した後、口を開いた。
いつもと変わらぬ口調だったが、微妙にさばさばしていて、重圧が少し取れた様な印象があった。
ルイズは今までにない母の言葉に重いものを感じて自然と背筋がのびる。ただ今までのように委縮して硬直するのではなく、
何かピリッとした心地よい緊張感が、ルイズをそうさせた。真っ向から母の視線を受け止める。
娘の雰囲気の変化を感じたのか、口に微笑を浮かべたカリーヌは一言一言ゆっくりとルイズに刻みこむ。
「アール・シロツメグサ卿の力は強大です。そして、ルイズ。卿は貴方の為に何でもしてくれるのでしょう。
しかし、安易に頼ってはいけません。卿の助力を仰ぐに値する努力を行うことを忘れてはいけません。
そうしなければ、貴方は自分を見失いましょう。そのような愚か者には誰も着いて来てくれはしません。
あなたの自身の力と、使える力を混同してはいけません。いいですね? 常に自分を律しなさい」
「はい、お母様」
初めてだった。怖い怖いという印象しかなく、おびえるばかりの母だったのに、しっかりと目を見て話を聞くことができた。
言葉の奥に秘められた母の想いというものを、ルイズが始めて実感することができた瞬間だった。
公爵夫人は夫と同じような視線でR-シロツメグサをじっと見据える。
「それとアール・シロツメグサ卿、伏してお願い申します。ルイズの言うことをすべて聞いてはいけません。
たとえ一時的にそれでルイズが喜んでも、ただそれだけです。本当にルイズのことを思うのであれば、ルイズ自身に
努力させることを忘れないでください」
「何故?」
R-シロツメグサは、イチヒコの母というマンカインドから意外な言葉を聞くことになった。
それは今まで自分がイチヒコに行っていたことを真っ向から否定するものであり正直戸惑った。
であれば私は何をすれば喜んでもらえるのか? どうすればいいのか?
よくよく考えてみれば、今までの行動は、”イチヒコ”の反応をみることでしか分からなかった。
すべてはR-シロツメグサの主観的なものであって、他のマンカインドに心理状態を説明してもらった事もなかった。
そもそも、マンカインドは”イチヒコ”一人だったのだから仕方がなかったが……。
「人間とは、弱いものです。労せず与えられるものには、喜びも薄いものです。
そしてすぐに与えられて当然と思い始めます。ですが、与える方はそんなことは気が付きません。
昨日と同じものを今日与えると、昨日は喜んだのに、今日はあまり喜ばなくなります。一方的に与えるばかりだと、
人間は堕落します。そして、もっともっとと際限がなくなります。
ルイズとて人間です。そうなってしまえば取り返しがつきません。その点だけはよろしくお願いします」
「そんな……だから、イチヒコは……わかった」
イチヒコの母は、マンカインドの心理を教えてくれた。それは私にとっては衝撃的な事実であって信じられないような
事柄だった。1+1は昨日計算しても、明日計算しても永遠に2だと思っていたものが徐々に減っていくということ。
チャペックしか居ない世界では当然だった計算がマンカインドの中では異なる……。
確かに、”イチヒコ”の行動や反応を思い起こすと確かに納得することばかりだった。
同じ刺激を与えているはずなのに、反応が徐々に劣化してくる。ぷれぜんとをあげた最初の時はあんなによろこんだのに、
徐々に喜ばなくなり、そしてぷれぜんとをくれないと嫌だと言うようになった。
言うことを聞いてもらうために、ぷれぜんとをあげるのは嫌だった。でも、それ以外に方法を知らなかった。
でもそんな方法だけじゃないらしい、……イチヒコの母には色々と教えてもらおう。
たしか”まんが”でも、相手の親と争った後、仲良くなってみんな幸せになることが多かった。
R-シロツメグサはカリーヌの言葉に大きく頷いた。

「よかったわね、ルイズ、あの母さまがあんなに喋ってくれるってことは珍しいわ。ちゃんと認められたのね」
「……うん」
「ほら、泣かないの」
食事も終わり、いつものようにカトレアの部屋で、クッションを抱えたネグリジェのルイズは、夕食のことを
思い出したのか、涙ぐんでいた。
そんな姿を微笑ましく見つめるカトレアが、ルイズの頭をゆっくりを撫でていた。
「うん、でも時々魔法失敗するし……とても一人前なんかじゃないし……」
「そうそう、それ、変ねぇ」
抱え込んだクッションから顔をあげたルイズが拗ねる様に口を尖らせた。
そう言えばエレオノール姉さまも、ルイズの話を聞いておかしいわねぇと言っていたことを思い出したカトレアが、
人差し指を顎に当てて小首をかしげた。
部屋の端で、部屋飼いのフクロウと戯れていたシロ姉が、その言葉を聞いてふっと顔を向けた。
視線に気がついたルイズとカトレアがシロ姉を見つめる。
二人の視線を集めながら、シロ姉はゆっくりと口を開いた。
「私がいないから、失敗する」
「え?」
「私がずっと一緒にいれば、失敗しない」
何処となく自信満々で宣言するシロ姉に、たぶんシロ姉がいうのであればそうなのだろう。とヴァリエールの娘達は
理屈ではなく感情で納得した。
エレオノールがそこにいたら、どういうことよ? ちゃんと説明しなさいよ! と、爆発することは容易に想像がつくが、
幸いなことに、エレオノールは、夕食後に調べ物があると言って、公爵家の風竜に乗ってさっさと職場に帰っていった。
「そうなの?」
「そう」
「……でも四六時中一緒には居れないわ、授業とかあるし」
わたしの魔法が失敗するのはシロ姉がいないから。シロ姉がいれば成功する……。
確かに、魔法を成功させている時にはシロ姉がいるわ。でも、授業中とか、シロ姉が図書館にこもっている時なんかもあるし、
ずっと一緒なんてできない。もし、シロ姉とはぐれたりしたら、また魔法が使えないただのルイズに戻ってしまうの?
微妙に沈んだ気分が声と顔に出たのか、ルイズを見ていたシロ姉が真剣な表情で考え込んだ。
「……わかった、ちょっと待つ」
「え?」
「イチヒコ、笑わないと約束する」
「え? うん、いいけど」
ふっと顔をあげたシロ姉が少し赤くなった顔をルイズに向けた。なんとなく、いやとは言えない雰囲気に、ルイズと
カトレアはこくこくと頷いた。
「さんしょうお、出てくる」
ふっと息を吐いたシロ姉が、誰かに向けてしゃべりかけた。
ルイズ達は、誰に話しかけてるの? と、戸惑ったように見つめた。その直後、一瞬シロ姉の姿か光に包まれたかと思うと、
ルイズの目の前に空中に浮かぶ微妙で奇妙な動物?がいた。
「モキュー」
シロ姉と同じ白と青でシロ姉と同じく額には赤い宝石がついている。耳の大きなウサギ……にしては、造形がどう見ても
ウサギではない。
そもそも、ガラス玉のような赤い目と、手すら食いちぎれそうな大きな口は、ウサギには……なかったように思う。
可愛いというにはちょっと……なモノが空中にふわふわと浮いていた。
「モキューッ、モキュモキュ。モキュ?」
「え、あ……」
「ちょっと恥ずかしい」
「あ、あ、あ、あ」
なんとなく、しゃべっているように、もきゅもきゅ鳴いている動物?に戸惑って、これは何?と聞こうとシロ姉に
目を向けたルイズとカトレアは揃って絶句した。
そこには、顔を赤くしたシロ姉……の面影を色濃く残した十二~三歳の少女がいた。
「モキュー?」
その頭の上に謎の動物がふわふわと飛んでぽふっと乗った。まるでここが自分の定位置だと宣言するかのように。
「さんしょうお」
そしてはにかんだ笑顔の少女のシロ姉が頭上の動物?を指差して、そう告げた。

ぽんぽんぽん、ぽ、ぽぽぽぽぽん♪ ぽかぽかぽん♪ ぽ、ぽぽぽぽぽん♪

Ring-a-Ring-o' Roses,
輪になってバラの花輪を作ろうよ
A pocket full of posies,
ポケットに花をいっぱいに
Atishoo! Atishoo!
ハクション!ハクション!
We all fall down.
みんな倒れちゃった