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えんでぃんぐ?

ら、ら~ら~らら~~♪ ら、ら~ら~らららら~♪ れっざ~でぃあむーんあせ~りか~♪

花に包まれたル・プロヴァン城の中庭で、大きな広葉樹の根元に置かれた籐の椅子に座った一人の貴婦人が、ゆっくりと
編み棒を操っている。
頭上に広がる新緑の広葉樹の葉の間からキラキラとした初夏の太陽の光が、三十前後と思しき貴婦人の手元に
差し込んでいた。

ふと、貴婦人が手を止め、顔を上げる。
とても豊かな、青みがかったブロンドの髪は軽くウェーブを描きながらその背を流れ、まるで青金のマントのように
その身を彩る。そして鳶色の印象的な瞳が、優しく咲き誇る花達を撫でていく。
柔和な風貌の中で、強固な視線が不意に煌く。何処となく鋼のような強さを秘めた美しい女性だった。
何かに惹かれる様に、ふっと眼を閉じた貴婦人は、探る様に意識を集中した後、膝の上に置いていた淡い雪色の毛糸玉を
手早く籐籠へ入れて、編み上がりつつあるショールを折りたたんだ。
ゆっくりと立ちあがって手を伸ばして背伸びをする。空を見上げた貴婦人の眼に、放し飼いにしてある風竜達の影が映った。
創始者に懐いていた巨大な一頭の雄を取り囲むように、その子供たちが周りを飛び交う。
それを微笑ましそうに見つめた貴婦人は初夏の風が吹きぬけていくのを感じた。

「んー、今年も、もうそろそろかしら」

この時期、ル・プロヴァン城は何かと忙しくなってくる。本来であれば、このル・プロヴァンは、ラ・フォンティーヌ、
ラ・ヴァリエールに隣接する、トリステイン王国の所領の一つであるはずなのだが、勃興の祖、即ち彼女の五代前の
創始者の業績によって、独立国家として認められている。

――プロヴァン大公国

小さなトリステイン王国の中にある小さな国家、花の国とも例えられる小さな小さな国は、領土の広さは別にして、列強に
畏怖をもって語られる国の名前だった。
そして、その創始者の命日にあたるこの時期には、普通では考えられないがトリステイン王国のみならず、ガリア、
アルビオン、そしてゲルマニア帝国の国王一家が一同に会するのが例年のならわしだった。
更に特筆するべきは、エルフの評議会からも代表が送られてくると言う異例中の異例の事態。
国力とはまるっきり異なる次元において、全ての国家がこの吹けば飛ぶような小さな国に敬意を表していた。

アルビオンの動乱を駆け抜けて反乱を鎮圧した若き創始者は、虐げられた王族を擁して当時のガリア王国に立ち向かった。
ガリア国王の差し向けた強力な魔法兵器を激しい戦いの末打ち破り、圧政を引いた王朝を打倒して新しい女王を戴冠させる。
そしてゲルマニア帝国初の女帝となる親友を助け、ついには奇跡的なほど穏やかな四国関係を築き上げることに成功した。
そのうえ、いつ交渉したのか定かではないが、エルフとの相互不可侵条約を結ぶ切っ掛けを作りあげ、話をまとめ上げた
稀代の魔法使いでもあった。
争乱の原因の大半を、相互理解によって消し去ろうとした、稀有なる魔法使い。
四つの系統のすべての呪文を使い、そして虚無の魔法すら使いこなした偉大なる魔法使いは、黎明の始祖ブリミルに並ぶ、
新たなる中興の祖としてメイジ達の信仰を集めることになる。
時のトリステイン女王が、その業績に禅譲を本気で打診したと言う逸話が残るほどの人物だった。
無欲の創始者はその申し出を固辞し、時の女王の泣き落としに困惑し、大公の位と独立自治を不承不承受け取った。と
歴史書に記されているほどだった。

彼女の死を悼んだ列強は、命日でもあるニューイの月を相互理解の場とし、ル・プロヴァンに集まることを取り決めとした。
いつもは静かなプロヴァン大公国だが、この取り決めによって、この時期だけは異常なまでに賑やかになる。
王家が集まっている所を、まとめて消し去ろうという企みもあるにはあるが、列強の威信にかけた警護と、
ル・プロヴァン自体の特殊性がその計画を朝靄の露と化していた。

現当主である貴婦人は、もうすぐやってくる一年の中で最も賑やかな季節を楽しみにしていた。
ただ、各王家が逗留するのはこの城でもあるので、城を振り返って、そろそろ掃除をしておかなくちゃ。と一人ごちる。

テラスのほうから、ぱたぱたという足音が響き、ゆっくりと振り向いた彼女の元に、十歳くらいの男の子が息を切らせて
走り寄ってきた。
焦げ茶の髪に鳶色の目をした優しげな風貌の少年は、大事な秘密を打ち明けるかのように、磨かれた宝石のような目を
輝かせる。

「お母様! お母様!」
「なにかしら?」
「僕、精霊様を見たよっ!」
「あらあら」
「向こうの薔薇の丘で見たよっ!」

プロヴァン公国がいまだに各国の尊敬と畏怖の対象となっているのは、ル・プロヴァン勃興の祖、
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ル・プロヴァン大公の功績と同時に、片時も離れずにその身を守り続けた、
強大なる精霊がいまだにル・プロヴァンに現れるからでもある。

偉大なる創始者は、その精霊とこの地で静かに日々を過ごしていた。
時折、母校でもあるトリステイン魔法学院で臨時の教鞭をとったり、炎の女帝や、青の女王の元に向かう事はあったが、
市場や、農牧場へ気軽に顔を出し、慈愛に満ちた目で世界を見つめた二人の姿は様々な絵に描かれている。
だが、偉大な創始者も”時”には逆らえず、精霊に手を取られながら、やがて静かに没した。
その時の精霊の嘆きは、天地がひっくり返るほどだったと、古老たちは語る。
ひとしきり嘆き悲しんだ精霊も、しばらくして消え去るように姿を消した。
しかし、例年のこの時期になると、その精霊はどこからともなく現れて祖が眠る薔薇に包まれた丘に静かに佇む。
死者を追悼する様な、まるで祖と対話する様な、溢れんばかりの想いのこもったその光景は誰も邪魔することは
できなかった。

―― ”祈りの精霊の丘”

美しい精霊が、静かに祈りをささげるこの薔薇の丘は、聖地、ラグドリアン湖に並ぶ、新たなる聖なる地として祭り
上げられ、信仰を集めるようになった。

少年は、誰も立ち入ることが許されない薔薇の丘を遠くから眺めるのが好きだった。
そして、そこで少年は精霊を見かけたのだろう。
飛び上がらんばかりの我が子の興奮に、貴婦人は苦笑しながら母親の顔を向けた。

「そうなの? じゃあ、もうすぐこちらにいらっしゃるかしらね。お茶の準備でもしましょうか。
リビングの用意をおねがいね」
「はいっ! お母様!」

そう言って貴婦人は、きらきら輝く目をした少年の髪をゆっくりと撫でた。。
歴代の当主の意向で維持管理に必要な最低限度の従僕しかいない城においては、お茶の用意や、食事の準備は、
女主人によるところが大きかった。
さすがに紅茶等は購入しているが、ジャムもパイも全て彼女の手作りだった。
息子の背中を軽くたたいて先に走らせたあと、いそいそと片付けを始める彼女の手が止まった。
ふと気配を感じて振り向くと、そこには青い髪とワインの瞳、そして額に瞳と同じ色の宝石をあしらい、いつ見ても
艶やかな光沢の白をベースに空色の縁取りの服を着た、美しい女性が立っていた。
青い髪の女性が穏やかに微笑んで、片手を軽く上げる。
それを見た貴婦人は満面の笑顔を浮かべ、ゆっくりと淑女の礼をとって、微笑み返した。

「お久しぶりでございます。
ディー・アイエスエスジー・ゼロイチゼロゼロイチイチハチディー・アール・シロツメグサディー様」

堅苦しい挨拶をすると、目の前の白と青の精霊の表情が俄かに険しくなった。

「……ロレーヌ、前に言った」

物心ついた時から、毎年会っている精霊は、昔から全然変わっていない。その姿も、口調も性格も。
人に似て人にあらざる精霊。
美しい娘の姿と裏腹に、強大すぎる力を持つ精霊。
だが、その心は人間以上に人間らしく、そして、ル・プロヴァンの名の付く者、全ての母であり、教師であり、姉であり、
そして、友人になる。
その”人”の若干拗ねたような表情を見て、ロレーヌと呼ばれた貴婦人がぷっと吹き出した。

「お久しぶりですわ、シロ姉さま。お変わりありませんか?」
「……ひさしぶり、ロレーヌ」

その屈託なく笑う表情を見て、シロ姉も表情を和らげた。
二人が並んで話していると、再びぱたぱたと足音がして、ロレーヌの息子が走ってきた。
多分準備が出来た事を報告に来たのだろう。
しかし、そこにR-シロツメグサが居る事に気がついた少年は、ぴたっと動きを止めた。
頬を微かに赤くする息子を見たロレーヌが楽しそうに、そしていたずらっ子のような表情を浮かべて声をかける。

「用意ができたのかしら?」
「う、え、う、うん。お母様」
「そう、ありがとう、でも、ご挨拶を忘れてるわよ?」

うろたえる息子を楽しそうに見た母親は、くすっと笑った。

「さぁ、練習したとおりに、シロ姉さまにご挨拶しましょうね」

その声に、少年は弾かれた様に母の顔を見つめた。
極度の緊張がそうさせているのか、顔をわずかに引きつらせていた。

、ねぇ、ほんとに言わないとダメ? お母様」
~ら、ちゃんと練習したでしょ?」

口をとがらせる息子に、両手を腰に当てたロレーヌが身をかがめ、そして人差し指で息子のおでこをつつく。

、だ、だ、だって、いきなりだから……」
いから、いいから、ほらほら、シロ姉さまも喜ぶから、あなたもシロ姉さま大好きでしょ」

この期に及んで、及び腰な息子に近寄って手を引いたロレーヌは、ふっと身を入れ替えて、後ろに回った。
息子の小さな肩に手を置いたロレーヌは、軽く突くように押した。

きって、お母様! 言わないって言ったのにっ!」
にしないの、シロ姉さまも、あなたに好きって言われて喜んでるから」

打ち明けた秘密を、当の本人の目の前で母親に暴露された少年は、顔を真っ赤にして母親に抗議した。
照れ隠しの思いもあるのだろう、必要以上に騒いでいる。
しかし、軽く頬を染めながら、でも微笑ましそうに見つめるR-シロツメグサの視線に気がついた少年は、
決意したように、深呼吸をして、目をつぶって叫ぶように言った。
その顔は熟れたリンゴの様に赤く染まる。
その言葉を聞いたR-シロツメグサは、一瞬目を見開いた後、ゆっくりと花が咲くように微笑んだ。

「おかえりっ、シロ姉っ!」
「……ただいま、イチヒコ」

ら、ら~ら~らら~~♪ ら、ら~ら~らららら~♪ れっざ~でぃあむーんあせ~りか~♪